又、血脈を授くるとは、釈書栄西章に謂く、迦文従りの譜図を受く。五十三世、系連明覈なり。是れ今の血脈なり。
古を按ずるに、六祖壇経に謂く、五祖、堂前に血脈図を画く。
亦、日本叡山伝教大師、血脈譜一巻を作し、中に謂く、達磨大師相承血脈一首、是れ伝教は、法を馬祖法嗣の王姥山倐然に受くるの由来なり。
我が相承する所は、天童浄祖、永平祖に授くる所の図なり。
法灯国師の年譜に、いわゆる天童浄和尚従り相伝の血脈とは是れなり。
今、仏祖正伝大戒血脈と題するものなり、知るべし。
是の故に此の血脈、龍に授ければ則ち大旱に雨が流れ、霊に付すれば則ち極苦忽ちに息む。日日にこれを頂戴すれば、病魔近づくこと無く、時時にこれを念ずれば、仏乃ち加護す。無上の法宝、戒子慢ずること莫れ。珍重。
『永福面山和尚広録』巻10「肥後求麻永國寺満戒普説」
最後に、『血脈』のことについて面山禅師は示衆されている。そこで、禅宗に於いて『血脈』が授けられた故事を挙げつつ示されたようだが、まずは栄西禅師のことを挙げている。栄西禅師は、元々天台宗の学僧であったが、中国に2度渡り、そのに回目の時に臨済宗黄龍派の虚庵慧敞禅師から菩薩戒を受けられた。そして、その際に『血脈』も受けられたとされている。
更には、『六祖壇経』のことも挙げて、こちらもやはり、五祖弘忍禅師が『血脈』を書かせた話などを示している。これについては以前に【五祖の血脈について】という記事を書いているので、ご覧いただければ幸いである。
日本の故事としては、伝教大師最澄が、『内証仏法相承血脈譜』を著したことを指摘しており、その中に達磨大師所伝の『血脈』があったという。
そして、面山禅師が相承されたのは、天童如浄禅師が道元禅師に付した『血脈(嗣書)』であり、それを『仏祖正伝大戒血脈』と名づけるという。既に、この段階で、面山禅師は永平寺に所蔵されている、道元禅師将来と伝わる『嗣書』を拝覧しており、それと『血脈』との差異については理解しておられたと思うのだが、その辺をどう考えておられたのか、今一つ判然としない。
しかし、『血脈』の功徳については論じられており、これを龍に授ければ旱魃の中でも雨が降り、幽霊に付せば苦しみが忽ちに癒えるという。そして、毎日でもこれを頂戴すれば、病魔が近づくことも無いというのである。まさに、現世利益を元にした教えであるといえるが、更に、その時々で『血脈』のことを考えれば、仏が加護するという。このような無上な法宝について、戒弟達には誤った扱い方をしてはならないと制するのである。
そこで、拙僧つらつら鑑みるに、今回採り上げた満戒普説は、面山禅師が限られた時間の中で、戒弟に伝えるべきだと思われた、集大成的内容だといえる。仏性戒・勧戒・布薩・血脈について論じられており、どこまでも授戒の功徳を示したものである。これは、「満戒(完戒)」の時に言われた内容であるから、1週間の加行・受戒を経て戒を受けられた戒弟に、安心を与えたものだともいえる。短いながらも綿密で、面山禅師の宗風が良く感じられる内容であったといえよう。
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