格差と貧困ゼミぶろぐ

東京大学「格差と貧困を考える」ゼミのブログです。授業やフィールドワークの内容をお伝えしていきます!

映画『フツーの仕事がしたい』

2011-06-09 23:00:00 | 活動報告

今回は、ドキュメンタリー映画「フツーの仕事がしたい」を鑑賞しました。

この映画は、トラック運転手の皆倉信和さんが、労働組合の仲間とともに戦い「フツーの仕事」を手に入れる物語です。詳しくはこちら http://nomalabor.exblog.jp 2008年制作/70分/土屋トカチ監督。

 

※以下は映画のあらすじになりますので、ネタバレを避けたい方は読まないことをお勧めします。

 

【過酷な労働環境】

皆倉さんは、高校を卒業し運送関連の仕事を転々とした後、東都運輸という会社でセメント輸送運転手として働き始めました。しかし東都運輸は、オール歩合制といって、運んだ分だけ給料が入るという制度をとっていました。最長で月の労働時間が552時間におよぶこともあり、睡眠時間を含む自分の時間は1日に5時間しかありません。それだけ働いても月給30万程度で、残業代も出ず社会保険もありません。さらに「会社が赤字だから」といって賃金が一方的に下げられることもありました。それでも皆倉さんは、周りの同僚も同じだけ働いているため「この業界ではこれがフツーなんだ」と思っていました。

 

【労働組合への加入】

その後、燃料まで運転手が負担する制度になり、さすがにこれでは生活していけないと感じた皆倉さんは労働組合「連帯ユニオン」に入りました。

連帯ユニオンは「誰でも一人でもどんな職業でも加入できる」労働組合です。皆倉さんの職場では他に労働組合に入っている人はいませんでしたが、「一人でも入れる」という言葉を頼りに加入しました。組合に入り、初めて自分の労働環境が異常なことに気づきます。

 

【ヤクザの脅迫】

しかし、組合への加入を会社に通告したときから、会社ぐるみの組合脱退工作が始まりました。組合を辞めるよう社長だけでなく、社長の友人を名乗る工藤というヤクザが出てきて皆倉さんを脅しました。映画では社長や工藤とユニオンの代表が会社の事務所で激しくやりあう場面が克明に映し出されています。

さらに工藤は、皆倉さんのお母さんの葬儀にも何人もの男を引き連れて押し掛けました。このとき組合員に暴行しています。怖いのは、工藤が連れてきた男たちも最初ヤクザかと思われましたが、実際は工藤に雇われただけの運転手だったということです。立場の弱い労働者(運転手)が、本人の知らないうちに利用され、同じ立場の労働者を虐げるのに使われているという構図はおぞましいものがあります。

 

【親会社との戦い】

 皆倉さんや組合が戦わなくてはならない相手は、東都運輸や工藤だけではありません。親会社も相手取る必要があります。この場合、東都運輸(孫会社)FUCOX(子会社)―住友大阪セメント(親会社)という下請け構造になっています。よって、東都運輸の社長にいくら労働条件改善の要求を出しても、決定権が親会社にある場合その要求は通りません。

葬儀の一件のあと、工藤が東都運輸の労務担当役員に就任したと組合に通告がありました。組合はそれに対し抗議ストライキしました。それだけでなく、ヤクザである工藤の就任を知りながらも東都運輸を使い続けているFUCOXに対しても組合は抗議しました。

同時に、組合はFUCOXに対し過積載も告発しました。しかしFUCOXは、「積載については本社(住友大阪セメント)が一元管理している」と責任を回避しました。

それを受け、ついに組合は大阪住友セメントに団体交渉を申し入れました。しかし大阪住友セメントは応じなかったので、強硬手段として本社前でデモを行いました。路上で白い布を掲げ、皆倉さんの戦いの記録映像を映し出しました。

デモが功を奏し、大阪住友セメントは事態の解決を約束しました。

 

【その後】

半年後、皆倉さんは仲間とともに、新会社で「フツーの」労働条件で働くことになりました。東都運輸は事実上廃業し、FUCOXは「クアトロ物流」という名前に変わりました。

 

これは、労働現場の過酷な現実を表すとともに、それに対しどう戦うかという問いの一つの答えを示している作品です。また、映画として面白いのでトラック運転手でなくても感情移入できると思います。まだ観たことのない方は一度観てみてはいかがでしょうか。

(※各地で上映会が行われているほか、201111月にはDVDが発売されます。詳細は上記URLへ。)

 

(文責:稲垣)


女性と貧困

2011-06-02 23:00:00 | 活動報告

今回は女性と貧困、特に母子家庭の抱える貧困について、母子家庭の互助組織「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事の赤石千衣子さんにお話し頂きました。赤石さんは、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の他、ジェンダーの視点に立った新聞を発行する「ふぇみん」共同代表、「反貧困ネットワーク」副代表を務めるなど、様々な形で女性の貧困問題に関わってこられた方です。

 

女性の貧困といってもぴんと来ない方も多いのではないかと思いますが、日本の母子世帯の平均年収は両親がいる世帯の半分以下で、213万円(平成18年全国母子世帯等調査結果より)。日本のシングルマザーの就労率は世界的に見ても高いにも関わらず、非正規雇用者が多く、ワーキングプア状態に陥っているのです。母子・父子家庭の貧困率は5割以上(2007年厚生労働省)ということもわかっています。

支援策として現金給付(児童扶養手当)が採られていますが、近年では現金給付から就労支援へシフトチェンジしており、例としては母子家庭就業自立センターや母子自立教育訓練給付金があります。母子家庭の約1割が、最後のセーフティネットとされる生活保護を受給していますが、「水際作戦」と呼ばれる窓口での申請拒否や、大都市以外の地域では車保有がハードルとなって、必要なのに受給できない家庭が多いのです。

ワーキングプアのシングルマザーは、長時間労働ゆえに、また、ダブルワークをする人も17.5%と多いため、平日に子どもと過ごす時間は平均46分だとか。金銭的にも子育てに余裕がなく、それが子どもの教育格差にもつながっています。

日本の子どもの貧困率は1割を超えており(2008年:OECD)、教育費用の家庭負担が非常に重い(家族関連の給付が少ない上、教育関連の公的支出も少ない。さらに、日本は所得再分配が機能せず、控除は高所得者に多く適用されている)ため、親の収入が多いほど大学進学率も高くなっています。親の収入が子どもの学歴に直結し、学歴は就職にも影響を及ぼすことから、ひいては子どもの収入にまで関わってしまうということです。子どもの貧困の現在の課題は、子ども手当、就学援助・給付型奨学金、保育・学童クラブ、不登校児支援、子どもの医療費、学習支援、国公立大学授業料無償化など数多く、幅広い支援が必要となります。

ところで、「女性の貧困」というからにはシングルマザーの話だけではありません。若い女性の非正規化の激化、女性の半分以上が非正規雇用者であること、女性の3分の2が年収300万円以下であること、高齢女性の貧困…ほぼ全世代に渡って女性は男性より貧困状態にあります。この背景には、「男性片働きシステム」(妻付き男性モデル)を前提とした社会制度があり、被扶養のパート女性や派遣女性の働き方が拡大してきました。パートや派遣は企業にとって雇用しやすい形態なので、企業がそれを促進するわけですが、生活満足度はパート女性が最も低いとか。

これからの社会に必要なのは、性に平等・中立な制度を作ること、保育・介護分野での仕事の創出、労働者派遣法の改正、中間的セーフティネットの創出、家族関係予算・教育支援の充実、所得再分配を正常に機能させること。さらに、自己責任論で貧困を考えるのではなく、つながり、助けを求めていいという文化が必要とのことです。

今回は東北の被災地の話も出ましたが、避難所では乳児を抱えるシングルマザーが夜泣きで肩身の狭い思いをしていたり、周りに頼れる人がいなかったり、女性視点の避難所運営ができていなかったりと、苦労する女性が多いとか。そういう時に、血縁者でなくても誰かに助けを求められる状況だったら、ずいぶんと変わるはずです。

 

格差や貧困と聞いても自分は関係ないと思ってしまう人も多いのではないかと思いますが、今回の話と、人口の半分が女性であることを考えると、とても身近なものだと言えるでしょう。

 

(文責:上野)

 

 


新宿七夕訴訟/ディスカッション

2011-05-26 23:00:00 | 活動報告

5/26はゲストをお呼びする代わりに、ゼミの担当講師の戸舘弁護士が講義をしたあとディスカッションをやりました。

〈戸舘弁護士の講義〉
講義では、戸舘さん自身が貧困問題に関わるようになった経緯を交えつつ、ゼロゼロ物件・追い出し屋・ホームレスといった住まいの貧困問題を中心に話してもらいました。

戸舘さんは最初刑事事件を主に担当する弁護士になりたかったそうなんですが、何かのきっかけで路上相談会(弁護士が野宿者や生活困窮者からの相談を無料で受ける会)に行ったときのこと。
ホームレスの方の多くは借金を抱えていて、その取立てが怖いからアパートに入れないという相談を受けた。
でも、消費者金融とかからの借金は5年で消滅時効になる。だから、「消滅時効ですよ」と言うだけでその人は救われてしまったらしい。今までその人が路上で苦労してたのは何だったんだって話。これくらいのことで救われる人がいるということと、弁護士が一番多い東京でもたったこれだけの司法サービスが受けられない人がいるというのが衝撃的で、以来貧困問題に由来する事件を多く扱うようになったらしい。
やっぱり「少しのことで変えられる」っていう実感が、何か行動を起こすきっかけとしては大事なのかな、と思いました。

ゼロゼロ物件っていうのは敷金・礼金がゼロの格安物件で、それを餌に低所得者を釣って、家賃の滞納が1日でも遅れたら鍵を勝手に交換したり家具を捨てたりして追い出すような悪徳業者が存在する。特に戸舘さんは「スマイルサービス」っていう業者から受けた被害の対策弁護団事務局長をやっているそうです。
 
こういう業者に引っかかったりしてホームレスになるとどうなるか。住所不定だと定職に就きづらいのですが、そもそも憲法25条で「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されていて、生活保護制度があるんだから本当だったら住居が無い人にはすぐアパートとかへの入居費用が支給されるはず。
そうならないのは、福祉事務所の職員の多くが「水際作戦」というのをとっているから。水際作戦とは、住所不定だと生活保護が受けられない、生活保護申請に付添い人は認められない、などの嘘をついて需給させないようにすること。こんなことしてるせいもあって、生活保護制度の補足率(本来所得水準等から見て受給すべき人のうち、実際に受給している人の割合)は3割くらいしかないらしい。これを私は去年初めて聞いたんですが、まさか役所の人間が嘘をついているとは思わなかったからかなり驚きました。

ただその裏には福祉課が予算削減とか人員不足で常にオーバーワーク状態なことがあって、彼らを単に責めれば問題が解決するわけでもない。
そうはいっても、行政の酷い対応をそのままにするわけにもいかないから、今新宿区を相手に七夕訴訟が行われています(6月21日に最終弁論がありました)。

〈ディスカッション〉
残った時間で、これまでのゼミの感想と要望を一人一人話しました。貧困を自分自身の問題として捉えないと、という感想が多かったと思います。使用者側(以前ブラック企業・派遣会社に勤めてた人とか)や行政の福祉担当側の話を聞いてみたいという要望もありました。
(文責:上野)


現代の奴隷制度:外国人研修、技能実習生問題

2011-05-19 23:00:00 | 活動報告

今回のテーマは「外国人研修・技能実習生問題」です。ゲストは元研修生のTさんと、この問題の第一人者である指宿弁護士です。

 外国人研修・技能実習制度は、建前上は外国人を受け入れて日本で技術や日本語などを学んでもらうという国際貢献を謳った制度です。しかし実際は日本の零細企業や農家の人手不足を補うために外国人を超長時間劣悪な環境・低賃金で働かせる制度です。日本は名目上は外国から単純労働者を受け入れていないので、「研修」や「技能実習」という形で働かせようということです。

どれほど酷い労働条件かというと、ざっとこんな感じです。
残業が月160~200時間 (ある縫製工場では、忙しいときは朝の6時まで働いてから食事 して、また8時から働く…)※過労死ラインは月80時間
・最低賃金を大きく下回る。時給300円というケースが珍しくな  い。
・しかも強制「貯金」として月数万とられることもあり(返してもらえる保証はない)、これだけ働 いて月6万程度しかもらえないこともある。
・寮は壁に穴が空いていたりしてかなり寒い。コートを着たまま食事したり、ペットボトルにお湯 を入れて抱いて寝たりしている。
※環境は仕事場によって様々なのでここまで酷くはないケースもありますが、ほとんど全ての仕事場が日本人なら許されないような劣悪な環境です。

 その結果、
・2008年の外国人研修・技能実習生の死亡者が35名。うち脳・心臓疾患での死亡16名、自殺2 名、作業中の死亡者5名。研修に来る人の多くは健康な20代前半の男女なことを考えると脳・心 臓疾患の割合が高すぎます。過労死の可能性が高いです。
・過労で体調を崩したり、作業中の事故で障害が残ってしまうことも。指宿さんが出会ったある女 性は生理が止まってしまったそうです。

 しかも、研修生はこの酷い状況から逃げられない仕組みになっています。
・来日費用として2年分の年収に匹敵する額をとられるほか、違約金・保証金として家屋を担保に 入れたりしないといけない→稼がないと帰れない
・日本人や他の研修生との交流禁止、ケータイ没収、パスポートと印鑑没収
・労働組合に訴えたりすると、帰国後違約金を請求される、脅し・嫌がらせをされる

 なぜこんな制度が維持されているかというと、以下のような理由によります。
・出稼ぎビジネスしかないような地域が中国に存在する
・外貨獲得のための国策となっている面もある
・中国は社会保障制度が遅れているため、人々は暮らしのためにお金を必要としている
・中国では成功例だけが喧伝されてる、研修生以外の出稼ぎの成功者が多数いる→日本への憧れが強い

こうした状況と、日本側の安い労働力ニーズによってこの制度は維持されています。例えば、栃木の農業はいまや研修生がいないと成り立ちません。

 この制度によって人権を踏みにじられた多くの研修生や過労死した人の遺族は、日本人全体への不信感を強めています。(今回のゲストのTさんはかなり例外的で、「日本人にも良い人と悪い人がいるし、日本のことは好きだ」と言ってくださいました。)
 国際貢献を謳っている制度のせいで日本に対する憎悪が生まれているというのはかなり皮肉なことです。この問題は日本ではあまり知られていませんが、海外ではかなり取り上げられていて、日本の恥として知られています。

 
 指宿さんは、「この制度は即刻廃止すべきだが、現在ある労働力需要をどうするかというのも考えなくてはいけない。今の政治家・官僚は、外国人をどうやって受け入れるべきか、そのための制度をどう構築するかという議論を真正面からやる力がない。けれどいずれはやらないといけない」と仰っていました。制度の廃止だけでは問題は終わらないということです。背後にある日本の労働力需要の問題まで含めて、これから私たちが考えていかなければならない課題なのではないでしょうか。


(文責:稲垣)


貧困層の実態

2011-05-12 23:00:00 | 活動報告

今日はゲストとして「もやい」というNPO法人で代表理事をしている稲葉剛さんのお話をお聞きしたのでそのことを書こうと思います。

「もやい」は、主にホームレス支援を行う団体です。今回いらした稲葉さんと、現在内閣府の参与をやっている湯浅誠さんが中心となって結成されました。
(URLを載せておくので興味がある人は見てください。 http://www.moyai.net
08~09年に行われた派遣村設置・運営も「もやい」が中心になっています。当初日比谷公園にテントを設置したときは来るのは100人程度だろうと予測していたところ、実際はすぐに500人以上が集まってパンクしてしまい、厚労省に交渉して講堂を解放してもらったそうです。
この件では、それまで日本に存在すると思われていなかった貧困問題の「可視化」がなされた、と仰っていました。
また、07年には「ネットカフェ難民」という言葉が流行しました。これは、住む場所がなくてネットカフェなどで寝泊りしている人を指します。ですが、この「など」というところが重要で、ネットカフェ難民の人は常にネットカフェで寝泊りしているわけではないそうです。このほかにもサウナ、カプセルホテル、またもっとお金がなくなるとマックなど深夜営業の店へ行き、そのお金すらなくなると路上に行ってホームレスになります。
ここで稲葉さんが強調していたのは、このようにネットカフェ難民状態とホームレス状態は連続しているため、二つの問題は切り離せないということです。この二つだけでなく、貧困に関する問題の多くは根本でつながっている、と仰っていました。
※ですが、人々はどうしてもこれらを切り離したくなるそうです。派遣村をやっていたときにあった批判のなかに、「派遣村と言いながら、もとからホームレスの者も混ざっているではないか」というものがあったそうです。この批判の裏には、「派遣切りで切られた人たちは可哀想だけど、もとからホームレスの人間は自分が怠けていたからで自己責任だ」という考え方があります。

様々な貧困問題がどうつながっているかというと、稲葉さんは今日の講演中、「ハウジングプア(住まいの貧困)とワーキングプア(労働の貧困)が負の連鎖を引き起こしている」ということを仰っていました。
もう少し詳しく説明します。
まず、日雇い労働や派遣など、不安定で賃金の低い仕事についていると良い家、というか悪くない家に住むのは難しいです。ここでいう「悪い家」とは単に狭いとか日当たりが悪いとかだけでなく、家賃を数日滞納しただけで不動産屋などが借家人を追い出す(鍵を勝手に取り替えたり家具を処分したり)ような家を指します。法学部の人は知ってるかと思いますが、これは居住権の侵害にあたるので違法行為です。こういった問題は追い出し屋問題といわれています。これらの物件は家賃が安かったり敷金礼金が無かったりするので、低所得の人が被害に遭いやすいです。また最近問題になっているのは「家賃保証会社」による追い出しだそうです。「家賃保証会社」とは、保証人がいない人に対して保証人を買って出る会社です。貧困状態に陥ってしまう人は周りに頼れる人がいない場合が多く、そういった人がこの被害に遭いやすいです。
こうして住む場所を失うと、ちゃんとした仕事に就くのは難しくなります。住民票がないと就職しようにも門前払いなことが多く、また今携帯電話は仕事に就くための必需品だそうですがそれを新規に得るにも住民票が必要です。大体ネットカフェなんて寝泊りするような場所じゃないので疲れなんかとれません。すると毎朝シャキっとして仕事に向かうことができません。ハードな仕事を続けるのは困難です。また。住民票がないと実質選挙で投票することができないそうです。

このようにハウジングプアとワーキングプアが密接に絡み合っているわけですが、この背景には日本の政府が住宅にお金をかけて来なかったことがあります。日本は欧州に比べ公営住宅が少なく、民間賃貸住宅入居者への支援はほぼありません。住宅の確保は保障されるべき「人権」ではなく個人の「甲斐性」と見做されているからです。
それを示すものとして、日本で住宅問題を扱っているのは厚労省ではなく国交省、つまり住む人ではなく作る側の都合で政策がとられている、ということを仰っていました。

また、最後に稲葉さんは震災についても触れていました。
そこで仰っていたのは、「貧困に弱い社会は災害にも弱い」ということです。
例えば、震災をきっかけにした非正規切りや内定取り消しが既に始まっています。
また、避難所生活が長引く中で人々が赤ん坊の夜泣きに耐え難くなり、シングルマザーの方が居場所をなくして半壊した住居に戻らざるを得なくなるということがあるそうです(父親がいればまだ防波堤になってくれるそうですが)。
加えて問題になっているのが、国家財政のプライオリティの変化によって福祉予算カットの動きがあることです。「復興か福祉か」という二項対立が唱えられているそうです。しかし福祉は被災者も使える制度なはずで、本当はこの二項対立は成立しません。
こうしたことを踏まえて、「震災を期に一から新しい日本をつくる」のではなく、もとからの社会との「連続性」を見なければならない、と仰っていました。

貧困問題の多面性について、深く考えさせられるお話でした。

※ここに書いたのは、今日の稲葉さんのお話の一部です。本当は90年代のホームレス問題の実態や「寄せ場」について、トリクルダウン理論などについても仰っていたのですがとても書ききれないので省略しました。

(文責:稲垣)