SMILEY SMILE

たましいを、
下げないように…

天使の見上げる空は

2006-02-02 13:14:16 | 

これから、書こうとするのは、えと、いつだったでしょうか、7年くら

い前、電車の中で考え考えしながら、携帯電話のメモに打ちこんだも

のが元になっている短いお話。

『くじら、ねこ』みたいに長くないから、みなさんの大事な時間をそれ

ほど頂戴することも、ありません。

あ、でも、たまに『くじら、ねこ』の方も読みなおして頂けると、私に

とってこれほどの至福はありません。あれには、私の、




・・・いや、いいんです。

さてさて、はじまりはじまり・・・、と。



さてさて、どこまで話しましたかね。今や、「ペンギン」などと呼ばれ、

きゃあ、可愛らしい、などと専ら婦女子なぞに人気の、あの鳥類につい

て。

この話を、あなた、聞いたなら、あの珍妙な鳥類への考えがちょっ

と変わるかもしれません。いや、なあんだ、やっぱりそんなことだろう

と思っていたよ、とも思われるかもしれませんが。



ペンギンは、実は、天使だったのです。




天地創造。

かみさまは、この世界をお創りになり、とりあえず、ホッと一息。大地

に生え始めた低木の葉をひと掴みお湯に投げ入れお茶の時間。しばし

和み、自作の庭、眺めるが如く世界を見下ろしになる。すると、何やら

足元で先程創った人間が、何だかもじもじ、ぶつぶつ言っているので、

仕方なく話を聞いてやることにしました。

「かみさまかみさま、かーみさま。聞いてますかー。なんかね、あたく

しの場所、なくなっちゃったみたい。ぼんやりしてたら、海も、山も、

大地も、みいんな誰かのものになっちゃったい。あなたサマのお力でな

んとかしておくんなまし。どこでもいいから、さ、できるよね、かみさ

まだものネ。ねぇ、旦那ったら、そんな嫌な顔するもんじゃありません

よ、ね、頼みます。」

いやに馴れ馴れしいこの人間は、「詩人」といい、今この世に跋扈する

人間の試作品、試作人、言ってしまえばデキソコナイ、失敗作、穀潰し

、ろくでなし、習作、スケッチなのでした。

困り顔のかみさま曰く、

「もう遅いよ・・・。これから誰かの場所を取り上げたりしたら、その

 人はどうしたらいいんだい。わがまま言わんでください。かみさまだ

 って大変なのです。みんな仲良くしてほしいのです。隣人愛!みんな

 みんな、ほんの少しずつ譲り合え上手く行くのに、いやらしい、みん

 な揃って少しずつ欲張るものだから、嫌な思いするのです。・・・そ

 れはそうと、君はいったい、どこでボンヤリしていたのです。」

「どこって・・・、ここだよ、ここ。アンタの足元にずっといたのさ、
 
 かみさま、あなた夢中だったからね。楽しそうに、歌いながらこの世

 を創っておいでになったからさ、コッチはウットリしてたって訳よ。

 あの歌、教えてお呉れよ。

 素敵なうた。

 そしたらさ、手前の場所なんていらない。おいらはどこへでも行くさ。

 さすらいましょうや。そのうたさえ歌えたら、ねぇ。」

かみさまのお顔はやっと晴れ晴れいたしました。そのせいで世界に光

があふれ、すべてのものに希望が宿った、とさえ言われています。

かみさまは嬉々として曰く、

「おおそうか、お易い御用だ。すべて教えてあげよう。人間に聴かせ

 てやってくれ。あやつらのココロは放っておくと、簡単にすさんでい

 ってしまう。(・・・こやつは人間の中でも出来損ないだったんだが

 なるようになるものだな。)」

ふたりとも、思いのほか、都合よくことが進み、笑顔で別れることが出

来ました。

「たまには、ここに顔をだすがいい。うたの評判も気になるでな。」

「そうだね、僕くらいになると、ここを思いさえすれば、一瞬でやって

 来れるからね。気が向いたら、ご報告にあがりますよ。」

こうして、詩人は世の中の至る所で、うたを詠うことになったのです。


「やれやれ、もう安心。ゆっくりお茶でもしようかしらん。どれどれ、

 果物はりんごに、いちじく、あとラファエルの作ったギモーヴも食べ

 たいな。」

仕事のあらかた片付いたかみさまは、すっかりご機嫌で玉座にゆった

りあぐらをかいて、鼻歌、リラックス。

「ねぇねぇ、お茶のオカワリを頂戴」

側に仕える天使たちは、「はいよろこんで」とばかりに立ち働く。

しかしどこの世界にも、のんびりやというか、ぼんやりしたのがいるも

の。本人としては全く悪気はなく、公然と世の流れから外れて平気で

いる。沸いているお湯を不思議そうに眺めていたり、真赤に輝くりんご

を名残惜しげに撫でつけていたり、とかく役立たずではあるのだけれ

ど、憎めない天使がいるのでした。


(続)