『いつもと違う夕方』
「あ~試験終わった~!!色々な意味で!!」
自分の机に突っ伏しながらレオナは大声を出した。ついでに伸びもする。試験が終わった時にしてしまうお馴染みの行動。
やっと試験から開放された嬉しさもあるが、これから自分の答案が採点されるであろう事を考えると不安で胸がいっぱいだ。
こんな時は友人と話すに限る、友人のトローチの席は自分の席からはそう離れていないしきっと彼女も話したいことが山ほどあるだろう。
テストに限らず何か大きな出来事が始まる時と終わる時人間は饒舌になりがちである。現に今教室はかなり騒がしい。学生全員思い思いの人に思い思いの事を話している。比較的おとなしい部類に入るであろうトローチもきっとああだったとか、こうだったとか色々言いたいに違いない。朝は自分がたくさん愚痴ってしまったから、そのお返しではないけども今度は彼女の話を聞いてあげよう、とレオナは決意して席を立った。
早足で友人の元へ急ぐ。
「トローチお疲れ~。いやはや今回も難しかったねぇ。」
「レオナもお疲れ様。この後別室で昇級試験だよね、頑張ってね。」
レオナはトローチの元へ辿り着き開口一番に労った。なんだか彼女がいつもより元気がないようにも見えて、思わず咄嗟に労いの言葉をかけてしまった。もしかすると冗談抜きでテストができなかったのかもしれない。その悲しいような悔しいような腹立たしいような感じをよく経験しているレオナは次になんて言おうか言葉に詰まる。これは向こうから何かあったのか言ってもらうしかない。
「んと…トローチどうかした?」
「えっ。」
さりげなく聞いたつもりが相手は目を見開き、驚いた様子でこちらを見上げた。逆にこちらも驚いた。
もしかすると余計なお世話だったかもしれないと思い至る。
「いや、いつもより元気ないかな~って。気のせいだったらごめんね。」
あはは、と乾いた笑いを返しながらレオナは謝罪する。こちらの誤解で友情が崩れるのはなによりも嫌であったし誤解でないなら尚のこと原因が知りたい、たとえお節介でも。そんな想いを知ってか知らずかトローチは苦々しく笑った。
「レオナはすごいなぁ。なんでわかっちゃうんだろ。」
「トローチ結構顔に出るからね。隠してるつもりかもしれないけど。」
本当に悩みがあったんだ、とレオナは純粋に驚いた。顔に出るの件は全くの嘘っぱちである。レオナは元々人の感情とかそういった内面的なものに鈍感である。自覚もしている。
だからこそ本当に驚いたし、悪い気もした。しかし嬉しいことに人の内面を当ててしまった何ともいえない罪悪感は一瞬で消えてくれた。なんでレオナの方が驚いているの、とトローチは笑う。そして口を開いた。
「なんかね、朝から嫌な予感がするの。いつもの時間に起きられなかったし、眼鏡なかなか見つからなかったし、それに…食堂にいた先生と兵士が気になって。」
「前半はちょっと笑えるけど後半は同意するかも。」
というか前半はなんなの、とレオナは付け加えた。誰だって上手く事が運ばない日はあるっつーの、とため息を吐く。トローチは変なところで完璧主義者であり、心配性である。それも重症な。
周りの人間にはちょっと変な子と思われがちだけども、トローチにとってはこれが正常運転なのだ。1年近く友人として過ごすうちに慣れてきた。
だからむしろいつもと違うことが起きたり、上手いように事が運ばないことについて真剣に悩む事だって彼女にとっては普通の事なのである。
「まぁ、私もよくあるよ。いつも起きられてた時間に起きられないとか、カチューシャ見つからないとか。でも王国の兵士は確かに気になるよね、先生もなんだか妙な雰囲気だったし。」
「やっぱり先生ちょっと変だったよね。」
どことなく安心した様子でトローチは言葉を返した。自分の不確かなもやもやを共感してくれての安堵かもしれない。
「でもさトローチ、考えたって仕方ないじゃない?何か重大なことがあるなら先生が皆に発表するだろうし、実際何かあってもうちにはたくさんの優秀な先生達がいるんだよ?兵士が一人来たくらい朝飯前よ。」
「そっか。また私の考えすぎかぁ。ダメだね、ついつい何でもかんでも悪いほうへ悪いほうへ考えがいっちゃう。」
トローチはしゃべって満足したのか机の横にあるかばんを手に取った。その様子を見てレオナも慌てて自分の席に戻ってかばんを手に取る。静かとは思ったが気づけば教室には誰もいなかった。
他の学生は自分の部屋か気晴らしに町に行ったのだろう。
「トローチ試験で疲れたでしょ。部屋に戻ってゆっくりしてたらどう?まだ夕食まで時間もあるし。」
「ううん、それよりレオナ次昇級試験でしょ。教室まで一緒に行こうよ。」
ね、とトローチは穏やかな笑顔を向けた。自分もこのように穏やかな笑顔が出せるように、嫌な試験をさっさと終わらせようとレオナはこっそり決意した。
試験が終わったらトローチと食堂で夕飯を食べよう。今日は頑張った日だからごほうびとして町へ食べに行くのもいいかもしれない。
ああ、でも
「(終わったら町でご飯食べるのはいつも通りじゃあないか。)」
トローチが嫌がるかもしれないな、と経験から思う。
彼女に合わせすぎるつもりはないが、付き合いが長くなると嫌がることもわかってくるし、それを無意識に避けようとしてしまう。
そういう友達づきあいはしたくはないから、彼女はもう一度
「試験終わったら町にご飯食べに行かない?」
笑顔で友人にそう告げるのだった。
******************************************
第3話更新しました。トローチの友人レオナメインの話みたいになりましたね。
本編にそこまで関わってくる子ではない予定ですが番外編に出してあげたいなと思っています。
実は用語集作ろうかと思っています。
作る目的はオリジナルストーリー内の専門用語を自分の中で整理することです(笑)
少しでもしっちゃかめっちゃかな話にまとまりができたらいいな、という希望で。
もちろん公開するので時間つぶしに見ていただけたら嬉しいです。
「あ~試験終わった~!!色々な意味で!!」
自分の机に突っ伏しながらレオナは大声を出した。ついでに伸びもする。試験が終わった時にしてしまうお馴染みの行動。
やっと試験から開放された嬉しさもあるが、これから自分の答案が採点されるであろう事を考えると不安で胸がいっぱいだ。
こんな時は友人と話すに限る、友人のトローチの席は自分の席からはそう離れていないしきっと彼女も話したいことが山ほどあるだろう。
テストに限らず何か大きな出来事が始まる時と終わる時人間は饒舌になりがちである。現に今教室はかなり騒がしい。学生全員思い思いの人に思い思いの事を話している。比較的おとなしい部類に入るであろうトローチもきっとああだったとか、こうだったとか色々言いたいに違いない。朝は自分がたくさん愚痴ってしまったから、そのお返しではないけども今度は彼女の話を聞いてあげよう、とレオナは決意して席を立った。
早足で友人の元へ急ぐ。
「トローチお疲れ~。いやはや今回も難しかったねぇ。」
「レオナもお疲れ様。この後別室で昇級試験だよね、頑張ってね。」
レオナはトローチの元へ辿り着き開口一番に労った。なんだか彼女がいつもより元気がないようにも見えて、思わず咄嗟に労いの言葉をかけてしまった。もしかすると冗談抜きでテストができなかったのかもしれない。その悲しいような悔しいような腹立たしいような感じをよく経験しているレオナは次になんて言おうか言葉に詰まる。これは向こうから何かあったのか言ってもらうしかない。
「んと…トローチどうかした?」
「えっ。」
さりげなく聞いたつもりが相手は目を見開き、驚いた様子でこちらを見上げた。逆にこちらも驚いた。
もしかすると余計なお世話だったかもしれないと思い至る。
「いや、いつもより元気ないかな~って。気のせいだったらごめんね。」
あはは、と乾いた笑いを返しながらレオナは謝罪する。こちらの誤解で友情が崩れるのはなによりも嫌であったし誤解でないなら尚のこと原因が知りたい、たとえお節介でも。そんな想いを知ってか知らずかトローチは苦々しく笑った。
「レオナはすごいなぁ。なんでわかっちゃうんだろ。」
「トローチ結構顔に出るからね。隠してるつもりかもしれないけど。」
本当に悩みがあったんだ、とレオナは純粋に驚いた。顔に出るの件は全くの嘘っぱちである。レオナは元々人の感情とかそういった内面的なものに鈍感である。自覚もしている。
だからこそ本当に驚いたし、悪い気もした。しかし嬉しいことに人の内面を当ててしまった何ともいえない罪悪感は一瞬で消えてくれた。なんでレオナの方が驚いているの、とトローチは笑う。そして口を開いた。
「なんかね、朝から嫌な予感がするの。いつもの時間に起きられなかったし、眼鏡なかなか見つからなかったし、それに…食堂にいた先生と兵士が気になって。」
「前半はちょっと笑えるけど後半は同意するかも。」
というか前半はなんなの、とレオナは付け加えた。誰だって上手く事が運ばない日はあるっつーの、とため息を吐く。トローチは変なところで完璧主義者であり、心配性である。それも重症な。
周りの人間にはちょっと変な子と思われがちだけども、トローチにとってはこれが正常運転なのだ。1年近く友人として過ごすうちに慣れてきた。
だからむしろいつもと違うことが起きたり、上手いように事が運ばないことについて真剣に悩む事だって彼女にとっては普通の事なのである。
「まぁ、私もよくあるよ。いつも起きられてた時間に起きられないとか、カチューシャ見つからないとか。でも王国の兵士は確かに気になるよね、先生もなんだか妙な雰囲気だったし。」
「やっぱり先生ちょっと変だったよね。」
どことなく安心した様子でトローチは言葉を返した。自分の不確かなもやもやを共感してくれての安堵かもしれない。
「でもさトローチ、考えたって仕方ないじゃない?何か重大なことがあるなら先生が皆に発表するだろうし、実際何かあってもうちにはたくさんの優秀な先生達がいるんだよ?兵士が一人来たくらい朝飯前よ。」
「そっか。また私の考えすぎかぁ。ダメだね、ついつい何でもかんでも悪いほうへ悪いほうへ考えがいっちゃう。」
トローチはしゃべって満足したのか机の横にあるかばんを手に取った。その様子を見てレオナも慌てて自分の席に戻ってかばんを手に取る。静かとは思ったが気づけば教室には誰もいなかった。
他の学生は自分の部屋か気晴らしに町に行ったのだろう。
「トローチ試験で疲れたでしょ。部屋に戻ってゆっくりしてたらどう?まだ夕食まで時間もあるし。」
「ううん、それよりレオナ次昇級試験でしょ。教室まで一緒に行こうよ。」
ね、とトローチは穏やかな笑顔を向けた。自分もこのように穏やかな笑顔が出せるように、嫌な試験をさっさと終わらせようとレオナはこっそり決意した。
試験が終わったらトローチと食堂で夕飯を食べよう。今日は頑張った日だからごほうびとして町へ食べに行くのもいいかもしれない。
ああ、でも
「(終わったら町でご飯食べるのはいつも通りじゃあないか。)」
トローチが嫌がるかもしれないな、と経験から思う。
彼女に合わせすぎるつもりはないが、付き合いが長くなると嫌がることもわかってくるし、それを無意識に避けようとしてしまう。
そういう友達づきあいはしたくはないから、彼女はもう一度
「試験終わったら町にご飯食べに行かない?」
笑顔で友人にそう告げるのだった。
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第3話更新しました。トローチの友人レオナメインの話みたいになりましたね。
本編にそこまで関わってくる子ではない予定ですが番外編に出してあげたいなと思っています。
実は用語集作ろうかと思っています。
作る目的はオリジナルストーリー内の専門用語を自分の中で整理することです(笑)
少しでもしっちゃかめっちゃかな話にまとまりができたらいいな、という希望で。
もちろん公開するので時間つぶしに見ていただけたら嬉しいです。