格差と貧困ゼミぶろぐ

東京大学「格差と貧困を考える」ゼミのブログです。授業やフィールドワークの内容をお伝えしていきます!

フィールドワークwihスープの会(6月18日)

2011-10-03 15:49:14 | 活動報告

6月18日はスープの会の活動に参加するフィールドワークを行いました。

スープの会は新宿駅周辺のホームレスの方々に毎週土曜日にお味噌汁を配りながら、ひとりひとりとコミュニケーションをとる活動を行っています。電話相談のビラも同時に配り、土曜日以外でも何かあればすぐに相談できる体制を整えています。

また「風まちサロン」を運営しており、地域の方々が誰でも集える場所をつくっています。

ホームレスの方が自立し家に住むようになっても、地域住民と上手くいかずにまたホームレスに戻ってしまうことがよくあったそうです。

それを防ぐためにも誰もが集えるサロンで交流を深めようとしているのです。

 

僕たちはお昼過ぎにまず「風まちサロン」に伺い、夜に配るお味噌汁と一緒に作らせていただきました。

料理をしながらこれまでの「スープの会」の歩みについてお話をうかがいました。

最初はコンセプトへの理解がなかなか得られず、地域住民の方々に白い目で見られることもあったそうです。

しかし10年経ち徐々に交流の輪が広がってきたとおっしゃっていました。

地道に長い間努力することが信頼と理解を得るためには大切だと感じました。

 

 

お味噌汁はタマネギ、人参、椎茸、キャベツ、もやし、かぶ、ジャガイモetc...覚えられないほどたくさんの具が入って栄養満点!!

 

19時に新宿駅の集合場所へ。

集まった方々には、初めての人もいれば何年も続けている方もいました。

3グループに分かれてそれぞれ担当場所へ向かうことに。

いつもは気になりながらも素通りしてしまっていたホームレスの方々に声をかけました。

 

 

「こんばんは~スープの会です。温かいお味噌汁はいかがですか?」

「お~ありがとう!いただきます^^」

 

 

人通りが多いなかでみんなに無視され続けるのは非常につらい。

目があっても無視されるようなことが続くと、自分が存在しているのかがわからなくなる。

本当は誰も自分のことが見えていないのではないか。

 

不安な気持ちがいろいろ出てくるそうです。

声をかけて味噌汁を配る、それだけでも自分が社会の中で生きているということを実感できると言っている方がいました。

 

当日は雨が降っていたので都庁付近の屋根があるエリアは100人近い人が集まっていました。

スタッフの方々は顔見知りになっている人もたくさんいるようで、一度話し始めるとなかなか止まらないほど盛り上がっていました。

フリーダイヤルの電話相談チラシも忘れずに配ります。

やはり悪徳業者に「いい仕事がある」とだまされそうになっている人もいて、声かけをして注意を喚起していかなくてはいけないと感じました。

リーマンショック以降は20代30代の若い世代の人も増えてきたそうです。

自分は関係ない、といって無視していられる問題ではないと思います。

 

味噌汁を配り終わったらまた集まり、報告会。

 

○○さんを最近見かけていない。

△△さんがまたお酒をよく飲むようになった。

☆☆さんが今日はとても笑顔で機嫌がよさそうだった。

 

毎週活動を続けているからこそわかる、ひとりひとりの変化。

人と人との交流を長く続けることの大切さを実感したフィールドワークでした。

 

スープの会の活動はいつでも誰でも参加できるので、気になる方は個人でも参加してみてはどうでしょうか?

 

文責 松本 駿


フィールドワーク@山谷(6月11日)

2011-10-03 13:16:52 | 活動報告

6月11日に希望者を募って山谷へフィールドワークに行きました。

☆山谷とはなんぞや☆

僕もこのゼミで学ぶまでは何も知らなかったんですが、南千住駅近くにあるドヤ街地域です。

で、僕は「ドヤ街」も知らなかったので軽く説明すると、日雇い労働者が多く住む街です。一泊2000円程度の安い宿が密集しています。

低賃金で不安定な職を点々としている人が多いようです。僕たちは昼過ぎに訪れたのですが路上に段ボールを敷いて寝ている人も多く、かなり疲れているように見えました。

 

私たちは日本キリスト教団・日本堤伝動所メンバーの高澤充朗さんに案内してもらいました。

高澤さんは長年山谷における様々な問題の解決に取り組んでこられた方です。当日も山谷の歴史や問題について詳しく説明してくださいました。

まず南千住駅に下りて山谷に向かう途中でスカイツリーが見えました。

そのときに高澤さんがおっしゃった「発展の陰には汗水たらして働いている低賃金労働者がいる。立派なスカイツリーのすぐ近くに山谷のようなドヤ街があることを知ってほしい」という言葉が印象的でした。

 

 

歩いていると徐々に格安宿が増え始め、日雇い労働者の方々とも会うようになりました。

疲れて路上で寝ている人、友人と談笑している方、とぼとぼと歩いている方と様々でした。

 

 

まず炊き出しを行っているキリスト教の伝道所に伺いました。

毎週土曜日の朝にカレーを作って配っているということでした。

ボランティアは随時募集しており、連絡をしなくても土曜日の朝に訪れれば参加できるそうです。

ただ食事を提供するだけに見えますが、そこにはコミュニケーションが生まれます。相談事を聞いてくれる人がいるということが、とても大事なのではないかと思いました。

無料診療所やホスピスなどもありました。

 

都に悪いイメージをつけたくないという理由で地図から「山谷」という地名を消すような動きがある一方で、地道に支援を続けている方々がいるというギャップ。考えさせられました。

 

 

最近はネットカフェなどで寝泊まりする人も増え、日雇い労働者の実態が非常につかみにくくなっています。

山谷に暮らす人数も減少しており、最近は外国人バックパッカー向けに改装する宿も出てきているようです。

今は山谷の転換期なのかもしれません。

しかしその動きが加速すると、山谷に暮らしていた労働者は強制的に追い出されるような事態を招くかもしれません。

 

フィールドワークの最後によった公園に鼻歌をうたっている男性がいました。

声をかけたところ、翌日の職が見つかったから嬉しくて歌っていたそうです。

「働くことができる」ということがどれだけ大切なことかということに気付かされた瞬間でした。

 

今後も自分たちの目で見る活動を増やしていきたいと思います。

 

文責  松本 駿

 

 


ジャーナリストの語る貧困問題

2011-07-07 23:00:00 | 活動報告

2011年度夏学期の最終回。元朝日新聞編集委員・和光大学教員の信三恵子さんをお招きし、労働問題をどう報道するかについてお話し頂きました。

竹信さんはご自身の労働がリアリティだったということで女性労働の担当となり、さらには労働問題の担当になったそうです。この「リアリティ」が今回のお話の鍵です。

 

1.マスメディアは水道水である

・水源地   → 浄水場(ろ過) → 水道水

 もとの情報 → マスメディア  → 提供される情報

・メディアリテラシー=情報は加工済みのものという意識

 

2.マスメディアの担い手たちとその限界

マスメディアの担い手はそもそも大卒の上層ホワイトカラー男性が8~9割を占めており、情報入手先も同様の階層であるため、同じ階層の中で情報が回っていることになる。

・記者クラブでは情報の占有だけではなく官庁から流れてくる情報をそのまま流す現象が起こっている。

・以上の理由から、マスメディアの担い手の大部分が労働問題へのリアリティが薄い

 

3.労働のリアリティをどう伝えるか

「主婦パート」という見えない非正規雇用。日本の現在の労働は「妻付き男性モデル」で、非正規雇用者は被扶養者がなるものという前提の上に制度があり、無期で働くパートというものを人々は想定していない。

1985年の均等法、労働者派遣法、第3号被保険者ゆえに、85年は女の貧困元年」。女性保護撤廃によって女性も無制限労働をするようになり(残業の歯止めがきかなくなる)、家事負担する女性は正規で働けなくなってくる。そこで、労働者派遣法で女性パートとして拾う。さらに、第3号被保険者でパートの賃上げに歯止めをかける。さらに、現在では正社員になりたい女性や若者にもこれが及んでしまうばかりか、正社員になって過労死するか非正社員になって不安定な雇用状態にいるかの二極化が起こっている(過労死は80年代から激増)。均等法の本来の目的が同時進行の女性保護撤廃(労働者派遣法・第3号被保険者)によって歪められてしまったということになるが、当時のメディアにこの構造が見えなかった。

・「パート=有期」「総合職と一般職は全く別の仕事をしているから昇給に差が出てくる」というなんとなくのイメージ(錯覚)、報道者のリアリティの無さゆえに、社会に労働の現場が伝わらない

・労働問題を報道しようとしても、フリーター・外国人・女性という差別のフィルターがかかって「それは一部の人」と報道者の間で決めつけられ、労働問題であるという意識を持ってもらえず、報道として社会に出ない。

「年越し派遣村」報道によって貧困の氷山の一角は表に出てきた。その重要な要素としては、ユニオンと反貧困団体の連携、継続取材する報道者、厚労省脇という舞台があった。

 

4.労働問題を伝えるための報道力

・遠目で見たら「困って無さそうだ」と思ってしまう。苦境にある人の顔を見て話を聞くことが重要。

言葉の変換によって概念の転換を起こす。例:「在職死亡」から「過労死」という言葉に代わったことで、「仕方ない」と思われていた現象が問題化され、報道しやすくなった。

・同じ話でも角度と見出しを変えて繰り返す。

・官庁の代弁者となっている記者クラブとは違う、電話一本で話を聞けるような自前記者クラブの創設が必要。

「悲惨さ」を描けば人々は当事者を「格下の恵まれない人」と認識してしまう。その現象を生み出す構造と対抗力を報道することで、当事者を「対抗手段を持ちうる、情報の受け手となる人々と対等な立場にある人」と位置付ける。

 

5.報道力を支える社会運動グループ

・ユニオンが良質な水源地(情報源)となって非正規労働報道を支えた。2007年結成の反貧困ネットワークも同様の役割を果たしている。

・マスメディアは常に同じものを報道しているわけではなくhit&awayが宿命。マスメディアの目を集めることは戦略上重要なことで、パワーエリートと社会運動は良質な情報源たることでメディアを取り合っている。

 

6.読者・支援団体・報道の連携

・社会の報道者への評価・批判によって記事・記者の質の向上を図る必要がある。(例:反貧困ジャーナリズム賞)

・労働問題に関わる記者はデスクと争うのではなく、理解のあるデスクを探し、デスクが掲載しやすいように話を持っていくことが必要。

・パワーエリートには情報発信力があるが、社会運動側にもパワーエリート側に対抗するメディア・自己発信力が必要

 

(文責:上野)


ディスカッション:『反貧困』

2011-06-23 23:00:00 | 活動報告

6/23はまるまる1コマをディスカッションでした。

湯浅誠『反貧困』(岩波新書、2008年)を全員読んできて、それをもとに議論しました。
この本は日本の貧困問題と反貧困活動の実態がわかりやすくまとめられていて、しかも簡単に読めます。貧困問題の入門書としてかなりオススメです。(因みに、著者の湯浅さんは派遣村の村長をされた方です)

2グループに分かれて、それそれの班でスタッフが司会進行をします。
まずゼミ生から各章の要約の発表があり、その後ディスカッション。

まず、「日本は戦後ずっと企業中心の社会だった」という認識を前提として共有しました。内容としては、何故生活保護の捕捉率(本来受給すべき年収の世帯のうち実際に受給している割合)は低いのか、貧困の世代間連鎖の問題、雇用の流動化についてなど多岐にわたりました。

議論が盛り上がり、スタッフにとっても勉強になりました。

(文責:上野)


日本社会の構造から見た貧困問題

2011-06-16 23:00:00 | 活動報告

6/16は、労働法政策学者の濱口桂一郎さんに講演をしていただきました。
濱口さんは厚生労働省などを経て、現在独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)というところで統括研究員をなさっています。ご自身の書かれている「hamachanブログ」でも有名です。

講演内容を細かく書くとそれだけでとても長くなってしまうので、簡単に箇条書きにします。

詳しくは濱口さんの出した『新しい労働社会』という岩波新書(2009年)を読むと分かり易いと思います。
※ただ、この本は新書の中ではかなり難しい部類に入ります。


〈日本の雇用システムはメンバーシップ型〉(⇔欧州はジョブ型

日本では「男性正社員は」会社のメンバーだとみなされてる。そのため会社の言うことには何でも従え、となる(過重責任、長時間労働、転勤)
・日本では、会社は人(=メンバーである男性正社員)の束だと考えられ、人に仕事を割り振る。そのためある仕事が景気変動などで無くなっても、それをやっていた社員は解雇されず(長期雇用)他の仕事に回される(配転)。
・欧州では、会社は仕事の束だと考えられ、それぞれの仕事(ジョブ)に人が割り当てられる。そのため採用段階からその労働者の仕事内容は決まっていて、他の仕事に回されることはない。その仕事が無くなったら解雇される。

・仕事内容が決まっていない以上、それをもとに賃金額を決定することはできない(低賃金な仕事への配転を社員が嫌がり人事移動がうまくいかないため)。

⇒どれだけ長く同じ会社に勤めたか、で賃金額が決まる(=年功賃金制

 

〈日本の社会保障は企業頼み〉

・日本では、会社のメンバーである男性正社員が一家を養うのが前提とされていた。

・そのため、正社員やその家族が必要とする住宅費や子供の養育費は会社が賃金(生活給)という形で面倒をみる。年功賃金制によって中高年になると賃金額が増えるため、養育費等の出費が増えても大丈夫だった。

・企業が面倒を見るため、行政は教育や住宅にお金をあまりかけてこなかった。手薄い社会保障。

 

〈メンバーとみなされない非正規労働者――正社員との待遇格差〉
非正規労働者はメンバーではない⇒どれだけ長く勤めても低賃金。しかも正社員を解雇しないために不況時には積極的に非正規社員が解雇された。

・しかしそれは今まで問題ではなかった。非正規労働者は学生アルバイトか主婦パートで、父親か夫に扶養されているのが前提だったから。

※昔からシングルマザーの人などはこの前提があてはまらず、多くは貧困状態にあった。

 

〈日本の雇用システムの機能不全〉
・90年代以降、誰にも扶養されていない非正規労働者が大量に出てきた。
・社会保障が手薄い中で、低賃金かつ不安定雇用だと簡単に貧困状態に陥ってしまう。
・たとえば、私達学生がバイトする分には低賃金かつ不安定でも構わないけれど、それで生計を立ててさらに家族まで養うとなると大変、という話。
・白紙の学生に即戦力を期待。⇔今までは何の知識も経験も無い学生を一から企業内訓練で鍛えていっていた。
 即戦力を求めるのに、採用面接で聞くのはその人の技術ではなく「サークルで何をしていましたか?」みたいな質問ぱかり。矛盾している。
・今まで過重責任と長期の雇用保障の間でバランスを取ってきたので、後者だけなくなったことで労働者を不当に搾取する企業(ブラック企業)が生まれた

以上が講演内容の大まかなまとめです。


濱口さんはゼミ後の懇親会にも来てくださり、ゼミ生の質問に答えてくださっていました。
そこで出たお話はかなりの量になるので、ここでは割愛します。
ただ一つ感じたのは、濱口さんは良い意味でかなり現実主義的な方だということです。
単なる学者と違って、官僚として行政の現場を見てきた人だからだと思います。
それと、法やシステムと現実がズレたところに貧困が生まれるのだから、貧困を捉えるには労働法それ自体だけを見ていても駄目だということを仰っていたのが印象的でした。

(文責:稲垣)