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SWAN日記 ~杜の小径~

ベルばらSS ◆◆夏夜の飲み会◆◆

ベルばらSS ◆◆夏夜の飲み会◆◆

〜アンドレお誕生日に寄せて〜

 
🌹 🌹 🌹
 
衛兵隊、8月の給料日。
今月はアンドレの誕生月だ。
朝の点呼時、アランはオスカルとアンドレを眺めながら、先月の納涼会を思い出していた。
7月は隊長の屋敷の庭園で納涼会と称して飲み会をやってもらった。
一班での毎月恒例行事、隊員の誕生月飲み会を給料日にパリの下町の店で開いていた。
7月は誕生日の奴がいないから、納涼会と称して飲み会をしていたのだ。
8月はアンドレが誕生月だが、昨年アンドレは参加しなかったので奴抜きで飲み会をした。
先月の納涼飲み会、たまにはアンドレに参加しろよと誘った場に隊長も居て、自分は誘われないのかと怒ったというかアレは不貞腐れたのか?
酒好きでザルの隊長らしいが、下町の飲み屋に大貴族の御令嬢を連れ込んで何かあったら大変だから一度は断ったものの。
衛兵隊のアンドレ予備の軍服を着れば良いのか?とブッ飛んだ提案をしてアンドレに即却下されていた。
体格が違い過ぎる為かえって目立つ軍服。
普通にしていても隊長は目立つ外見と立ち振る舞いなのだから、気配を殺す方が難しいだろう。
そんなに酒が飲みたいのか底なしにザルなのか。
屋敷の庭園で無礼講の納涼飲み会を提案してきやがった。
言い出したら折れない隊長らしく、諦めモードのアンドレが折れて、これは決行された。
無礼講の納涼飲み会とのコトだったが、隊員達に酒を注がれてもアッという間にグラスを空ける隊長はホントに底無しのザルだった。
あんなのに付き合うアンドレも酒に強くなる筈だよなぁ‥とアランは口元で笑った。
 
先週、アランが昼食当番の日。
隊長の食事を乗せたトレイを司令官室に届けた時のこと。
「おぉ今日の当番はアランか」
嬉しそうな隊長にアランは首を傾げた。
「何だか ご機嫌っすね」
「衛兵隊の軍服が仕上がってきたんだ。夕刻の点呼は着替えてみようと思う」
アランはアンドレを見遣ると。
肩を竦めて苦笑された。
「さっき届いたんだ。オスカルが屋敷では無く衛兵隊に届けるよう再手配したみたいでさ」
アンドレは何時ものように屋敷届けにしていたものを隊長が再手配したらしい。
「あのなぁ、隊長。夕刻の点呼で着るのはどうかと思うぞ。他の班の連中は一班の飲み会にアンタが参加してること知らないんだ。質問攻めに合っちまうぜ?」
「‥問題ない。パリ巡回や任務で街へ行くときに将校の服装は目立つだろう?衛兵隊の軍服のほうが動きが自由になるから新調したと言えば良い」
「‥衛兵隊に紛れてもアンタ目立つと思うぞ」
「うん。長い金髪も目を引いちゃうしね」
「ふん、髪は後ろで結えば良い。軍服に合わせて帽子も新調したから中に隠せるぞ」
用意周到だろう?と笑うオスカルに二人も呆れ笑いを隠せない。
マジで帽子まで新調したのか。
ホントに底無しのザルで酒好きなんだな。
秋になったら外套も作りそうな勢いである。
7月の納涼飲み会、あんだけ飲んで普通にしてるんだから、おそらく衛兵隊で一番の酒飲みだ。
「帽子を被っても髪が目立つなら短くカッ‥『『ダメだ!』』」
「‥何だ二人とも」
オスカルが話している途中で二人が声を揃えて却下した。
アンドレもアランも、たがか飲み会に参加する為だけにオスカルが髪を短くするのは許せない。
いや、酒豪なオスカルはカットしても髪は伸びるから飲み会を選ぶのだろうが男達は納得しない。
「‥隊長。そりゃダメだ。兵士達もアンタの長い金髪に憧れている奴多いんだから」
「オスカル。飲み会の為に髪を切るなんて言うな。どんなに髪が跳ねても毎朝嬉々としてお前の髪を手入れしている侍女が泣くぞ。酒の為に切ったと知れれば、おばあちゃんは大泣きするだろうなぁ。おれもオスカルは長い髪のほうが好きだよ」
「‥‥‥‥‥。」
アランは説得口調でアンドレは屋敷の者達を引き合いに最後はお願いモードで見つめてくる。
兵士達がわたしの髪を褒めるのは聞いた覚えがあるし、アンドレがわたしの髪を好きなのも知っている。
抱きしめられる度、良く手櫛で髪を梳いてくれるのは好きだった。
赤くなりそうな顔を隠すようにオスカルは黙って小さく頷く。
そんなオスカルにアンドレは微笑み、アランは二人の様子に鼻で笑った。
「隊長、来週の給料日はアンドレの誕生月飲み会ですけど!下町の飲み屋なんです。隊長に何かあったら大変なんでアンドレの言うこと聞いてくださいよ」
「わかっている!」
オスカルは鼻息荒く頷いたのだった。
 
夕刻の点呼時、衛兵隊の軍服姿のオスカルに衛兵隊はどよめいた。
もっともらしいオスカルの説明に納得はしたようだが、理由を知っていた一班の隊員達は内心喜びを隠すのに必死だったのは言うまでもない。
 
そして迎えた給料日の飲み会。
衛兵隊の軍服に着替えたオスカルはリボンで結った髪を軽く纏めて帽子の中に隠した。
「これでどうだ?」
「‥将校の服装よりは目立たないかな」
オスカルは何処にいても目立つけど、将校の軍服よりは気配を消せる‥若干。
「アラン達は先に店に向かってるよ。オスカルとおれは店の近くまで辻馬車だ」
「うん」
他の衛兵隊員達も宿舎に戻った時間。
オスカルとアンドレは辻馬車で目的の店に向かった。
馬車の中でオスカルはアンドレに問う。
「アンドレは行ったことがある店か?」
「前に一度だけ。アランに誘われてね」
「そうか」
アンドレも行ったことがある店であれば大丈夫だろうとオスカルも笑った。
 
『月のあかり亭』
此処が一班の飲み会の店だ。
二人が店に入ると奥のテーブルから歓声が上がった。
「静かにしろや!」
騒ぐ兵士達にアランが一喝している。
そんな兵士達を見た二人も顔を見合わせて笑った。
「こっちだ二人とも!」
アランに促されて奥の椅子に座った。
「隊長‥衛兵隊の軍服も似合います!」
この前の夕礼の時は他の班の手前似合いますって言えなかったから‥とフランソワが言うと他の兵士達も口々にウンウンと頷いている。
「帽子で髪を隠しても立ち振る舞いと姿勢もイイから目立つけどな」
アランの言葉にオスカルも軽く睨みながら口元は笑っていた。
アランが乾杯の音頭をとり、ひとこと言え!と誕生月のアンドレが立たされた。
堅苦しい挨拶とか無しで‥とアンドレは口を開いた。
「恒例の誕生月飲み会に誘ってくれて有難う。今月からオスカルも参加する気満々だから‥‥先月のオスカルみて酒好きの底無し加減は皆んなも知ってると思うけど、覚悟してくれ」
アンドレの挨拶に兵士達から拍手が上がる。
「覚悟とは何だ!?」
オスカルが口を挟むと、アランもツッコんだ。
「最後まで潰れないのはアンタら二人と俺だけだろ」
「‥おれもそう思うよ」
笑って同意するアンドレの髪を軽く引っ張るオスカル。
兵士達からもドッと笑いが溢れた。
 
オスカルは兵士達から酒を注がれ、グラスを空にして、また注がれる。
高級な酒では無いがオスカルは楽しそうに隊員達と話しながら杯を重ねた。
家族や兄弟の話など、普段なら話さない話題も出てオスカルには新鮮だった。
隊長とアンドレの話も聞きたいとジャンが言うと他の者達も聞きたいと騒ぎ出したので、アンドレはジャルジェ家に来た時のコトを話した。
「祖母からは『可愛いお嬢様』と聞いていたのに階段から降りて来たのは男の子でビックリしていたら、剣を持たされ庭に引っ張り出されて、祖母に着せられた一丁羅が瞬殺の如くダメになった。初対面で一つ歳下のお嬢様にボロボロに負けたオレの気持ちは地の底につく勢いだったんだ。お前らも想像してみろ」
兵士達も興味深々で聞き入っている。
「‥隊長らしいっていうか‥」
「うん。そのまんま隊長みたい」
「その頃からタメ口なんだろ?」
アランの問いかけにアンドレは頷く。
「祖母の言いつけを守って『オスカル様』って呼ぶと怒って返事をしてくれなかったんだ。友達だと言って聞かなくてね。屋敷の外では主従関係だったけど屋敷内では暗黙の了解でこの言葉づかいのまま大人になっちゃった感じかなぁ」
アンドレの言葉にオスカルも懐かしそうに頷いた。
「アンタの初めての『友達』がアンドレだったんだろ?」
アランが笑った。
「‥そうだな。わたしは六人姉妹の末だし、同じ歳頃の男子も従兄弟にはいないし、アンドレが来る前に貴族の男児が遊び相手として屋敷に来たこともあるが‥相手はわたしに気を使うし、わたしも慣れなくてね。アンドレが屋敷に来た時は嬉しかったな。アンドレの故郷での遊びを庭でやって怒られたり。初めての木登りは新鮮で楽しかったぞ」
「其れがバレて祖母に怒られるのはオレだけなんだ‥不公平だけど。オスカルは『僕がアンドレに頼んで教えてもらったんだよ!』って言っても、祖母はカンカンに怒ってさ。大切なお嬢様が怪我でもしたら大変だってね。
でも。少し経った頃、奥様や祖母達がオスカルが年相応に笑うようになったって話してて、オレの前でオスカルはいつも笑ってたからオレは首を傾げるばかりだったけど」
「幼い頃はわたしも自分を男の子だと思っていたのだから仕方あるまい。ジャルジェ家の跡取りと言われ続けていたから幼いながら無意識に背伸びしていたのだろうな。父上からも『遊び相手』と聞いていたアンドレが来てから二人で遊ぶのが楽しくて‥日が暮れるまで庭で遊んで泥だらけになって良くばあやに怒られた‥アンドレがな」
クスリと笑うオスカルに肩を竦めるアンドレ。
そんな二人をみて、また笑いが連鎖する。
 
数時間後。
『月のあかり亭』を出て、アランが二人の辻馬車を拾ってくると言う。
オスカルは帽子を取り、結った髪をおろした。
「やはりこの方が楽だな」
ブンブンと頭を振って手櫛で適当に髪を梳くオスカルにアンドレも苦笑している。
一班メンバー達には目の保養だ。
すると。
一班の前に馬車が停まった。
アランも立ち止まった。
どう見ても貴族の馬車である。
 
「‥オスカル嬢?」
「ん?ジェローデル?」
何故わたしだと判ったのだ!?
オスカルのボヤきが聞こえたのかジェローデルはクスリと笑った。
「窓を開けておりましたので。手前で曲がった時に衛兵隊数人を確認できましたが、シルエットが貴女でしたし、帽子をお取りになったので貴女を確信して馬車を停めました。‥その衛兵隊の服装は‥何ですか?」
「月イチの隊員誕生月の恒例飲み会の小道具だ」
「相変わらずお好きなのですね」
ジェローデルは微笑んだ。
「将校の服装だと下町の店では目立つと言うので、軍服と帽子を新調した」
「ほぅ。面白い趣向ですね。班単位で親睦を深めているのですね」
「まぁ‥そんなところだ」
 
「ジェローデル‥ってジェローデル少佐ですよね。隊長の元部下で元婚約者の現近衛連隊長」
アランはジャルジェ家のパーティーには行っていないが名は聞いていた。
一班の連中はコイツをジャルジェ家で見ているため、顔を覚えている奴らは動揺して隊長と少佐を見比べている。
「婚約は白紙になりましたがね。今でもオスカル嬢をお慕いしていますよ」
普通に会話しているオスカルとジェローデル。
アンドレも至って普通に見える。
『だ‥大丈夫なのか?』
‥と、隊員達は互いに目を配らせている。
 
「オスカル嬢も飲酒はお強いですから、親睦を兼ねて話題も尽きないのでしょう」
「あぁ‥隊長のアンドレの昔話とか、隊員の家族話とか色々ね」
他の隊員達を他所に、問題無しと踏んだアランは笑って答えた。
「ほう、それはそれは。楽しそうですね。
君たち、近衛時代の二人の話を聞きたくはありませんか?」
ジェローデルはアラン達を見て微笑んだ。
隊員達は皆んな酔っ払っている。
酒に弱い者もそれなりに飲んでいる。
ある程度は思考能力も残っていて、班長アランが会話に入ったことで大丈夫と判断したようだ。
「聞きたいです!」
「オレも!」
「今日聞いた隊長とアンドレの話も面白かったし!」
嬉々として隊員達は声をあげた。
「おい、お前達‥っ!!」
「皆んな酔っ払ってるだろ!」
オスカルとアンドレの叫びも虚しく。
「オスカル嬢。10月はわたくしの誕生月なのですが‥衛兵隊恒例の誕生月飲み会にお誘い願えないでしょうか?わたくしも衛兵隊の軍服を新調しておきましょう」
ニッコリと笑うジェローデルにオスカルは声をあげ、アンドレは目を見開いた。
「おいジェローデル、勝手に決めるな。それに一度きりの飲み会に軍服新調は無駄だろう!」
「作っておけば何かの機会に役立つかもしれないですしね」
「ありえんッ!」
叫ぶオスカルの隣でアンドレは諦めモードに突入していた。
『ジェローデルの奴、ぜったい来る気だな』
隊員達も酔った勢いでノリノリなのである。
ジェローデルはオスカルが嫌がる事はしないハズだ。
『見守る愛を誓って身を引く』と告げたとオスカルから聞いているし、オスカルとオレの想いが通じたことも知っているようだ。
『まだオレが長い片想いのままだったら、この現状で大荒れだろうな』と思う。
オスカルと想いが通じたことで自身にも少し心の余裕も出来たのかもしれない‥とアンドレは自己分析しながらオスカルを見ていると。
 
「‥ジェローデル少佐。アンタ確信犯っすか?」
 
アランは苦笑いしながら、二人とジェローデルを交互に見ている。
「確信犯とは何だ!?」
叫ぶオスカルの隣でアンドレは「オスカル落ち着け」と宥めモードに入っている。
「‥さぁ。何のことでしょう?
あぁ、オスカル嬢。辻馬車を拾う途中でしたら、こちらにご一緒しませんか?
ジャルジェ家までお送りいたしますよ」
「そおっすか?んじゃ世話になります!」
「おいアラン!勝手に決めるな!」
叫ぶオスカルをアランは無視状態で。
早く乗った乗った!とアランはオスカルとアンドレを馬車に押し込めた。
「オレらは酔い覚まし兼ねて宿舎まで歩くんで!
ジェローデル少佐あとは頼みます」
「‥了解した」
「隊長!アンドレ!また明日な!」
呑気に手を振るアランに膨れるオスカル。
そんなオスカルを宥めながら、アンドレはジェローデルに頭を下げた。
「ジェローデル少佐‥お心遣い有難うございます」
ジェローデルも穏やかに笑う。
「ベルサイユまでは帰り道なので大丈夫ですよ。
所用で出掛けた帰りに貴女に会えるとは幸運でした。‥ふふ、10月が待ち遠しいですね」
「ふん、パリ市民が集う飲み屋だ。お前の口に合う酒は無いかもしれんぞ」
「わたくしは貴女達との時間を楽しみたいのですよ」
貴女と一緒に過ごすひとときの酒の集まりならば、どんな高級品よりも贅沢な時間となる筈ですからーーー。
 
「‥お前の長い髪も目立つぞ」
オスカルはボソリと呟いた。
「では、わたくしも帽子をセットで用意しましょう」
楽しそうにジェローデルは笑う。
「‥‥っ、アンドレ!冬までにわたしの外套も新調しておくぞ」
「はいはい」
わかってます‥とアンドレも頷いたのだった。
「‥アンドレ・グランディエ。確か君の誕生日は8月でしたね。今日は君の?」
「はい。そうでございます」
「それならばオスカル嬢も尚更楽しい酒の席だったのではないですか?」
「あたりまえだ」
ぶっきらぼうに答えるオスカルに、またジェローデルは微笑んだ。
ジェローデルも楽しんでるな‥と思いつつ、アンドレは小さく肩を竦めて口元で笑う。
結局オスカルも酒好きで、酒の集まりが好きなのだ。
このお嬢様の飲み過ぎを制御するのはオレの役目だから、とことん付き合うのである。
どうせなら楽しみながら酒を交わす方が良い。
そう、オスカルが心から楽しめるようにーーー。
 
◆終わり◆
 
〜お読みいただき有難うございました。
SWAN/白鳥いろは
 
🌹 🌹 🌹
 

コメント一覧

swan1789
千菊丸さま

コメント有難うございます。
ウチのオスカルさま‥ザルなんです(笑)
アンドレも潰れるワケにはいかないので、オスカルさまに付き合って強くなったクチです。
でもオスカルさまを制御できるのはアンドレだけだと思います(笑)

SWAN/白鳥いろは
千菊丸
こんにちは。
オスカル様、ザルなのね。
周りが大変でしょうね、特にアンドレ。
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