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SWAN日記 ~杜の小径~

◆◆ ベルばらSS短編《スズラン舞踏会》◆◆

◆◆ ベルばらSS短編《スズラン舞踏会》◆◆

5月1日は「スズランの日」です。
スズランの日が始まるキッカケはフランス王シャルル9世の時代から…とのコト。
花言葉は、
《幸福をもたらす》
《幸福の再来》
この日フランスではスズランを贈る風習があるそうです^_^

*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*

◆◆ ベルばらSS短編《スズラン舞踏会》◆◆

〜春。
四月初旬のある日、衛兵隊から帰宅すると母から呼び止められた。
「オスカル、王妃様から舞踏会のお誘いが届いていますよ」
「あぁ…すずらん舞踏会ですね」
「ええ」
オスカルは招待状の手紙を受け取り、微笑んだ。

迎えた5月1日。
日付が変わった深夜、オスカルの部屋にアンドレが訪れた。
屋敷の者達も寝静まった深夜、小さくノックされたドアをそっとオスカルが開けてアンドレを迎え入れる。
アンドレの手にはすずらんの花束。既に小さな花瓶に挿してある為、直ぐに飾れる状態だ。
「オスカルに幸福を」
「…有難う」
毎年アンドレがオスカルにすずらんを贈るのは恒例になっていた。
以前は5月1日の朝にアンドレはオスカルに手渡していたが、想いが通じた今は日付けが変わった深夜でも部屋を訪れる。
アンドレはオスカルの額にそっとキスを落とした。
数刻前にショコラを持ってきたアンドレだが、マロンに頼まれた仕事が残っていると言って「ごめんよ」と退室してゆくアンドレに言った。
「次はワインが良いな」
「了解。ちょっと遅くなるかもしれないけど…」
待ちくたびれて寝てしまうことがあるオスカルを心配するが当の本人はクスリと笑う。
「寝ていたら起こしてくれ」
数刻後にワインとすずらんを持ってきたアンドレだった。

シャルル9世の時代から続く5月1日の『すずらん舞踏会』。
言い伝えとしては、ある日シャルル9世にすずらんが贈られ「幸福をもたらす」という花言葉に感激したシャルル9世が宮廷の女性達にすずらんを贈ることを決めたのが1561年5月1日。
この日の舞踏会とすずらんを贈る風習は今でも継続されていて、アントワネット様の世代になった今でも続く、年に一度の舞踏会で宮廷や貴族の屋敷での催しで若い男女の出逢いの場でもある。
女性はすずらんに見立てた白いドレスを見に纏い、男性は襟にすずらんの花を挿して踊る。
オスカルも近衛に在籍している頃から5月1日の舞踏会にはアントワネット様の誘いを受け、宮廷に赴いていた。
オスカルも正装だが女性の装いでは無い。
母とマロンが数年に一度は春に合わせて白色系のドレスを新調しているのも知っているが、着ないのだから勿体ないと言ってもオスカルに合わせて数年おきに白地のドレスを新調しているのだから仕方がない。それに加えて誕生月には毎年ドレスが新調されているのだ。
「母上もばあやも懲りないな」
オスカルのボヤきなど聴こえていない素振りでマロンは言う。
「ドレスを新調しておけば何時でもお召しになれますからね」
〜と嬉々としているのだから、オスカルも呆れ顔である。
十代の頃、すずらん舞踏会ではアントワネット様と踊り、貴族の娘達に請われ踊っていたが、女性達もオスカル目当てが多く人数も半端なかった為、いつの頃からかダンスはアントワネット様と一曲、貴族の女性達にはすずらんの花を贈るようにしていた。
その為、すずらん舞踏会の日になると従者であるアンドレがすずらんの籠を持ち、オスカルと共に宮廷に向かうのが恒例となっていた。
ジャルジェ家では朝から侍女達がすずらんと葉を一緒に一本ずつレースのリボンを結び、準備をしてくれる。
「今年も凄い数だね」
何十本ものすずらんを籠に入れたアンドレは言った。
「アントワネット様のお誘いはお引き受けするが、流石に女性達全員と踊る時間も無いしな」
「衛兵隊に移ったのにお前の人気は衰えないな」
「宮廷に顔を出す機会も減った所為だろう」
「…確かに」
アンドレは肩を竦めてみせた。
衛兵隊の職務が忙しく、会議や宮廷からお呼びが掛からない限り赴くこともなくなったのだから。

午後。
オスカルとアンドレは宮廷に向かった。
宮廷でのすずらん舞踏会だ。
夜は貴族達の屋敷で舞踏会が行われたりしている。
この日ばかりはオスカルも軍服ではなく正装姿。
馬車の中でオスカルはアンドレに頼んだ。
「アンドレ…すずらんを」
「うん」
姿勢を正すオスカルの襟にすずらんを挿した。
「有難う。お前も…」
「オレはいいよ。お前の護衛だし踊る訳じゃないから」
「お前も鏡の間に入るのだから礼儀として身につけたほうが良い。ほら、つけてやる」
「…わかった」
襟元にすずらんを挿すオスカルの指先を見ていたアンドレは「有難う」と礼を告げて、ポケットに手を入れた後、オスカルに手を差し出した。
「今年は此れも用意したんだ」
アンドレの手には円を描くようにデザインされたすずらんのブローチ。
茎や葉の部分は銀細工で花は小さな真珠を使っている。
「オスカルと想いが通じたから…今年はオーダーして作ってもらったんだ。付けてくれると嬉しい」
「あ…ありがとう」
オスカルはブローチを手に取り、嬉しそうに微笑んだ。
わたしはアンドレに何も用意していないのに…と俯くオスカルの髪をフワリと触り微笑んで言う。
「さっきオスカルからすずらんをつけてもらった」
でも…、と自分を見つめるオスカルにアンドレは気にしなくて良い、自分が形に残るものを贈りたかったのだと微笑んだ。
オスカルは小さく頷き、花籠から一本のすずらんを手に取った。
「…では、もう一本つけてあげよう」
すずらんの花に口付けてからアンドレの襟元に挿した。
二本のすずらんのバランスを整えて、中腰のままオスカルはアンドレの頬にキスを落とすと、お返しとばかりに頬にキスを返された。
「有難うオスカル」
「うん。アンドレ、ブローチを舞踏会にも付けていきたいのだが…」
頷いたアンドレはオスカルの胸元にブローチを付けた。
「オスカル…似合うよ」
「有難う。すずらん舞踏会が久々に嬉しく楽しい日になりそうだ」
笑顔が戻ったオスカルをみてアンドレも微笑んだのだった。

宮廷に到着し、鏡の間に入ると既に貴族達が集まっている。
女性達は白を基調としたドレスを着用し、入口で国王陛下からのすずらんを受け取り、鏡の間に入ってくる。
男性達は襟や胸元にすずらんを挿している。
オスカルは国王陛下と王妃様にご挨拶をして、暫くすると楽団による演奏と共に舞踏会が始まった。
陛下はダンスを滅多に踊らないので、アントワネットと最初に踊るのはオスカルであることが多い。

一曲アントワネットと踊ったオスカルが下がると、あっという間に女性陣に囲まれた。
「オスカルさま、久しぶりです」
「暫くお会いできなくて寂しかったです」
オスカルさま、オスカルさま、と近衛から離れたとはいえ、オスカルの人気は健在だ。
オスカルも宮廷に出入りするご夫人やご令嬢の名は覚えている為、一人ずつ丁寧に挨拶をし、後ろに控えるアンドレから手渡されたすずらんを渡してゆく。
女性達は喜びを隠さず笑顔で礼を伝え、男性達の手を取りダンスに加わって行った。
オスカルの周りに集まった女性達にすずらんを渡して一息ついたところで、オスカルは言った。
「ここ数年は女性陣が多いな」
「お前の人気が健在なんだよ」
…数年前に近衛隊から衛兵隊に移っているんだぞ?とオスカルは肩を竦めた。
後ろに下がった二人が小さく喋っていると、ジェローデルがオスカルの元にやって来た。
「オスカル嬢、お久しぶりです」
「あぁ…ジェローデル。久しぶりだな」
「今年も貴女のすずらんを求めて女性達が集まったようですね」
「昨年あたりから増えた気がするのだが…」
オスカルの呟きにジェローデルはフッと笑った。
「貴女が衛兵隊に移ってから宮廷でお会いする機会も減りましたし…貴女から手渡されたすずらんを髪に挿し、踊るのが流行っているようです。幸せに近づけるらしいですね」
「…そんな噂は知らんぞ」
「若いご令嬢達の間で流行っていると義姉が言っていたのですよ。貴女からのすずらんを髪に飾るのはご令嬢もご夫人も密かな楽しみなのでしょう」
「まぁ…舞踏会を楽しんでいただけるのなら良いけれどな」
ジェローデルは頷き、微笑みながらオスカルを見つめた。
「オスカル嬢、わたくしにもすずらんを頂けますか?」
ジェローデルはまだ数本残っているアンドレの持つ花籠をみる。
「は?お前襟元にすずらんを挿しているではないか」
「貴女から頂いたものも飾りたいのです」
「…仕方ないな」
肩を竦めて笑うオスカルに、後ろからアンドレがすずらんを手渡すと、少し前屈みになったジェローデルの襟元に花を挿す。
「有難うございます。貴女は素敵なブローチをお付けになっておりますね。…彼からの贈り物でしょうか」
「うん」
周囲に貴族達もいる為、アンドレ・グランディエの名は口にしないでおく。
少しはにかむように微笑むオスカルにジェローデルも笑みを浮かべた。
「お似合いです」
派手過ぎず地味過ぎず…ひっそり咲くすずらんを思わせる清楚なイメージだ。
いつも彼女を影で支えているアンドレ・グランディエのように。
舞踏会でオスカルの胸のブローチを話題にする者はいなかった。
銀細工の小さなブローチは目立つものではない。
「…ありがとう」
微笑むオスカルにジェローデルも頷いた。

「貴女はもうお帰りになるのですか?」
毎年、オスカルは王妃とダンスをして、すずらんを女性達に贈ってからは長居せずに宮廷を後にしていた。
「あぁ。そろそろな」
「馬車までお送りいたしましょう」
オスカルは頷いた。
ジェローデルとオスカルの後にアンドレも続き、鏡の間を後にした。
ジャルジェ家の馬車に乗り込む為、アンドレが扉を開ける。
「オスカル嬢…わたくしからの贈り物です」
ジェローデルが上着のポケットから出した小さなケースには耳飾り。
耳にかけるタイプのイヤーカフだ。
プラチナの銀色にすずらんの花は真珠を模して一連にデザインされている。
「お耳にかけてもよろしいでしょうか?」
小さく首を傾げるジェローデルにオスカルも頷く。
ジェローデルはオスカルの右耳にそっとイヤーカフをかけた。
「違和感ありませんか?」
「…あぁ。ありがとう」
オスカルの言葉にジェローデルも満足そうに頷いた。
「このイヤーカフは貴女用に右耳の一つしか作っておりませんのでご安心ください。貴女に幸運を…すずらん舞踏会の日にご使いいただけると嬉しいです」
耳飾り…ピアスやイヤリング、イヤーカフにもつける位置に意味がある。
両耳に付けるのも良いが、片耳だけの場合は男性は左耳、女性は右耳が一般的だ。
男女が並んで歩く時、男性は右側、女性が左側に並ぶからである。
片方だけの耳飾りを男女逆に付ければ同性を愛する者と勘違いされることもあるのだ。

オスカルはアンドレをみて首を傾げた。
「うん。とても似合ってる」
アンドレは微笑み、素直な感想を伝えた。
ジェローデルに悪意など無く、オスカルを想っているが故の行動であるのも判っている。
普段髪を下ろしているオスカルの耳は隠れているため、歩いたり風に髪が靡かなければ気付かれづらいだろう。
「偶然ではありますが、アンドレ・グランディエからのブローチとツイになるデザインで違和感もないですね」
ジェローデルの言葉にアンドレも頭を下げた。

「ジェローデル…有難う。来年の舞踏会にはブローチとイヤーカフをセットで着用させていただこう」
「オスカル嬢…来年はすずらんの花束をお持ちしましょう。また貴女からのすずらんを襟元に挿してくださいますか?」
「わかった」
オスカルは笑って頷いた。
馬車に乗り込むオスカルを見ながら、ジェローデルはアンドレにイヤーカフが入っていたケースを手渡した。
受け取ったアンドレもオスカルに続いて馬車に乗り込み、ジェローデルに見送られて宮廷を後にしたのだった。

「…ジェローデルからイヤーカフが贈られるとはな」
「でも、似合っているよ。本当に揃いのデザインに見えるね」
ジェローデルが今でもオスカルを愛しているのは知っている。
オスカルが選んだのはアンドレだった。
婚約は白紙になったが、見守る愛を誓ってジェローデルは身を引いたとオスカルから聞いていた。
イヤーカフもオスカルの右耳用だけ用意したのも見守る愛を誓った上でのことだろう。
ジェローデルの左耳にすずらんを模したピアス等は見られなかったのだから。

アンドレはジェローデルから預かったケースを何気に開いてみる。
「…え?」
「何だ?」
アンドレの声にオスカルも首を傾げる。
中にはメモらしきものが入っていた。

『オスカル嬢、ご一緒にお茶か酒宴の時間をいかがでしょう。アンドレ・グランディエと共にお越しください』

ご丁寧に店と時間の指定まである。
今日の夕刻、パリのカフェだ。
この店は日暮れから酒類も出していた。
雄叫びをあげてジェローデルの奴は云々と文句を言いつつ、カフェには行く気満々らしいオスカルにアンドレも呆れ笑いを隠せない。

すずらんの花言葉は『幸福をもたらす』
二人を見守る愛を誓ったとはいえ、幸せな貴女をみるのは私の幸せでもあるのです。
馬車でオスカルとアンドレが雄叫びを上げるのを遠くに感じる。
オスカル嬢をなだめる従僕の姿が目に浮かぶようだ。
ジェローデルはクスリと笑い、指定したカフェに時間通りに向かえるよう帰り支度を始めたのだった。

◆終わり◆


〜あとがき〜
《鈴蘭/すずらん》フランス語では《muguet/ミュゲー》
フランスでは年に一度すずらんを身につけて踊る「すずらん舞踏会」が開催されていたそうです。
舞踏会は貴族の集まりだったので、一般市民がすずらんを贈ったり身につける習慣がついたのは19世紀後半からで、定着したのは1976年5月1日とのコト。
日本で5月1日はメーデーのイメージが強いでしょうか。

〜しかし。
スズランは毒性がありのですよね。
白鳥は子どもの頃に祖母から聞かされていたので知っていたのですけれど。
子どもながらに「白くて可愛い花なのに」と思ったけれど、これも自然界で生き残る為の自己防衛の結果なのでしょうね。
調べたら、根から花まで全て毒性有り。
花言葉と実物、かけ離れている意味合いなのも不思議ですが…大昔は毒性有りとか解らなかったのだろうと思います。
だって、可憐にひっそりと咲く鈴蘭って清楚で可愛らしいですもの^_^
薔薇も美しい花を咲かせるが故に棘を持っていますしね〜。

☆ここまでお読みいただき有難うございました☆

コメント一覧

swan1789
千菊丸さま

コメント有難うございます^_^
正装姿のオスカルさまの胸に《すずらん》似合いますよね☆
はい!
和名の「君影草」も素敵です。
まさにオスカルさまとアンドレのようですね。

SWAN/白鳥いろは
千菊丸
正装姿のオスカル様の胸を飾るスズラン…綺麗だろうなあ。
スズラン、可愛いのに有毒植物なんですよね。
花言葉もいいですが、和名の「君影草」も素敵です。
白鳥いろは
シャルロット様

コメント有難うございます^_^
清楚なスズランの花‥‥正装姿のオスカルさまに映えると思い、書いたSSです^_^
背丈も小さく、空に向かって花を咲かせるわけでもないけれど、ひっそりと可憐な白い花を鈴なりにつける可憐なスズラン。
静かに、可憐に、ひっそりと‥‥幸せな二人の時間が続くようにと願うばかりです。
SWAN/白鳥いろは
シャルロット
はじめまして。
静かな品のある風景が浮かびました。
オスカルさまの正装姿に数多のすずらん、お似合いでしょうね。
本当にこんな舞踏会に出られていたように感じ、このまま平和が続いてほしいなあと思いました。
アンドレにつけてあげる前にすずらんに口づけ…いかにもオスカルさまな感じが好きです。
素敵な作品ありがとうございました。
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