格差と貧困ゼミぶろぐ

東京大学「格差と貧困を考える」ゼミのブログです。授業やフィールドワークの内容をお伝えしていきます!

日本社会の構造から見た貧困問題

2011-06-16 23:00:00 | 活動報告

6/16は、労働法政策学者の濱口桂一郎さんに講演をしていただきました。
濱口さんは厚生労働省などを経て、現在独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)というところで統括研究員をなさっています。ご自身の書かれている「hamachanブログ」でも有名です。

講演内容を細かく書くとそれだけでとても長くなってしまうので、簡単に箇条書きにします。

詳しくは濱口さんの出した『新しい労働社会』という岩波新書(2009年)を読むと分かり易いと思います。
※ただ、この本は新書の中ではかなり難しい部類に入ります。


〈日本の雇用システムはメンバーシップ型〉(⇔欧州はジョブ型

日本では「男性正社員は」会社のメンバーだとみなされてる。そのため会社の言うことには何でも従え、となる(過重責任、長時間労働、転勤)
・日本では、会社は人(=メンバーである男性正社員)の束だと考えられ、人に仕事を割り振る。そのためある仕事が景気変動などで無くなっても、それをやっていた社員は解雇されず(長期雇用)他の仕事に回される(配転)。
・欧州では、会社は仕事の束だと考えられ、それぞれの仕事(ジョブ)に人が割り当てられる。そのため採用段階からその労働者の仕事内容は決まっていて、他の仕事に回されることはない。その仕事が無くなったら解雇される。

・仕事内容が決まっていない以上、それをもとに賃金額を決定することはできない(低賃金な仕事への配転を社員が嫌がり人事移動がうまくいかないため)。

⇒どれだけ長く同じ会社に勤めたか、で賃金額が決まる(=年功賃金制

 

〈日本の社会保障は企業頼み〉

・日本では、会社のメンバーである男性正社員が一家を養うのが前提とされていた。

・そのため、正社員やその家族が必要とする住宅費や子供の養育費は会社が賃金(生活給)という形で面倒をみる。年功賃金制によって中高年になると賃金額が増えるため、養育費等の出費が増えても大丈夫だった。

・企業が面倒を見るため、行政は教育や住宅にお金をあまりかけてこなかった。手薄い社会保障。

 

〈メンバーとみなされない非正規労働者――正社員との待遇格差〉
非正規労働者はメンバーではない⇒どれだけ長く勤めても低賃金。しかも正社員を解雇しないために不況時には積極的に非正規社員が解雇された。

・しかしそれは今まで問題ではなかった。非正規労働者は学生アルバイトか主婦パートで、父親か夫に扶養されているのが前提だったから。

※昔からシングルマザーの人などはこの前提があてはまらず、多くは貧困状態にあった。

 

〈日本の雇用システムの機能不全〉
・90年代以降、誰にも扶養されていない非正規労働者が大量に出てきた。
・社会保障が手薄い中で、低賃金かつ不安定雇用だと簡単に貧困状態に陥ってしまう。
・たとえば、私達学生がバイトする分には低賃金かつ不安定でも構わないけれど、それで生計を立ててさらに家族まで養うとなると大変、という話。
・白紙の学生に即戦力を期待。⇔今までは何の知識も経験も無い学生を一から企業内訓練で鍛えていっていた。
 即戦力を求めるのに、採用面接で聞くのはその人の技術ではなく「サークルで何をしていましたか?」みたいな質問ぱかり。矛盾している。
・今まで過重責任と長期の雇用保障の間でバランスを取ってきたので、後者だけなくなったことで労働者を不当に搾取する企業(ブラック企業)が生まれた

以上が講演内容の大まかなまとめです。


濱口さんはゼミ後の懇親会にも来てくださり、ゼミ生の質問に答えてくださっていました。
そこで出たお話はかなりの量になるので、ここでは割愛します。
ただ一つ感じたのは、濱口さんは良い意味でかなり現実主義的な方だということです。
単なる学者と違って、官僚として行政の現場を見てきた人だからだと思います。
それと、法やシステムと現実がズレたところに貧困が生まれるのだから、貧困を捉えるには労働法それ自体だけを見ていても駄目だということを仰っていたのが印象的でした。

(文責:稲垣)

 


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