のんびり行こう!

3歩進んで2歩下がる。
そんな感じでやっていこう。
思いついたら更新。気ままに気長に。

SS 4

2015年06月19日 | 銀魂 テキスト(完)
胡蝶の夢
(銀時の一人称、セリフ多い!でお送りします)

その日の夢は、とてもリアルで悲しかった。

いつの間にか歌舞伎町の有名人になって仕事もある程度依頼がくるようになって以前のようにその日の食べ物にも困る日々ではなくなった。だが、相変わらず時々厄介事には巻き込まれる。その中で知り合った新撰組の面々との関係をはたしてなんというのが正しいのか、俺には分らない。
「それでも少しでも俺のテリトリーに入り込んだ奴らが不幸なのが、いやなだけだ。」

団子屋で緋毛氈の椅子に座ってくつろいでいると目の前を沖田君が早足で駆けていった。
ここいらは最近歩行者天国になったのでおまわりさんも少し先で車を止めて巡回せざるをえない。さぼりに巻くにはいいポイントなのだろう。
…ということは。
沖田君がやってきたほうを見ていると予想通り、苦虫を噛み潰したような表情の鬼の副長さんが、すっかりあきらめたようでゆっくり、きょろきょろしながらこちらにやってくる。
夢の中の奴より、それでもまだ、若いことに少しだけ安堵する。

それは、江戸に似て江戸ではないどこかだった。天人の代わりに異国人に支配された日本で、真選組はやはり戦っていた。まっすぐだったばかりに逆賊と言われ信頼する上官は処刑され、故郷をなくし北の地に追いやられ、傷だらけであいつは、それでも戦っていた。
雪の舞い落ちる中、圧倒的な兵力と武力の差で刀を切り結ぶこともなく、侍を夢見た男は、銃弾を浴び倒れていった。周りには味方の亡骸ばかり。
それは自分の10年前の光景にも似ていた。

「あいかわらず暇そうだな。」
見かけたら声をかけてくる。だが、それは、親しいということなのか?
「総悟をみなかったか?」
「…見たけど、それがなにかぁ?」
気の抜けた答えに唇をとがらせる。こいつだって俺が、親切にどっちに行ったかなんて言わねえことは分ってるだろうし、言ったとして追いつけないことは分っているはずだ。
ため息をついて、ほんの一時休憩をとる気になったようで隣に座る。
「団子はいらねえから、茶をくれ。」
新撰組の色男を見かけ、表に出てきかけた看板娘に奥を振り向きもせず注文した。
「…なんだ?」
つい、じっと見ていたようだ。
そして。
「お前、かわいそうだな。」
ぽろりと呟いてしまった。当然土方は、怪訝な顔を一瞬し、
「なんだとぉ!てめえに同情されるいわれはねえよ。」
瞬間湯沸かし器のように怒りを爆発させる。
「いや、いや、かわいそうだろ。不幸だろ。同じ公務員のはずなのに幕府のお偉いさんにはいじめられ、守ってるはずの市民の皆さんにはやくざとののしられ、上司はストーカーで、部下はサボリ魔のサディストで…。」
ごまかしてはみたが、ごまかしきれるものではない。
「自分が不幸だとか、思わねえか?」
いつになくまじめな様子で問いかければ、怒りは収まったらしい。怪訝な様子に戻り、また、腰を下ろす。
「思わねえな。」
叫んだときに落としてしまった煙草を灰皿に放り込み次の煙草に火をつけた。これはおそらくこいつの冷静になろうとするときの癖だ。ゆっくり吸い込み、ゆっくり煙を吐き出す。
「俺は、幸せだ。夢があって仲間がいて、信頼してついていける人がいる。それらのために使える命があって動かせる体がある。」
おっかなびっくり茶を差し出した娘に片手で感謝を伝え、熱く濃いそれを口にする。
「これ以上の幸せはない。だいたい、自分で自分を不幸だなんて思っている奴が幸せになんてなれねえよ。総悟だって近藤さんだって、あれでいいんだよ。」
「でもよ、悲しくはねえか?もっと楽に面白おかしく生きてるやつはごまんといる。時々、今、ここで必死に生きてる自分が馬鹿らしく思えたりしねえか?この世界が、どこかの誰かの見ているはかない夢なんじゃないかとか思ったりしねえか?」
さすがにあまりに俺らしくないとは、俺も思う。夢の中の土方があまりに必死ではかなげだったからと言ってこの目の前の男はいつものふてぶてしい土方なのだ。
「夢でも、夢や想像でも。」
店の軒下にぶら下げられた風鈴が、ちりんと小さく風を告げる。
「いや、誰かの夢なら、いっそ俺はその人にありがとうって言いてえ。俺は幸せだから、夢を見てくれてありがとうって伝えてぇな。」
湯呑の向こうで笑ったのは見間違いではないだろう。
ああ、そうだ。10年前の俺も不幸ではなかった。悲しかったし苦しかった。いっそ夢なら覚めてほしいと思ったが、自分を不幸と思ったことはない。
だから、今の俺は、幸せなのか。

それは、俺のみた夢の世界で生きる誰かかもしれない。かつていた誰かをかわいそうだと、幸せになってほしいと思って今の俺たちを夢見てくれているのかもしれない。
ああ、俺たちは幸せだ。
ありがとうよ。

土方は、茶代をおいて、仕事に戻って行った。相変わらず忙しい奴だ。

夢の中の土方も、最後に微笑んでいた。銃弾に倒れながら、白い雪が舞い落ちてくる空を見上げて、つぶやいたのは、なんだったのか。あいつも、幸せだと思っていたなら、それでいい。

END




最新の画像もっと見る

コメントを投稿