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SWAN日記 ~杜の小径~

月イチ企画SS《6月》◆白百合◆

ベルばら/月イチ企画SS《6月》◆白百合◆

◆◆◆白百合◆◆◆

1804年6月下旬。
アランは母親と妹が眠る墓地を訪れていた。
1788年12月初旬にディアンヌが死んだ。
自ら命を絶ったディアンヌだが、隊長の計らいで病死ということにしてもらい教会で葬儀をしてもらえ、隊長とアンドレと衛兵隊一班の皆んなで見送った。
おふくろも翌年の春にディアンヌを追うように心の病が元で他界した。
教会裏の墓地にディアンヌとおふくろの墓がある。ずっと昔に他界した親父の隣でディアンヌとおふくろも眠っていた。
「親父、ディアンヌ、おふくろ…久し振りだな。午後の休暇を取れたのが今日だったんでね。墓まいりがてら会いに来たぜ」
アランは抱えてきた沢山の白百合の花束を墓前に供えた。
「なぁ…ディアンヌ。今日が最後の墓参りになるかもしれない。ごめんな。
ディアンヌやおふくろ、隊長とアンドレ、仲間達が死んじまってから15年が経った。
将軍の地位を得たが、俺はそんな器じゃ無いかもな。
隊長の意志を継いで軍人を貫く覚悟だった。
フランスの未来…フランスが生まれ変われると思ってた。
ナポレオンを信じて軍人として生きてきたが…もう限界だ。最後にベルナールと一仕事することになった。今年中に決行する予定だから…来年は此処に来られないかもしれないからさ、墓に供える白百合も沢山買ってきたんだ。百合の季節だから色んな種類があったが、ディアンヌには白百合が似合うと思ったから白一色だ。
来月は隊長とアンドレの眠る地に墓参りに行くよ。多分最後の墓参りになるだろうが、二人には白薔薇を沢山買ってな…ディアンヌは隊長に憧れていたからなぁ。お前の気持ちも込めて白百合も一本つけて供えようと思ってる」
ディアンヌが眠る墓前で話しかけていたアランは澄んだ青空を見上げた。
「今日も良い天気だ。今まで伝えることは無かったが…ディアンヌ、お前の婚約者だった男も亡命したぞ。あの時、まさか俺がいた検問所を通るとはな。奴も俺を覚えてた。奴も下級貴族…素性は知っていたが殺しちゃいない。身重のかみさん連れだったし…奴を捕えた先に死があろうともディアンヌが戻るわけじゃあ無いしな。
あぁ…そうだ。馬車を見逃す時に奴が言ってた。もし女の子が生まれたらディアンヌという名にしたいそうだ。男ならアランにしたいと馬鹿なことを言っていたが、あの二人もお前の死には後悔の念があるようだったから…好きにしろと言っておいた。ディアンヌ…お前は優しいから、もしお前があの場にいてもあいつらを逃しただろう?」
アランは白百合を見つめた。
奴に恨みが無いといえば嘘になる。
あの時…在りし日の隊長とアンドレ、ディアンヌが頭をよぎったことを思い出す。
フワリとアランの周囲を白百合の香りが包み込んだ。
近くにディアンヌがいるようでアランは口元で優しく笑う。
ナポレオン暗殺計画…成功する確率は少ないだろう。
ディアンヌ、隊長…フランスが望んだ未来はこれで良かったのだろうか。
空を見上げて大きく息を吐き、アランは今は亡き人達に想いを馳せた。

「ディアンヌ、おふくろ、親父…たくさん白百合を持ってきたから、悪いが一本だけ貰っていくぜ」
墓前に屈んだアランは白いリボンで纏められた白百合の花束から一本抜き取り、深呼吸しながら香りを楽しんだ。
ディアンヌを想わせる百合の香り。

昔…フランス衛兵隊にいた頃の面会日。
ディアンヌが結婚すると知らせに来た日。
愛する妹の幸せを心から願った。
その日の夕刻、隊長に声をかけられた。
「ディアンヌ嬢は清楚で美しい女性だな。白百合を抱えた聖母のようだ。彼女の幸せを願おう」
俺はペコリと頭を下げた。
俺もディアンヌには白百合が似合うと思っていたから…そう思ってくれる人がいて、とても嬉しかったのを覚えている。
アランはディアンヌとオスカルの面影を想いながら教会をあとにした。

夕刻に戻った司令官室のアランの机上には一輪挿し花瓶に一本の白百合。
開けられた窓からの微風に乗って白百合の香りがアランを包み込むように漂っていた。

◆おわり◆

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

超短編SSです。
百合忌を意識して書き始めたのですが、ちょっと違った感じに仕上がってしまいました(汗)
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