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新・秘密基地

好きな玩具やらゲームなんかを綴っていきます。

第一話

2011-06-06 22:19:09 | その他


第一話 親友 須賀一哉

 五年前、浅川正志小学六年生の夏──

 そう、あの試合もこんなに陽射しの強い日だった。
 リトルリーグ全日本選手権の出場を賭けた東関東大会決勝リーグ最終戦という大舞台。
 しかも最終回の守備でツーアウトランナー二塁、三塁の上、迎えるバッターはリーグ屈指の四番バッターという場面。
 一打サヨナラ負けも脳裏に浮かぶ危機的状況にあって、キャッチャーである正志は味方を鼓舞するように立ち上がって右手の人差し指と小指を立てて、「ツーアウト、ツーアウト!」と声を飛ばした。
 その時、目に入った陽射しで正志は一瞬視界がぼやけた。
 だが、そんな状態でも正志の目には、マウンドに立つエースであり、親友の須賀一哉の自身に満ちた顔がはっきりと映っていた。

(行こうぜ一哉、全日本に!)
 正志は座ってミットを構えると、一哉にストレートのサインを送る。
 無難にいくのであれば敬遠して歩かせるという手もある。
 だが、正志にそんな考えはない。同様にベンチにいる監督も敬遠のサインどころかまったく動かず見守っている。
 敬遠のサインなど出したら一哉の自尊心を傷つけ、逆効果になることがわかっているからだ。
 一哉がサインに頷き、セットポジションから左膝を胸まで上げる大きなモーションから右手を唸らせるようにしてボールを投げ込んで来る。
 次の瞬間、ズバンと大きな音を立ててミットにボールが突き刺さる。
 最終イニングにあってもまだこれだけの余力を残す相棒に正志は感激せずにはいられない。
(ポテンヒットと味方のエラーで許したランナー・・・嫌なことが続いてもまったく腐っていない。いや、むしろこいつはこの状況を楽しんでいやがる)
 頼もしいエースの姿に正志はうっすらと笑みを浮かべてボールを返す。
 受け取った一哉も「どうだ!」と言わんばかりに口元を緩ませ得意げな顔を見せる。
 正志は続いて同じストレートを、さらにはカーブをボール球にして空振りを誘ってみたが、敵もさるもの冷静にボールを見送ってくる。さすが決勝リーグまで残ったチームの四番と言えよう。
 四球目、正志は再びストレートのサインを出す。コースは長打を警戒して外角低め。
 しかし、指に着いた汗で手元が狂ったのか、ボールが真ん中寄りに入ってしまった。
(まずい!)
 正志が心の中で呟くと同時に、バットから快音が鳴り響いた。
 打球は放物線となってレフトスタンドに向かって弾け飛ぶ!
 打たれた一哉は慌てて後ろを振り返る。入ればもちろん逆転のスリーランホームランでサヨナラ負けが決定する。
 しかし、運良く打球は左に逸れてファウルとなった。
 正志たちはホッとした表情で安堵に胸を撫で下ろす。
(ふう、寿命が縮んだよ)
 実に心臓に悪い一撃だ。これで打たれたら責任の半分はキャッチャーである自分も負わなければならないとなると、まったく割の合わない役回りだと思う。
 だが、それでも正志はキャッチャーというポジションにやりがいを感じずにはいられない。
 正志はマウンド上の一哉を見つめた。一哉の視線はすでに正志に注がれているようで、そのまま二人は顔を見合わせて同時に頷いた。これが二人で交わされる決め球のサインでもあったのだ。
 正志はミットを軽く二回ほど叩いて構える。
 それを合図にするかのように一哉が投球モーションに入った。
(さあ、来い、とどめの一球!)
 一哉の右手が鞭のようにしなってボールが解き放たれる。
 それと同時にバッターも大きくスイングへと入った。
 タイミングバッチリ!
 そう思われた瞬間、ボールがバットを掻い潜るかの如く、鋭く滑るようにして正志のミットに入り込んだ。
 一哉の決め球スライダーが決まったのだ。
「ストライクスリー!ゲームセット!」
 球審のコールが場内に鳴り響く。
 一瞬の静寂が辺りを包んだかと思うと、今度は一転して歓喜の声が轟き出す。
(これだよ、この打ち取った時の快感がたまらないんだ。これがあるから・・・一哉と一緒だから俺はキャッチャーにやりがいを感じるんだ)
 感無量という顔で正志はゆっくりとマウンドへ向かって歩き出す。マウンドにいる一哉もいの一番に正志からの祝福を待っているかのようである。
「やったぜ一哉!!」
 正志は一哉を抱き上げる。
「おう!優勝だぜ!全日本だぜ!」
「ああ、ああ!」
 小学三年生でリトルリーグに入った二人にとって全日本選手権は大きな夢だった。
 そこに至るまでの熾烈なポジション争い、上級生との確執など並々ならぬ苦労の日々が脳裏に浮かんでは消えていく。

 一哉が正志に抱えられたまま勝ち誇るようにして、そのまま両手を挙げてガッツポーズを決める。
 そこに駆け寄ってきた内野の四人も祝福するように二人に向かって飛びついて来る。
 正志にとってこれほど嬉しい日はなかった。
 最高のパートナー、そして苦楽をともにしてきた頼もしき仲間たちとともに、小学生最後の夏を全日本選手権という大舞台で戦えるのだ。野球少年にとってこれほど贅沢な夏はないと思う。さらに、そこでの活躍次第では世界大会へ選抜される可能性もある。まさに夢は広がるばかりだった。



今回はここで区切ります。

気が向いたら今週中に二話を投下しようかと思います。

あ、それといただいたコメントは次回の記事にではなく、以前のようにコメント欄の方でお返事しますね。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (夜美羽)
2011-06-06 22:36:35
続きktkr((黙れ

四球目らへんでドキドキしました←
ほんとに話作るの上手いですね!

続きも楽しみにしてますよbb

  
返信する
Unknown (千年)
2011-06-07 21:10:57
ふぉわぁぁぁぁ((自重
この前の続きですね、!!?
専門用語に疎くても話についていけますね(`・ω・´)

とりあえず、一哉がやばい状況でも試合を
楽しんでいるというところが特にかっこよかったですっ!!!((キリッ

2話目も楽しみにしてますー!!!
返信する
Unknown (直家)
2011-06-07 21:43:53
>夜美羽さん
プロローグだけ書いて1話がないのもあれなので、すぐに書いてみました。

まあ、一瞬ひやりとするのはお約束かなぁみたいな?w

出来れば早いうちに載せようかと思います。
次回もよろしくお願いします。


>千年さん
やっぱりプロローグと1話はセットじゃないとおかしいなと思ってすぐに続きを書きました。

一応、わからなそうな用語とかはある程度、説明も入れて書くつもりです。
ストライク3つでアウトとか、アウト3つで交代とかはさすがにわかると思うので省略しますけどね。

その場面は、そういった頼もしさを見せつつ、一哉がどういうタイプのキャラクターなのかを伝えるのが狙いでしたね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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