つらつら日暮らし

葬式仏教と聖人信仰に関する記事への雑感

以下の記事が話題となっている。

「葬式にお坊さんを呼ばない人」が増えている理由(ダイヤモンドオンライン)

上掲の記事は、以下の書籍を刊行した大竹晋先生によって書かれたものであり、同書の要約的内容だと言って良い。

『悟りと葬式─弔いはなぜ仏教になったか―』筑摩書房・2023年

それで、前者の記事については要するに、最近、葬儀で坊さんを呼ばない人が増えているけれど、理由の1つは、元々葬儀に坊さんを呼んだ理由として、僧侶の聖性が世間の人々に認められ、求められていたためで、最近の坊さんは堕落し、聖性が足りないので呼ばれなくなったよ、という現代僧侶批判の記事だと評価できる。

拙僧などは、現代の僧侶は、明治時代以降世間から痛め付けられていて、或る意味保護の対象だと思っているので、こういう記事については、全くもって賛同できないのだが、これも「僧侶への応援」という一面を有していると思えば、我慢できる。それに、こういう拙僧からの評価はともかくとして、『悟りと葬式』という書籍の内容は素晴らしい。是非、多くの人に読んでもらいたいと真摯に思っているし、拙僧も発売直後に購入して拝読した。

さて、拙僧自身はこの記事に触発されつつ、最近、或る『正法眼蔵』勉強会で読んだこともあるので、道元禅師の御垂示の一節を紹介したいと思う。

この世俗にしたがふものはおほしといヘども、俗を俗としれる人すくなし。俗を化するを聖人とすべし、俗にしたがふは至愚なるべし。この俗にしたがはんともがら、いかでか仏正法をしらん、いかにしてか仏となり祖とならん。
    『正法眼蔵』「仏道」巻


以上の通り、道元禅師は「聖人」についての基準を、世俗に置いていないという特徴を持つ。よって、世俗の人が書く、聖人信仰に関する記事も、当然に評価が困難となる。先ほどの、拙僧からの辛口にコメントは、このような教えに基づくものだと思っていただければ幸甚である。

つまり、世間の人々が、いかにもと認める「聖人」について、道元禅師は信用されないのである。以下のような教えも残されている。

 爰に有る在家人、来て問て云く、「近代在家人、衆僧を供養じ仏法を帰敬するに多く不吉の事出来に因て、邪見起りて三宝に帰敬せじと思ふ、如何」。
 答て云く、即ち衆僧、仏法の咎にあらず。即ち在家人の自誤なり。其故は、仮令人目ばかり持戒持斉の由現ずる僧をば貴くし、供養じ、破戒無慚の僧の飲酒肉食等するをば不当なりと思て供養せず。この差別の心、実に仏意に背けり。因て帰敬の功も空く、感応無きなり。戒の中にも処々にこの心を誡めたり。僧と云はば、徳の有無を不択、ただ可供養也。殊にその外相を以て内徳の有無、不可定。
 末世の比丘、聊か外相尋常なる処と見れども、また是に勝たる悪心も悪事もあるなり。仍て、好き僧、悪き僧を差別し思ふ事無て、仏弟子なれば此方を貴びて、平等の心にて供養帰敬もせば、必ず仏意に叶て、利益も速疾にあるべきなり。
    『正法眼蔵随聞記』巻2


以上の通り、道元禅師は「仮令人目ばかり持戒持斉の由現ずる僧をば貴くし、供養じ、破戒無慚の僧の飲酒肉食等するをば不当なりと思て供養せず」という、人前でだけ持戒しているような僧侶を貴いと思い、一方で破戒の僧侶を不当だと思って供養しないでおこうという「差別の心」こそが、最大の問題であるとしたのである。

大体、人前でだけ真っ当な振る舞いをしている僧侶の「内心」がどうなっているかなんて分からないわけで、そうなると、供養した結果が伴うかどうかなんて、少なくとも世俗の人には分からないので、とにかく差別無く供養する心が大事だとしているのである。ここからも、冒頭で紹介したような記事について、どう扱うべきか迷うのである。

まぁ、事実、葬式で坊さんを呼ばない人が、聖人信仰を持っていると仮定して、それに応えるような僧侶が望ましいということなのかもしれないが、そもそも、一般の人が、僧侶の生活次第なんて知らないと思うのだ。大概は、聞いたことがある噂話程度か、ネット上の情報くらいであろうけれども、それこそ「仮令人目ばかり持戒持斎」になってしまうのではないだろうか?

というような雑感でもって、記事を締め括りたい。だいたい、僧侶の素質を、外部の人間が論じること自体、「信教の自由」という観点からは、如何かと思うので、こちらも「表現の自由」でもって記事にした。先の記事の著者の先生について、含むところは全く存在しない。書籍を読む限り、尊敬してもいるので、その辺は誤解の無いようにお願いしたい。

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