◯ 1km超えでも通信できる無線LAN規格、「Wi-Fi HaLow」の特徴。
Wi-Fiの電波は、途中経路に障害物が無く周囲の電波干渉が少ない場所であれば、50~100mは届くと言われている。とは言え、実際は途中経路に障害物があることが多く、周囲の電波干渉は必ずといっていいほど受けるので、そこまでの距離は届かない。つまりWi-Fiは、遠距離通信に向いていない。
ただし例外と言える規格がある。かなり遠くまで電波を飛ばせるようにした「Wi-Fi HaLow」(ワイファイヘイロー)だ。今回は、このWi-Fi HaLowの特徴を紹介していく。
プラチナバンドの利用で1km超えの長距離通信を実現。
Wi-Fi HaLowは、低消費電力で長距離通信が可能なWi-Fi規格である。条件が良い場所であれば、1kmを超えた場所でも電波が届くとしている。ただし通信速度は、本連載で主に取り上げているWi-Fi 6やWi-Fi 7よりかなり低い。また日本国内では制限もあるため、大容量の通信には適さない。利用用途が異なるのだ。
無線LANとしての規格名は「IEEE 802.11ah」で、ほかに「Wi-Fi CERTIFIED HaLow」や「S1G(Sub 1GHz)」と呼ぶこともある。日本国内では、2022年9月にWi-Fi 6Eの6GHz帯とともに利用可能になった。
Wi-Fi HaLowでは、通信に920MHz帯の周波数を用いる。2.4GHz帯や5GHz帯、6GHz帯は使用しない。ここもWi-Fi 6やWi-Fi 7との大きな違いだ。
920MHz帯は「プラチナバンド」と呼ばれることもある周波数帯である。低い周波数の電波は障害物の後ろに回り込む性質があり、遠方にも電波が飛びやすい。
Wi-Fi HaLowは、前述の通り条件が良ければ1kmを超えた先にも電波が届き通信できるとしている。見通しが良く周囲の電波干渉が少ない海域における実験結果によると、2.5km離れた位置でも電波が届くという*1。
こうした特徴から、Wi-Fi HaLowは低消費電力、長距離通信を特徴とする無線通信技術を指すLPWA(Low Power Wide Area)に分類されることもある。LPWAとしては、Wi-Fi HaLowのほかに「LoRAWAN」「Sigfox」「Wi-SUN」などがある。
一方、Wi-Fi HaLowの使い勝手は、アクセスポイントを設置し、子機からはSSIDと暗号キーを入力して接続するなど、ほかのWi-Fi規格と同じだ。利用に無線免許や認可などの準備は不要で、自分で設置して運用できる。そのため、低コストで遠方接続ができる仕組みとして期待されている。
利用にはWi-Fi HaLow対応の親機と子機が必要。
Wi-Fi HaLowは、2.4GHz帯や5GHz帯、6GHz帯を利用するWi-Fi機器とは接続できない。Wi-Fi HaLowに対応するアクセスポイントと子機が必要となる。
日本国内では、Wi-Fi HaLowに対応するアクセスポイントやワイヤレスブリッジ、組み込み向け無線LANモジュールなどが販売されている。Wi-Fi HaLowと、Wi-Fi 6などほかの規格の両方に対応するアクセスポイントもある。ただし、いずれも業務用の製品で、家庭用向けの製品と比べると高価だ。筆者が調べたところ、家庭用向けのWi-Fi HaLow対応製品は見当たらなかった。
低速で常時データを送受信する使い方には向かない。
前述の通りWi-Fi HaLowは、Wi-Fi 6やWi-Fi 7と比べると、通信できる距離はかなり長い一方で、通信速度はかなり低い。
Wi-Fi Allianceのブログ記事に掲載されていたテスト結果によると、農場で700mの距離で4M~6.4Mbps(UDP)、3.1M~4.4Mbps(TCP)、2kmの距離で1M~1.5Mbps(UDP)、160K~600Kbps(TCP)程度だという*2。
また日本では現在、「Duty比10%」というWi-Fi HaLowの利用について制限が設けられている。Wi-Fi HaLowを利用するのに無線免許や許可は不要だが、電波の送信時間が1時間あたり10%(Duty比10%)に制限される。具体的には、1時間(60分)中6分間しか電波を送信できない。そのため、Wi-Fi HaLowは大容量ファイルの転送や映像伝送など、常にデータを送受信するような使い方には向いていない。
ここで紹介した特徴から、Wi-Fi HaLowの用途はほかのWi-Fi規格と大きく異なる。遠距離の制御が必要なIoT(Internet of Things)機器や、遠方からの機器のファームウエアアップデート、ネットワークカメラの静止画による監視など、通信速度や容量を必要としない使い方が想定されている。