父は、妻の父だ
父は、さつきが好きで、
庭いじりが、大好きだった
父の娘の、妻も、
父の庭が、大好きだった
時は、流れた
娘は、結婚して、
息子たちを産んで、
遠い田舎に、引っ越して行った
…
父は、娘の家を、
遥かに、訪ねた
娘の建て売りの家には、
まあまあの広さの、
庭が、あったけど
なんだか、さびしい
…
さつきが好きで、
庭いじりの好きな、
そんな父は、
遠い田舎の、
遥かな娘の家に、
クルマを運転して、
何度も、何度も、
訪ねて行った
そのクルマは、
退職後の、
下請け仕事用に、
買ったバンだ
納品する部品を、
届けるのに、
ちょうど良いと言う
そのクルマで、
さつきや、つつじや、
他の木々も、
運んで行くのだ
…
娘の家に着くと、
バンに積まれた、
手頃に整えた木々を、
下ろし始める
娘の夫の自分は、
軽い挨拶だけで、
下ろすごとだけは、
手伝った
でも、娘の妻は、
ずっと、手伝う
木を植える父を、
娘が、手伝う
妻と自分の、
ふたりの息子たち、
孫たちも、
おじいちゃんに、
あれこれと、纏わりついて、
ちょっと、お手伝いもする
そんな風にして、
庭には、
さつきやつつじの数々
もっと、色々な木々も、
植えられていった
父が植えて、
娘が、手伝った
…
庭は、
あっと言う間に、
様々な木々や、草花の、
小宇宙に、
育っていった
色々な小鳥が、飛んで来て、
妻に言われて、
自分が取り付けた、
幹に架けられた巣箱に、
住んだりもした
やがて、
まっしろな、
おとこのこの、こいぬが、
家族になって、
庭に住んだ
甕を埋めた池には、
金魚や、めだかを、
育てたりもした
野良猫が、
狙ったりもしたけど、
庭の主になったいぬが、
追い払っていた
…
でも、身体の悪かった、
妻の母が、
もっと、身体を、
悪くしてしまった
その母の介護に疲れて、
父も、身体を、
悪くしてしまった
もう、あんまり、
娘の家には、
来れなくなってしまった
…
娘の息子が、
おんなのこのいぬを、
拾ってきた
そして、しろい、
お兄ちゃんのいぬの、
茶色い
いもうとの、いぬになった
二匹のいぬが、
父と娘の庭に、
暮らすようになった
娘は、
花を、植えた
どの季節にも、
絶え間なく、花は咲いた
つつじが咲き、さつきが咲く
娘の植えた花々も、
ともに、咲き誇る
木々も、生い茂る
そんな庭に、なっていた
ただ、父と娘の、
庭を、見ることもなく、
娘の母は、亡くなった
…
夫の自分は、
庭には、関心がなくて、
子どもたちは、
大きくなったから、
家の庭などでは、
もう、遊ばない
それでも巡っていく、
庭の四季には、
様々に咲く花々と木々
年とっていく娘と、
いぬたちだけが、
いつも、いた
でも、やがて、
お兄ちゃんのいぬは、
亡くなってしまった
そして、木を植えてくれた、
あの父も、
とうとう、
亡くなってしまった
父は,もう、
娘との庭に、来ることはない
…
でも、娘は、
花を植え続けて、
父の植えた、
つつじも、さつきも、
娘の植えた花々も、
ずっと、咲き続けた
…
娘は、花を植え続ける
ただ,娘の夫の自分は、
無関心なままで、
息子たちも、
もう、手伝うことはない
それでも、花を植えている
娘の傍らには、
おんなのこの、
いぬだけが,残っていた
花を植える娘と、
見守っているいぬ
庭は,娘といぬの、
庭になっていた
…
でも、時は、
容赦がない
ただ、巡って行く
おんなのこのいぬも、
娘に見守られて、
亡くなってしまった
父と娘の庭で、
娘といぬたちの庭だった、
そんな庭が、
娘だけの,庭になっていた
娘の夫の自分は、
それでも,無関心で、
大人になった息子たちも、
足を踏み入れることはない
そんな庭にも、
つつじが咲き、さつきが咲き、
娘の植えてきた花々も、
ともに、咲き続けている
そして、娘は、
すっかり年老いた今日も、
花を植える…