つらつら日暮らし

僧侶の善し悪しは測度不可

以前に、【『禅苑清規』「斎僧儀」に学ぶ】という記事で、道元禅師が30代後半に僧侶の善し悪しを測ることを諫めていることを紹介したが、比較的晩年も同じ見解を持っておられた、という話をしておきたい。

 寮中清浄大海衆、乃し凡、乃し聖、誰か測度する者ならんや。然れば則ち面を見て人を測る者は、痴の甚はだしきなり。
 〈中略〉況んや像末の澆運、唯だ結縁を貴ぶのみ。何ぞ人を軽んずる者ならんや。
 衣綴零落し、道具旧損するとも、凡眼を以て観ること莫れ。忽諸にすべからず。
 古来の有道の人、衣服を華らず、唯だ道具を実にす。卑族軽んずべからず、初学笑うべからず。縦い笑わるるとも瞋恨すること莫れ。況んや復た下下の人に上上の智有り、上上の人に没意智有るをや。
 但だ四河の海に入りて復た本名無く、四姓出家して同じく釈氏を称するの仏語を念うべし。
    『永平寺衆寮箴規』


「中略」の部分は、道元禅師がアヌルッダ尊者などを例にして、釈尊の在世時には多様的な人材がいたことを示されるのだが、いわゆる人権的問題に抵触する可能性もあったので、省略した。要するに我々は、釈尊の教団が、多様な人材によって構成されていたことを知れば良いのである(転ずれば、組織での人材構成の等質化は避けた方が良い。あ?ダイバーシティということか)。

さて、上記一節について、ごく簡単に訳しておくが、衆寮の中にいる雲衲たちについて、誰が凡人で、誰が聖人であると判別することが出来るだろうか。特に、顔を見て凡聖を判断する者は、愚かの極みである。釈尊の教団にも、様々な者たちがいた。ましてや、末法の時代では、仏縁と結ばれることを貴ぶのみであり、どうして人を軽んずることが出来ようか。

着ている服がボロボロで、持っている道具(食器[鉢盂]など)が古くて壊れていても、その様子を凡夫の眼で見てはならない。また、そういう姿の僧侶を蔑ろにしてはならない。古来の仏道にある人は、衣服を飾らず、また、古くても真実の道具を持っていた。それを、卑しい者だと軽んじてはならず、仏道修行の初心者だからと言って笑ってはならない。また、初心者はたとえ笑われても、怒ったり恨んだりしてはならない。ましては、下々の人にこそ上々の智慧があり、上々の人に没意智(無分別の智慧)がある(この一節は、『六祖壇経』からの引用らしい)。ただ、インドの4つの川が海に入れば、元の河の名前を無くすように、4つの階級の人が出家すれば、同じく「釈氏」と称するべきという仏陀の言葉を思うべきである。

以上である。つまり、道元禅師は見た目で僧侶を判断することの批判をしているのである。この見た目には、当然に行為や言動も含まれると、拙僧は理解している。或る僧侶のあり方が、一般的な価値観で理解出来なくても、それは、一般の価値がおかしいのであり、それで僧侶の善し悪しを判断することは許されていないのである。

そういえば、この法衣のボロボロの様子については、以下の教えもあるので注意しておきたい。

この糞掃衣をもちいることは、いたづらに弊衣にやつれたらんがため、と学するは至愚なるべし。荘厳奇麗ならんがために、仏道に用著しきたれるところなり。仏道に、やつれたる衣服とならはんことは、錦繍綾羅・金銀珍珠等の衣服の、不浄よりきたれるを、やつれたるとはいふなり。
    『正法眼蔵』「伝衣」巻


弊というのは、ボロボロになる、やつれるの意味があるが、道元禅師は糞掃衣を用いるのは、そのようなボロボロの衣をわざと身に着けるためでは無いとしている。もちろん、荘厳綺麗なる法衣を用いることが前提ではない。しかし、ボロボロの衣に価値を見出すのでもない。どうしても、世間的には綺麗な御袈裟について、賛否両論が存在している。歴史的には特にそうで、真偽は措いておくにしても、一休宗純が、ボロボロの姿で人前に出ようとしたら、差別的扱いを受けたが、綺麗な御袈裟を着けていったら、みんな崇めたので、御袈裟だけ置いて帰ってきたという。一方で、世間的には綺麗な御袈裟を付けているのは金満坊主でけしからんという風潮もある。

ただし、結局、袈裟の善し悪しという世間的な基準を元に、僧侶の善し悪しを判断しているに過ぎない。そして、それは僧侶の判断基準としては、不正確極まり無いのに、改めようとしない。これこそが問題のように思う。

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