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SWAN日記 ~杜の小径~

ベルばら/三が日SS《空へ還る》~サウダージ~

ベルばら/三が日SS《空へ還る》~サウダージ~

〈2017年の三が日にヤプログにUPしたSSです〉

◇◇◇

身体中が熱く…痛い。
あぁ…私は撃たれたのだな。
「隊長っ!」
アランが私を庇うように倒れこんだ。
血の匂いがする。
冷たい石畳に倒れこんだ私は小さく息を吐き空を見上げた。
一瞬、頭上に白い鳩が見えた。
…アンドレ?
そう思った瞬間、身体に痛みが走り、そのまま倒れたのだ…。
視界を白煙と埃が舞い、横たわる身体に伝わる地響きと人々の声。
「隊長っ!」
アランは私を抱きかかえて歩き出した。
「オスカル様!!」
私の元にロザリーが駆けつけて来た。
「おろしてくれ…もう…」
判っている。
私はもうダメなのだろう。
撃たれているのに、先程までの身体中の痛みは感じなくなってきた。
ただ…身体が熱い。
「オスカルさま…っ!」
泣かないでロザリー。
私は今やすらかだ…。
狙われるのは承知のうえだったのだよ。
民衆の先頭に将校の軍服を纏った者がいれば当然標的になるであろうから。
先に逝ってしまったアンドレに恥ずかしくないように…指揮をとっていたのだから。
白旗も上がった。
私の役目は終わったよ。
アラン…あとはお前達に任せよう。
アンドレの元にいかせておくれ。
人には寿命がある。
私とアンドレは一対の光と影なのだから…片方だけでは生きられないのだよ。
アンドレが先に天に召されてしまった今…もう私は充分に生きた。
ひとり残されて生きてゆけるほど私は強くない。
神さま…もう天に召されてもよいでしょうか。
アンドレ…わたしの夫。おまえの元にいきたい。
だんだんと意識が遠のいてゆく。
もう身体の痛みも感じない。
そっと目を閉じようとする私に二人の声が重なる。
「…オスカルさまぁ…っ!」
「隊長…っ!」
意識は遠のいてゆくのに…耳は敏感なのだな…。
泣かないでロザリー。いま私はこんなにも安らかだ。
アラン。私の意思はお前が引き継いでくれるだろう…このフランスの行く末を見届けてほしい。
ロザリー…アラン…お別れだ…
今まで有難う…。
あぁ…アンドレ…お前の…もとへ…
…アンドレ…。
静かに目を閉じた私の瞼に浮かんだのは微笑むアンドレだった。
『…オスカル…』
『ああ…アンドレ…迎えに来てくれたのだな』
『死ぬまで側にいると約束しただろう?』
『アンドレ…愛している』
『愛しているよオスカル。ずっと一緒だ』
『…アンドレ…』
私はアンドレの手をとった。
フワリと身体が軽くなり、アンドレに抱き寄せられる。
あぁ…アンドレ。
わたしはアンドレの優しい接吻を受けた。
アンドレーーー愛している。
「いや…いやっ、オスカルさま…っ!」
泣き崩れるロザリーの隣で、アランは空を見上げた。
ロザリーは気付かなかったようだが…隊長が息をひきとる瞬間『アンドレ』と口元が動いたのだ。
二人一緒にいる時のような笑みを浮かべてーーー。
『隊長…アンドレとお幸せに…』
天国に旅立ったオスカルの表情は笑みを浮かべているようにも見える。
隣にアンドレがいる時のように口元には穏やかな微笑み。
なんて幸せそうな顔してやがる…。
「…ロザリー。隊長の顔…幸せそうだ。きっとアンドレが迎えにきたんだな。隊長とアンドレの分まで…俺たちは生きなきゃな…」
涙を堪えてアランは呟いた。
隊長とアンドレは空に還ったのだ。
空を見上げるアランの頬を堪えていた涙が伝った。

◆おわり◆

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