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SWAN日記 ~杜の小径~

◆◆ ベルばらSS短編《桜花》オマケ ◆◆

◆◆ ベルばらSS短編《桜花》オマケ ◆◆

先日、UPした『桜花』の、その後〜のオマケSSです。
白鳥もオマケSS書けそうだなぁ…と思っていたところにS様からリクエストいただきました(笑)
『もしもオスカルさまが負けてしまったら…』バージョンですヽ(*´∀`)
S様、有難うこざいます^_^



◆◆ ベルばらSS短編《桜花》オマケ ◆◆
〜その後のオスカルさま〜

春にアントワネットの思いつきで始まった競馬も偶数月の開催がベルサイユで恒例となり季節は秋を迎えた。
10月の月初め。
競馬の話を聞いたル・ルーが「オスカルお姉ちゃまに会いたい!競馬を観たい!」と大騒ぎをしたらしく、オルタンス姉上夫妻とル・ルーがジャルジェ家に泊まりがけで来ていた。
最初は「ル・ルーひとりでベルサイユに行く!」と言っていたらしいが、以前ジャルジェ家に一人で来た際、周囲に散々迷惑をかけたのも記憶に新しい為に両親も同行となったらしい。ル・ルーのベルサイユ行きを反対すれば、家出さながらでジャルジェ家に来てしまうだろうから…とのことだ。
オルタンス姉上も久々の里帰りであるし、義兄上もジャルジェ当主夫妻にお会いしたいとのことで、ジャルジェ家は騒がしい程に賑やかだった。

オスカルとアンドレは出掛ける用意を済ませて玄関ホールに向かう。
今日は競馬に参加するため休暇を取っていた二人は屋敷から直接ヴァンセンヌの森に向かう予定だ。
母上と姉上には「健闘を祈りますよ。二人とも気をつけてね」と声をかけられ、ばあやを始め屋敷にいる者達にも笑顔があふれる。
オスカルとアンドレの元に駆け寄ってきたル・ルー。
「オスカルお姉ちゃま!今日は競馬に出るのでしょう!?お父様とお母様とお祖母様と見学に行くわ!お祖父様は王室の方々と見学なのですって!」
「あぁ。前回は忙しくて出られなかったのだが、ルイ・ジョセフ殿下と王妃様からお声が掛かったのでな。わたしが出走する時にはアンドレも出るぞ」
「まぁ素敵!お母様とお祖母様に聞いたけれど、一着のお願い事が全てオスカルお姉ちゃま絡みなのですってねぇ…お姉ちゃま以外は!
うふ。わたしもオスカルお姉ちゃまの女装みたいわ!ジェローデル様が玉砕覚悟でお姉ちゃまに求婚する姿も拝見したいわ〜。楽しそうですもの!」
「はぁ!?茶番劇もいいところだ。見せ物になる気は無いからな」
「だってアンドレが一着になった時の希望もオスカルお姉ちゃまの女装なんでしょう?」
女装女装と連呼する姪っ子相手に眉間に皺を寄せるオスカルを横目にアンドレはル・ルーの目線まで腰を屈めた。
「あれは衛兵隊員の希望だ。おれの希望もオスカルと同じで良いかと思ったら、兵士達からブーイングが凄くてな。衛兵隊員が三人出走するから統一希望にしたんだよ。でも今までオスカルは負け無しだからね」
負けず嫌いのオスカルの本領発揮ともいうべきか。
男達も身軽なオスカルには敵わないのだ。
「ふ〜ん、そうなのね。アンドレもお姉ちゃまの女装見たいわよねぇ。お部屋のドレスが勿体ないもの。でも、もしアンドレがオスカルお姉ちゃまを抜いちゃったら、お姉ちゃまに袋叩きにされるんじゃなくて?」
「ル・ルー!袋叩きとは何だ!」
言い得て妙。
オスカルならやりかねない。
オスカルとル・ルーの掛け合いに苦笑するアンドレに玄関ホールでは笑いが広がった。

朝からキャンキャン騒いでいるル・ルーをおいてオスカルとアンドレは玄関に向かうとル・ルーが走り寄ってきた。
「ねえ!」
両手で二人の袖を引っ張るのでオスカルとアンドレは立ち止まって腰を少し屈めた。
ル・ルーは内緒話をしたいらしい。
耳を寄せる二人に呟いた。
「オスカルお姉ちゃまもアンドレも一着でゴールしたら結婚お願いしちゃえば良いのに」
『出来るわけ無いだろう!』
二人は心で叫んだ。
いや。したくても、無理なのだ。
姪の爆弾発言にオスカルは動揺を隠せず身体を前のめりにした状態で足を踏ん張り、アンドレは目を見開いて少女をみた。
流石はル・ルーと言うべきか。
アンドレの長い片想いは知っていたらしいが、オスカルと想いが通じたことは知らないハズだ。
一昨日ジャルジェ家に来たばかりで気づいたということか。感が鋭いのも大変である。
「あら、二人とも否定はしないのね」
ケロリとしているル・ルーに負けじとオスカルは気を取り直して言った。
「アンドレ行くぞ!」
「あ、ああ」
「行ってらっしゃ〜い!」
大声で叫んだ後、二人に聞こえる声でル・ルーは呟いた。
『もう素直じゃないんだから!』
その声には聞こえない振りをして二人はジャルジェ家をあとにした。

二人で並走してヴァンセンヌの森に向かう。
「ル・ルーの奴、油断できないな」
「もともと感の鋭い子だからね」
オスカルとアンドレの雰囲気が変わったことに気付いたル・ルーがコッソリお祖母様に聞きに行ったら「よく気付いたわね。お祖父様には内緒よ」と耳打ちしてくれた。
やっぱり!とル・ルーは笑う。
二人は秘密にしていても屋敷内の一部の人間は黙認し見守られていることを知らないのだった。

ヴァンセンヌの森。
オスカル、アンドレ、アラン、ユラン、ジェローデル、フェルゼン、ジェラール、アルトワ伯。
この八名が最初の組だった。
相変わらず希望はオスカル絡みである。
「…お前たち懲りないんだな」
「いつか勝てるかもしれないっしょ?」
オスカルの溜息混じりの呟きにアランが答えると他の者達も笑って頷いている。

アントワネットの合図で競馬はスタートした。
やはりオスカルがダントツで首位に立ち、アンドレが追走する形になった。
いつも通りの展開だ。
あと少しでゴールという時、観客の貴族達の中から声があがった。
「ルヴァ〜ン…ッ!」
ル・ルーの声である。
子どもであるから声も甲高く響いた。
『え…っ?』
『ちょ…っ』
オスカルとアンドレは動揺した。
二頭の馬達も同様に。
そう。何故かル・ルーは動物と仲良くなるのが得意だった。
人懐こいアドゥールは判るがオスカルの愛馬ルヴァンも懐いていたのだ。
ル・ルーの声を認識したルヴァンが一瞬減速してしまい、追走していたアドゥールも減速しそうになりアンドレは慌てて調整した。
その一瞬の間にオスカルとアンドレが並走になり、観客からワア…ッと声が上がる。
勢いはアドゥールの方があったため頭ひとつ先行し、オスカルもルヴァンの体勢を整えたが間に合わず、そのままアンドレが勝ってしまった。
歓声があがり観客達は大騒ぎだ。
『…オスカルを抜いちゃったよ』
愛しい彼女はご機嫌斜めだろう。
〜と、オスカルを見れば、やはり頬を膨らませてご立腹。
まさかの番狂わせだ。
オスカルのルヴァンが減速したから咄嗟にアドゥールを走らせた。
すぐ後ろのジェローデルが三着目にゴールした。
他の男達にオスカルが負けるワケにはいかないのだ。
その為にオスカルが参加する時は護衛も兼ねてピッタリと追走していたのだから。
四着目にゴールしたアランは「ヒュウ!」と笑う。
「あっは!凄えなアンドレ!」
「不可抗力だ」
そう答えるアンドレを鼻で笑ったアランはオスカルを見て言った。
「何の理由があれ一着はアンドレだろ。なぁ隊長さんよ!」
「………ッ!アンドレ!陛下と王妃様の元に行くぞ」
「…了解デス」
アンドレはオスカルの後を追う。
「頑張れよ、ご機嫌取り」
「…ちょっと心配だけどね」
パン!とアランに肩を叩かれたアンドレは呟いた。

屋敷に帰ったオスカルがル・ルーをしばいたのは言うまでもないが、当の本人はケロッと笑っている。
「もうお前は観戦に来るなッ!」
仁王立ちで腕を組むオスカルをも恐れないル・ルーは普通に言い返す。
「オスカルお姉ちゃまったら大人げないわ。負けは負けよ。アンドレだって嬉しいでしょ?お祖母様とばあやさんも喜ぶと思うわ。お祖父様だって『どんな理由があれど負けは負け』って言ってたもの。わたしに八つ当たりしないでちょうだい」
「くっ…!」
「だっていつもオスカルお姉ちゃまが一着じゃつまらないじゃない。他の殿方の希望が全てオスカルお姉ちゃま絡みなのよ?番狂わせといってもアンドレが一着なら問題ないでしょ?」
「問題ないとは何だ!?」
「だってドレスはお部屋に沢山あるのでしょう?オスカルお姉ちゃまも罰ゲームだと思って諦めた方が良いと思うわ。殿方は大歓迎じゃないのかしら〜?」
「うるさい。おいアンドレ!」
オスカルの矛先はアンドレに向けられる。
「オスカル、悪かったよ。気持ちは判るけど仕方ないじゃないか。オレ以外の奴が一着になっても良かったのか?」
「それは困る」
「うん。だから今回は不可抗力でたまたまオレが勝っちゃっただけで…ごめんよ」
素直に謝られるとオスカルも冷静に成らざるを得なくなる。
「オスカルお姉ちゃま!アンドレにドレスを選んでもらえば良いんじゃない?」
ル・ルーは笑って言うと小走りに部屋を出ていった。
「逃げたな」
オスカルはフンと笑った。
理由はどうであれ負けは負けだ。
コレは認めるしかない。
ル・ルーがゴール直前のルヴァンを呼んだのは確信犯だろう。
ピッタリと追走するアンドレと、後ろを追走するジェローデルの距離も確認した上で…の確信犯。
ルヴァンが失速すればアドゥールとアンドレが前に出る。アンドレとてジェローデルに勝たせる気など無いのであろうから。

三日後にオスカルはドレスを着ることになった。
オスカル曰く、ル・ルーの言うところの『罰ゲーム』だと思って割り切ったらしい。
ドレス姿で衛兵隊にだけ顔を出せば良いかと思っていたら、王妃様とルイ・ジョセフ殿下、近衛隊や貴族の女性達から『ぜひ宮廷にも』の声があがり、衛兵隊と宮廷に足を運ぶ羽目になったのだった。

いよいよ明日はドレスを着なければならない。
夜、アンドレがショコラを持って来ると。
「本当に罰ゲームだな」
長椅子に座りブツブツと文句を言うオスカルの前にショコラを置き、自分のショコラのカップも置いて隣に座った。
「本当にゴメンよ。オレが抜いちゃったから」
「お前、反省なんかしてないだろう」
「すぐ後ろにジェローデルもいたし、アランもいたんだぞ」
「…確かに彼奴らには負けたくない」
玉砕覚悟で二度目の求婚するジェローデルとオスカルの姿は茶番劇になるだろうしベルサイユでの語りぐさになりそうだ。一度は父上から求婚の許可を得ているジェローデルにしか出来ないだろう。
もしアランが勝っていれば『勝負に勝った』と一生言われそうだ。互いに負けず嫌いなのだから始末が悪い。
「まぁ…ル・ルーの確信犯の悪戯だが、負けは負けだ。でもアンドレに負けたのなら仕方ない」
「負けた負けたと連呼するなよ。お前らしくない」
「でも負けたのは事実だ」
口を尖らせるオスカルにアンドレは笑う。
「やっぱり根に持ってるんじゃないか」
「ル・ルーにしてやられたんだ。今回だけは『罰ゲーム』に付き合ってやるが次は無いからな」
そう言ってオスカルはショコラを飲む。
今夜は少し甘めのショコラだ。
オスカルの体調や気持ちにあわせて甘さを調整するのもアンドレは上手い。
オスカルの口元が綻ぶ。
「うん。お前が出走する時はオレが追走するから大丈夫」
アンドレはオスカルの額にキスを落とした。
「やっぱりアンドレのショコラは美味い」
「それは良かった」

長椅子で寛ぎながら、アンドレは言った。
「…ドレスはオレが選んで良いの?」
「ああ。…派手な色は嫌だ。レースがゴテゴテついているのも嫌だ。コルセットの締め付けがきつくなくて動き易いのがいい」
「注文も多いね」
アンドレは責任重大だなぁ…と言いながら二人で奥にある衣装部屋に向かった。
普段使用している衣装部屋の奥にある部屋だ。
以前着用したオダリスク風のドレスは着られない。

アンドレが選んだドレスは淡いパールグレーのシンプルな形のものだった。
オダリスク風のように胸元は出ないタイプで、同色のレースが襟元と袖口にあしらわれている清楚で落ちつきを感じるデザイン。
オスカルが動き易く、肌の露出も少ないものだ。
髪飾りと首飾りは真珠を使ったものをアンドレは選んだ。

ばあやと侍女達に朝からもみくしゃにされながらオスカルの準備が整ってゆく。
母であるジョルジェットは微笑んで様子を見ていた。
この日に帰宅するオルタンス一家…特にル・ルーは大騒ぎしながらオスカルの着替えをみてチャチャを入れ、着替えと髪のセットが済んだ姿を見てニンマリと笑った。
「オスカルお姉ちゃま!アンドレが選んだドレスとても似合ってるわ〜!」
オルタンス姉上と義兄上にも「素敵」だの「目の保養」だの散々言われ、ジャルジェ家でお披露目パーティーのようになってしまった。
「本当に罰ゲームだな」
ぼやくオスカルに屋敷の中で笑いが広がる。
遠方のオルタンス一家が帰宅の路につくのを見送ったオスカルとアンドレは馬車に乗り衛兵隊に向かった。

衛兵隊では夜勤明けの者達まで何十人も兵舎の前で待っていた。
「何だか凄いことになってるな」
「皆んな楽しみにしていたらしいよ」
「ふん。とんだ罰ゲームだ」
馬車を降りるオスカルをアンドレが手伝う。
車止めで待機していたダグー大佐が困ったように言った。
「隊長、おはようございます。あのですね…朝からお疲れのことと思いますが、兵士達が朝の点呼だけでもしてほしいと申しておりまして…」
「この格好でか!?」
「そのお姿が良いそうなのです」
「仕方ないな…これも罰ゲームのひとつか」
つかつかと歩いてゆくオスカルにダグー大佐は首を傾げた。
「今回は『罰ゲーム』だと割り切るらしいです」
アンドレの言葉に大佐も「なるほど」と頷いた。
「アンドレ、准将は慣れない装いと靴であのように颯爽と歩けるとは…流石だね」
「体幹がしっかりしているのでしょうね」
また大佐は頷いている。

衛兵隊の兵士達は『目の保養』とばかりにオスカルに魅入っていた。
『ヒュウ』と口を鳴らすアランは無視してオスカルは点呼を始めた。
〜が、点呼はいつも通りのオスカルだ。
たまらずにアランが声を上げる。
「隊長さんよ。せっかく女装してんだから、もう少し女らしく…さっき馬車から降りる時にアンドレの手ぇ借りたみたいにさ」
「うるさい!わたしは今日忙しいんだ!」
ドレス姿なのに仁王立ちで腰に手をあてるジャルジェ准将…それでも似合うのはオスカルゆえ。
馬車の乗り降りでオスカルがアンドレの手を借りたのは、互いに通じる阿吽の呼吸の如く。
〜オスカルがアンドレを求めたから。
〜アンドレも手を添えたかったから。
動きやすいデザインのドレスと慣れない靴とはいえ、オスカルがひとりで動けぬ筈が無いのだから。
「あと残る罰ゲームは宮廷だな」
点呼を終えた後のオスカルの言葉に兵士達からドッと笑いがおこる。
オスカルは後をダグー大佐に任せ、兵舎を後にした。
「アンドレ有難うぅ〜!」
兵士達は口々に声を上げている。
「宮廷も頑張れや、二人さん!」
笑うアランに二人は背中越しに手を上げ、馬車に乗り込んだのだった。

宮廷に到着し、アンドレの手を借りて馬車を降りると直ぐに近衛のジェローデルとジェラールがやって来た。
ジェローデルは深く頭を下げた。
「ジャルジェ准将、お待ちしておりました」
「ここまで出迎えか?」
「本日の宮廷は混み合っておりまして…」
「ふん、嬉しくもないぞ」
ジェラールもオスカルに頭を下げた。
「ジャルジェ准将…美しいです」
「言葉使いはこのままだがな」
オスカルの言葉に二人は「准将らしいです」とクスクスと笑う。
ジェローデルはオスカルに言った。
「エスコートいたしましょうか?」
「一人で大丈夫だ」
そう言ってオスカルは颯爽と歩いて行く。
ジェローデルとジェラール、アンドレはオスカルの後を追うようについて行った。
入口の階段や段差も何のその、ドレスの裾をもって軽やかに駆け上がてゆく。
流石オスカル嬢、見事です。
ジェローデルは言った。
「流石です。女性の装いなのに体幹が凄いですね。早く歩ける上に段差も問題なく駆け上がれるとは」
ジェローデルとジェラールが感心する中、オスカルはどんどん進んでゆく。
鏡の間にオスカルが颯爽と入ると、ざわついていた周囲が静まりかえった次の瞬間、歓声や圧感や溜息…様々な声が響いた。
オスカルの両サイドには現近衛連隊長のジェローデルと副官のジェラール。
アンドレは入口付近で待機する。
オスカルの右側にいるジェローデルは言った。
「オスカル嬢…玉砕覚悟ですが、此処で求婚してもよろしいですか?」
「やめろ。茶番劇だ」
左側にいるジェラールも続けた。
「隊長…いや、ジャルジェ准将、一曲踊っていただくことは可能でしょうか?」
「スマンな。女性パートは苦手なのでコケる訳にはいかん」
オスカルの言葉に二人は大袈裟に落胆し、周囲から笑いがおこる。
「お前達、楽しんでいるだろう。競馬に勝ったのはアンドレだぞ。あいつの希望は衛兵隊統一でわたしの女装だからな。しかし、せっかくだから二人に王妃様の元までご同行願おうか」
「「喜んで」」
微笑むジェローデルとジェラールの手をかりて、王妃の元まで歩き出した。
三人の立ち姿は絵になるような美しい光景だ。

「ようこそオスカル。素敵だわ」
「王妃様、この度はお招き有難うございます。この装いは罰ゲームの一環と割り切って此方に参りました」
「罰ゲームとは…オスカルらしいわね」
「オスカル綺麗!これ、お母様と選んだ庭の薔薇を花束にしたんだ」
ルイ・ジョセフが花束を差し出すと、オスカルは屈んで頭を下げ、花束を受け取った。
白と赤、淡いピンクの薔薇が花束になっている。
「ルイ・ジョセフ殿下、有難うございます。王妃様と薔薇を摘んでくださったのですね」
微笑むオスカルにルイ・ジョセフも大きく頷いた。
アントワネットとジョセフと会話を楽しんだ後、オスカルは言った。
「王妃様、わたくしは慣れない装いで少々疲れておりますゆえ、これにて失礼させていただきたいと思います」
「まぁ…残念。またお待ちしていますよ」
「次は負けませんので」
オスカルの言葉にアントワネットはクスクスと笑って「頑張ってくださいね」と頷いた。
麗しいオスカルの姿は周囲の注目の的だ。
オスカルは鏡の間にいる貴族達に微笑み、口を開いた。
「皆さま、わたくしの罰ゲームはこれにて終了とさせていただきます」
腰を屈めて上品に頭を下げる。
その姿の美しさに周囲からはホゥと声が上がっている中。
「アンドレ!帰るぞ!」
いつものジャルジェ准将の声でアンドレを呼んだと思うと、颯爽と歩きだした。
片手に花束、片手はドレスの裾を持っているのに速さも歩幅も見事なまでに素晴らしい。
出入り口付近にいたアンドレが一歩前に出ると、オスカルは右手でアンドレの腕を掴み、颯爽と宮廷をあとにした。

数分の出来事に鏡の間は静まり返り、騒めきを取り戻してゆく。
「流石はジャルジェ准将」
「オスカルさま素敵!女性の装いでも格好良いわ!」
貴族達は口々にオスカルを誉める中で、ジェラールはジェローデルに言った。
「あの、ジェローデル隊長。ジャルジェ准将…あの体幹の良さで女性パートで躓いたりしないと思うのですが…」
ジェラールは入隊当時からオスカルに憧れていた。
自分やアンドレの様に彼女を愛しているのではなく、憧れの対象なのだろう。
この副官とは気も合うようで、ジェローデルは口元で笑う。
「確かにね。まぁ我々の希望である求婚もダンスも叶わなかったが我々は競馬に負けているのだから仕方がない。だが彼女を王妃様の元までエスコートできたのだから良しとしよう」
「はい。ジャルジェ准将、美しいです」
「次回からの競馬も出走する者が増えそうですねぇ」
ひとときの華やかな時間。
いつの日か彼女に勝てる日が来るのだろか。
慣れない装いで一日お疲れだったでしょう。
今ごろ貴女はアンドレ・グランディエに心を委ねているのでしょうね。
見守る愛を誓った心は変わらず、愛する貴女に今日の労いと感謝の気持ちも込めて領地のワインをお贈りいたしましょうか。

オスカルとアンドレの後ろ姿を見送ったジェローデルは微笑んだのだった。

◆おわり◆

〜お読みいただき有難うございました^_^
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