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小野寺史宜著〖ひと〗あらすじ・ネタバレ感想。10ページ目で涙腺が緩んだ

小野寺史宜著〖ひと〗あらすじ・ネタバレ感想。
10ページほどで惣菜屋の店主の粋なはからいにもう涙腺が緩む。
財布に55円しか入っていない、ほぼ天涯孤独の二十歳の青年が、唯一買える50円のコロッケを横から割り込んだ老婆に譲ったところから未来に光が差し始める。

〖ひと〗

『ひと』 著者:小野寺史宜 tataraworks
■著者:小野寺史宜
■カバーイラスト:田中海帆
■カバーデザイン:
    多田和博+フィールドワーク
■発行:祥伝社(祥伝社文庫)



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〖ひと〗あらすじ・ネタバレ感想




〖ひと〗登場人物 

●柏木聖輔(かしわぎ・せいすけ)
 17歳で父を亡くし、20歳の秋に母が急死
 大学を中退
 [おかずの田野倉]でバイトを始める
 調理師を目指す

<[おかずの田野倉]関係者>
●田野倉督次(たのくら・とくじ)
 [おかずの田野倉]店主で67歳
 子供はいない
 コロッケが縁となり聖輔を雇ってくれる
●田野倉詩子(たのくら・うたこ)
 督次の妻で65歳
●稲見映樹(いなみ・えいき)
 督次と父・民樹が友人
 父のつてでバイトをしている24歳
●芦沢一美(あしざわ・かずみ)
 中学生の息子がいるシングルマザーで37歳

●芦沢準弥(あしざわ・じゅんや)
 一美の息子で受験を控えた中学生
 ベースを欲しがっている
●野村杏奈(のむら・あんな)
 映樹の彼女

<聖輔の関係者>
●柏木義人(かしわぎ・よしと)
 聖輔の亡くなった父親
 運転中に猫をよけ電柱へ激突
 料理人で東京出身
●柏木竹代(かしわぎ・たけよ)
 聖輔の母親
 鳥取大学の学食で働いていたが急死
 聖輔には保険金が100万円ほど残った

●船津基志(ふなつ・もとし)
 竹代のいとこで44歳
 竹代の保険金狙いで聖輔にたかる

●篠宮 剣(しのみや・つるぎ)
 大学で聖輔とバンドを組んでいた
 ギター担当
 聖輔の留守中に部屋を使用する
●成松可乃と沙乃(なりまつ・かの/さの)
 姉妹だが2人とも剣と付き合う

●川岸清澄(かわぎし・きよすみ)
 聖輔のバンド仲間でドラム担当
●川岸いよ子(かわぎし・いよこ)
 清澄の母親で聖輔の事情を知り食事に招く
●川岸之彦(かわぎし・ゆきひこ)
 高等学校の校長

●井崎青葉(いざき・あおば)
 聖輔の高校時代のクラスメイト
 東京でバッタリ出会う
●高瀬 涼(たかせ・りょう)
 青葉の元カレで復縁を迫るボンボン
 聖輔を牽制する

<義人の東京時代の交流>
●丸 初男(まる・はつお)
 日本橋[多吉]の料理人
 [やましろ]で義人の先輩だった
●山城時子(やましろ・ときこ)
 夫・力蔵亡き後[やましろ]を継ぐ
 板垣三朗と義人を天秤にかけてしまった
 現在は[鶏蘭]を経営

<竹代の職場の人>
●中谷兼正(なかたに・かねまさ)
 聖輔に母の急死を知らせてくれた
●尾藤蕗子(びとう・ふきこ)
 竹代の同僚で学食で働いている

<砂町銀座の人々>
●出島滝子(でじま・たきこ)
 [おしゃれ専科出島]店主
 惣菜の配達先
●出島貞秋(でじま・さだあき)
 定年前に退職し店を時々手伝う
 聖輔とは会ったことがない

●小堀進作(こぼり・しんさく)
 [リカーショップコボリ]店主
●小堀裕作(こぼり・ゆうさく)
 進作の息子
●小堀ちさと
 裕作の妻
●小堀ちなつ 3歳



〖ひと〗あらすじ 

わずか3年で両親を亡くした。
高2の時、父親が運転中に飛び出してきた猫をよけ電柱に激突して亡くなった。
母親は突然死。
原因は不明。
出勤してこないことを案じた職場の人達が家を訪ねて、管理人に鍵を開けてもらったらチェーンがかかっていたので警察を呼んだ、とのことだった。


柏木聖輔、二十歳、法政大学経済学部2年。
急いで鳥取へ戻り、会ったことはなかったが母のいとこである船津基志に連絡をすると、葬儀は基志が仕切ってくれた。
母の保険金でなんやかやと支払いを済ませると残ったのは200万円強。
基志が言った。
借用書はないが竹代に50万円を貸していたから返して欲しいと。


東京へ戻った聖輔は大学を辞めた。
ろくにものを考えられずひたすらぼんやりし、外へ出ればひたすらとぼとぼ歩く。
そんな状態で砂町銀座を歩いていると、空腹に負け揚げ物の惣菜屋に引き寄せられた。
だが、財布の中には55円しか入っていない。
唯一買えるのは50円のコロッケ。
幸い1個残っている。
「コロッケを」と言う聖輔の声に、横からお婆さんの声が被さった……。
『ひと』 著者:小野寺史宜 tataraworks
【下町荒川青春譚第2弾】まち あらすじ・ネタバレ感想



〖ひと〗ネタバレ感想 

10ページほど読んでもう泣きそうになった。
聖輔がコロッケを買おうとした店[おかずの田野倉]の店主・田野倉督次がとても粋なはからいをしたからだ。
聖輔は横から入ってきた老婆に1個しかないコロッケを譲り、督次はそんな聖輔に120円のメンチをすすめる。
聖輔が無理だと言うと、なんと70円もまけて50円でメンチを売ってくれる、消費税も取らずにだ。
聖輔が55円払うと言うとこう答える。

「いいよ。財布がすっからかんになるのも不安だろ?五円じゃ何も買えないけど、残しときな。ご縁を残すってのは語呂もいいしな。ウチとの縁も残して、また今度買いに来てよ」
(10ページから引用)


ぼんやりし続けていた聖輔は、アツアツの揚げたてメンチを食べているうちに何だか頭がハッキリしてきたようで、その店がアルバイトを募集していることに気づく。
ご縁なんてものが本当にあるのか分からないが、聖輔は働かせてほしいと頼む。
督次はハムカツ1枚を無料で聖輔に渡し、翌日履歴書持参で来るように言う。
長い間商売を続けている督次には人を見る目があったのかもしれない。
還暦過ぎて督次のような粋でカッコイイ大人になれてたらかなり上等な人生だ。


竹代の勤務先や[おかずの田野倉]の人達は聖輔に代償を求めたりせず親切だ。
でも、聖輔にとって従叔父である船津基志はこれ幸いとばかりに聖輔の手元に僅かに残った竹代の保険金をあてにする。
50万円貸したなんて絶対嘘だ。
しかもこのオッサン、鳥取での仕事を辞めて東京までやって来て、葬儀の時にいろいろしてやっただの何だのと理由をつけて聖輔に30万円要求する。
44歳にもなるオッサンが若者を食い物にする為に上京するなんて情けない。
唯一の身内がこんなヤツなら完全に天涯孤独の方がずっとマシだ。


さすがの聖輔も基志の要求は断るが、基志は店までやって来る。
聖輔は良い子で人を優先するところがあって自分のことは抑えてばかりいる。
本当は基志が店に来た時点で、督次に甘えて相談した方が良かったと思う。
独りぼっちの聖輔に味方をする者がいないと思って基志は聖輔の金を狙っているのだから、誰か大人がどーんと前に出てくればこんな輩は退散するだろう。
人に譲ってばかりで人に甘えることができない聖輔は不器用だなぁと思う。


そんな譲ってばかりいる聖輔だが、譲れないものができる。
同郷の井崎青葉に偶然出会って何度か会っているうちに、自分は青葉のことが好きなんだと気づく。
青葉の元カレ・高瀬涼は元々東京の子で、多分そこそこボンボンなんだと思うが、他人の心情を想像するような無駄な真似はせず、無意識レベルで他人をランク分けする子だ。
高瀬の中では、大学にも行けず働いているがバイトでしかない聖輔は「働いててエライ」けど「自分より格下」なのだ。
復縁を迫っているくせに青葉さえも格下だ。
自分のふるいで人を振り分けるのが悪いわけではないが、この人は付き合っても幸福感を感じない相手だと思う。


高瀬は格下相手に青葉を取られるわけにはいかないから「空気を読め」と聖輔を牽制しに会いに来る。
他人を思いやる行動を時間の無駄だと分類しているくせに、己の自尊心の為ならそんな無駄な真似ができる高瀬。
会社の先輩や上司なら「空気を読め」と言う人より「空気を作れ」と言う人の方がデキる人間だろうな。
他人に「空気を読め」と言うのは己の我が儘の押しつけだが、「空気を作る」には能力も努力も必要なのだ。
跡継ぎ話すらそれこそ空気を読んで譲ってしまう聖輔が、青葉に関しては空気を読まなくて良かったと思う。
聖輔…と言うか良い人はもっと我が儘になって良いのだ。


田中海帆さんが描くカバーイラストは、まさに聖輔という感じだ。
本編では聖輔のルックスなどはそれほど詳しく書かれていないが、イラスト通り聖輔は本当にこんな風貌をしていてこんな服を着ていそうな気がする。
このイラストだけでも本を買った価値があったと思う。
『ひと』 著者:小野寺史宜 tataraworks
【下町荒川青春譚第2弾】まち あらすじ・ネタバレ感想

☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆

ありがとうございました(人´∀`*)

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