天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

ピンキーリング

2012-08-01 06:31:48 | 小説
翔太は見知らぬ場所で途方にくれていた。最初は明日香を探そうにもあてがないので、彼女の家に戻るつもりだった。しかし、道に迷ってしまったのだ。明日香のマンションの周囲は店舗や一戸建てやマンションが雑然と混じり合っていたはずだ。今、翔太は整然と一戸建てが並んだ住宅街に立っていた。明らかに間違っている。道を尋ねたくても、人っこひとり通らない。翔太はあてどもなく、その住宅街をさまよっていた。行けども行けども、同じような街並みが続く。背中と脇の下に冷や汗が流れる。心は不安で一杯だった。心細さが最高潮になった時、翔太は明日香を見つけた。彼女は住宅街の中にある小さな公園にいた。明日香はブランコに座り、ぼんやりと地面を見ていた。翔太はほっとする。彼は明日香に声をかける。
「山川。」
明日香は翔太を見て、驚いたように目を大きく見開く。
「田中、あたしがここにいるの、よくわかったなあ。」
「たまたまや。山川の家に戻ろうと思ってんけど、道に迷ってしまって。この辺りよう知らんし、困っててん。その時、偶然、山川を見つけたんや。」
「そうやったん。会えて良かった。」
明日香はもう怒っていないようだ。翔太は謝るなら今だと思った。今を逃したら、もう謝ることは出来ないだろう。翔太は頭を下げる。