パパね、中身が女の人らしい💁🏻‍♀️

性同一性障害MtF
恋愛対象は女性
強烈な男性拒絶でさらに複雑

院長先生の診察

2020年05月22日 | 男から女性へ💁🏻‍♀️
院長先生の診察はこれで3回目になる。
初診では性同一性障害とは何か、これからどうしていきたいのかということを話した。
2回目の診察は、カウンセリングを受けてみてどうだったかという程度の浅い話。
おそらく、実際に診断が進む中での心境変化を確認しているのだろう。
今のところメインはカウンセリングだ。ここに至る前での経緯、性別違和の原因を突き止めていく。となると、診察は何をするのか。診断確定は2名の専門医が同一の所見、判定、診断を出して初めて可能となると聞いているが、そこに到達するまで何をするのだろうか。普通の病気とは全く違うプロセスだ、わからないことだらけで不安にもなる。ストレートに訊いてみるほうがいいだろう。

名前を呼ばれて診察室へ入る。
いつも通り、院長先生が穏やかな笑顔で迎えてくれた。

「カウンセリングは順調に進んでいるようですね。かなり昔のことから記憶を辿っていくので大変だと思いますけど、大切なことなので頑張ってくださいね」

記憶の反芻は確かに辛いが、今まで打ち明けたことがないような話をしていくと、話終わった後で気持ちが軽くなるということを覚えたので、さして苦にならない。

「まだ始まったばかりですが、自分は性同一性障害だと思いますか?」

いきなりストレートに訊かれた。唐突なので驚いた。
正直なところ、そうだとは思うがどうなのかよくわからない、と答えた。

「十代とかの若い方だと、思春期の一時的な中性感で性別違和のような感覚になることがよくあるんです。大半は年齢が上がるにつれて自然に解消していくんですけどね。でも中には継続的に性別違和が維持される人がいる。じゃあそういう人は性同一性障害なのかというと、全てがそうとは限らない。そこでいろいろな検査をしたり、カウンセリングをおこなって、見極めていくわけです」

そこまでは理解している。

「診断確定までに行うことを説明しますね。カウンセリングはもう開始しているのでいいでしょう。次は血液を採取して染色体に異常がないかを確認します。もし染色体に異常がある場合は性同一性障害ではなく、別のものになりますので、その際は別途案内させていただきますね。その後、MtFの場合は泌尿器科で生殖器の検査を受けていただきます。生殖器に異常がなければ問題ありませんが、異常があればこれもまた別途案内となります。並行して精神疾患がないかどうかの確認も進めていきます。特に性的倒錯に関わる精神疾患がなければ問題ありません。問題がある場合は治療を行いますが、性同一性障害の診断は出せなくなります。それと、思考や性質などをこういった診察で判断していき、あなたの心の性別がどちらかを確認していきます。心理テストのようなものも行っていきますが、あまり難しく考えなくて大丈夫ですよ」

かなりのボリュームがあるように思えた。

「では早速始めましょう。今の服装は何か意図がありますか?」

思っても見ない質問にたじろいだ。
今日はスキニーのデニムを穿き、上はシルエットがわからないような緩めのカットソーに、カジュアルなジャケットを着ている。どれもレディースものだ。髪は肩甲骨あたりまで伸ばしているが、今時はロングヘアの男もいるし、メイクもしていない。男っぽさを出さないように意識はしているが、かと言って女性の容姿にしているわけでもない。今まで女性に見えるような容姿にしていたこともあったが、胸もないし、顔つきも男を隠せないので、無理に弄ろうとはしていなかった。

「今の容姿は男性ですよね。中性寄りではありますが、ご自身でも女性の容姿にしている意識はないと思います。その理由は、この時点で容姿を女性にしても無理があると感じている。違いますか?」

その通りだ。

「じゃあどうすれば女性の容姿になれるのか。顔や胸、身体のライン、全てが女性化していくことが必要になります。逆に言うと、女性としての自信が無いから女性の容姿をしていないということでしょう。自認している性別は関係なく、これは正常な判断です。少なくともこの時点で、異性装癖はないと考えられます」

納得できる。
女性としての容姿にしたいが、いくら化粧をしても、いくらレディースの服を着ても、肉体が女性化していなければ違和感が出る。そんな状態で女性の容姿をして外に出れば、周囲の人の目が気になって仕方ない。変な人と思われるだけでなく、単なる変態と思われるだろう。

「以前お話ししたように、性同一性障害の治療というのは、自認性別に身体的特徴を合わせていくことになります。性同一性障害の診断が確定したら、まずはホルモン療法で女性ホルモンを投与して女性化を進行させる。次は豊胸手術、声帯手術などの外科的アプローチで女性としての身体的特徴を施す。最終的には性別適合手術で生殖器の外観を形成する。生殖器の外観を女性器にすれば、家庭裁判所へ戸籍上の性別変更を申し立てることができるので、完了すれば戸籍上も女性になります。また、診断確定していれば、性同一性障害を理由に戸籍上の名前を女性名に変更することが可能になりますので、性別適合手術をしなくても、戸籍上の名前だけを先に変更しておくこともできます」

名前の変更ができる?性別適合手術をしなくても女性名に変更できるのか。知らなかった。

「恋愛対象は女性と聞いていますが、そういう方の場合、性別適合手術は受けないことが多いんですよ。治療は自費診療の範囲なので、どこまでやるかは患者さんの意思になるますが、どうしたいですか?」

一瞬で心が決まった。

「性別適合手術はしなくていいです。ホルモン療法で女性化することと、名前を変更したいです。名前はすぐにでも変更したいのですが、診断確定してからになりますから結構時間がかかりますよね?」

「そうですね、診断確定まで少なくとも半年から一年はかかりますから、それからになりますね。裁判所へ名前の変更を申し立てるのは、手続き的には簡単ですし、名前変更を目的とした診断書を作成しますので、あとは必要な書類を用意して申立書を出して裁判官の許可が下りるかどうかという流れになります。まだ先の話ですが、名前の変更許可申立は法務省のホームページに書式や案内が載っていますので、あとでお知らせしますね」

「名前の変更はとにかくすぐにでもしたいです。もうこの名前で呼ばれるのが嫌でしかたなかったんですよ」

「皆さん、そう仰いますよ。最近の病院は受付番号で呼ぶところが増えていますが、見た目が女性なのに男性の名前で呼ばれるとか、苦痛になりますからね。うちの診察券、名前と性別が空欄になっているでしょう?性同一性障害で受診される方の診察券は、あえてそうしているんです」

そういえばそうだった。
なぜ空白になっているか気になってはいたが、そういう配慮があったのか。

「あと、名前の変更をしていると言うことは、既に診断確定して裁判所で名前の変更許可が降りて戸籍名が変更されていることを証明しますので、日常生活でとても大きな影響が出るんですよ。今は社会性別という考え方が広く認知されてきていますし、気持ち的にも正式に女性名になれば、女性として生活していく励みにもなりますからね」

本当にその通りだ。

「どうでしょう、診断確定をして名前の変更や女性ホルモンの投与をしたら、女性として生きていく勇気が出そうですか?」

「はい、もうそこまで出来れば充分です。早くそうしたいですね」

名前の変更はとても大きい。一刻も早く変更したいと気が急いてくる。

「わかりました。じゃあその方向として考えていきましょうね。ただ、後で後悔するような事がないよう、毎回のように意思確認していきますので、心情に変化があったらどんなことでも話してください。慎重な判断が必要な大切なことですので、遠慮なく話してくださいね」

ここで終わった。
部屋を出る時、院長先生が呼び止めた。

「今後、もし可能であればですが、女性としての容姿で来てみてはどうでしょう。もちろん無理しなくていいですよ。ご自分で女性として外出する気持ちになれたらで構わないので」

院長先生の穏やかな笑顔に、勇気づけられた気がした。

車に乗り、ルームミラーで顔を見る。
次は二週間後。カウンセリングの前に診察だ。
二週間でどこまで準備ができるかわからない。
でも女性としての容姿で来たいと思っている。
何をどこまでやるかは友達に相談してみよう。
でもその前に、息子に見てもらわなければ。まずはそこからだ。

二週間後の自分を想像しながら、母親の顔に戻り、家路を急いだ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。