快読日記

日々の読書記録

2024年の快読!

2024年12月29日 | 今年のベスト
2024年(2023年12月31日~2024年12月28日)の快読

 フィクション

「小説 帝銀事件」松本清張
町に防犯カメラがない昭和23年。人間の記憶・印象のなんとあいまいなこと。
古志田警部補の“根性”が冤罪を生む過程は衝撃的ではく、あるだろうなあという話に感じた。
平沢が追い詰められていくと、読んでるわたしもどんどん苦しくなっていく。
袴田事件でも「ボクサーくずれ」という差別意識が見込み捜査を強固にしたといわれるが、
ここでも画家・芸術家、ひいては「変わり者」への軽蔑とおそれが決めつけにつながった。
平沢のもともと持っている虚言癖と「コルサコフ症(狂犬病の予防接種による)」とのせいでコロコロと供述が変わり、
警察にとって都合のいい部分だけが取り上げられた。
この話が映像化されにくい理由がわかる。警察が悪役!という単純な冤罪ではないからだ。
病人を利用したやつらがいたということだ。
それにしても、松本清張の取材力はケタ違い。一緒に捜査した?と聞きたくなるくらいです。したかも。

「オパールの炎」桐野夏生
「悪女について」方式というか「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」スタイルで、
その効果は最後の「書き手」の登場で「わあ!大正解!!」というかんじ。
いろんな人の語りを読むにつれ、「塙玲衣子」の孤独がどんどん色濃くなり、
支持者・元同志から知り合い、地元の幼馴染、元夫、義妹、甥、甥の息子など、円周は狭まっていくが、
近い人にほど嫌われ、理解してもらえないし、本人も本来自分を支えてくれる近しい人を避けてゆく痛々しさ。
最後の「書き手」を今年40歳の女性と設定したところも非常によく考えられている。

「社会に対して、これだけのことをしたら、それはただじゃ済まないんです。だからね、あなたが馬鹿にする男たちは、用心深く生きているんですよ。それが、塙にはわかっていなかった」(「S氏」の談話 180p)

それから、塙の主張は正しかった、SNSがある今なら受け入れられただろう、という考察には賛成できない。
今同じことしたって塙は葬られる。結局「日没」みたいな話になると思う。

「うそつきコンシェルジュ」津村記久子
短編集。周囲の言動でズタボロになったり、愚痴や自慢話のはけ口にされたり。
3つめの「レスピロ」も傑作。4つめ5つめの「うそコンシェルジュ」、またNHKのドラマになりそうです。
丸岡さんの送別会の話もじんとくるし、最後の居残りの話は忘れられない。再読すると思う。
津村記久子は“小さいもの”に対する視力が4.0くらいあって、人生はその“小さいもの”の集大成なんだと思います。

「ツユクサナツコの一生」益田ミリ
確かに衝撃は受けるけど、あ、でも人生って本当にこうかも、と思った1冊。

「死刑六日前」ラティマー
小2のときに読んだ本を図書館で発見して。45年ぶりの再読。
細かいところはあんまり理解できてなかったけど、主人公が××と××に騙されていて、その2人の関係は一緒にあるものを買っている場面でわかった!というのは覚えていてびっくり。
子供心にもショックだったんですね、きっと。
(「処刑六日前」を中高生向けにリライトした作品。秋田書店刊。)

「内海の輪」松本清張
浮気相手の「美奈子」がうっとおしくなっていく過程が、気持ち悪くなるくらい怖いです。

「プロメテウスの乙女」赤川次郎
なぜ今これを?と思われそうだけど、キャラクターや雰囲気の「あの頃のかんじ」が懐かしいのと、実は反骨の人・赤川次郎の一貫したテーマが感じられるのとで、いい読書になった。

「ガラスの橋」ロバート・アーサー
短編集。短いものほどキレが鋭くて、すごい爽快感。

「めでたし、めでたし」大森兄弟
これ、あと数回は読みなおしたい。

「ある『小倉日記』伝」松本清張
人間の執着心。しがみつく人間の姿に涙がでた。

そのほか印象に残った本
 
 「逃避行」篠田節子
 「カゲロボ」木皿泉
 「死の枝」松本清張
 「もっと悪い妻」桐野夏生
 「飛族」村田喜代子
 「砂の器」松本清張
 「ツミデミック」一穂ミチ

 ※再読の中では「うつつ・うつら」(赤染晶子)が何度読んでも飽きない。
 
 「私の盲端」朝比奈秋(読んでるときは面白く読めたのに、芥川賞受賞エッセイが嫌な感じで一気に色褪せた)
 「かっかどぅるどるどぅ」若竹千佐子(終盤から結末にかけて、ちょっとがっかり)
  
 ノンフィクション

「力道山の未亡人」細田昌志
ストレートで、繰り返しや無駄がない文章がとっても読みやすい。グイグイ読める。
取材はどこまでも手抜きなし。
敬子さん(力道山の妻)の「小学生のころ、健康優良児だった」という発言の裏を取る(確かに小6のとき、神奈川県の代表になっていた)あたり、
そして、その事実がずーっとあとになって人生のある一場面にかかわってくるというドラマチックぶり。
話を聞いた人たちの数は膨大で、それが、ひとつひとつのエピソードを立体的に、かつうねりを持ったものにしていると思った。
力道山の刺殺事件までが中盤。死の真相については、その後に飛んだ憶測やデマを否定し、ある説明をしていて説得力がある。
何より感じたのは、当時を知る人物がすでに亡くなっていることが多く、もう本当にギリギリ!ということ。
世の重要事件の真相を知る人は、公表するかどうかはともかく、必ず記録を残しておいてもらいたいと思う次第。
わずか半年の結婚生活で夫を失った敬子さんの波乱万丈が後半。
レスラー・経営者・力士・やくざ、あらゆる人種が入り乱れての欲と駆け引きの様相がすさまじい。
この辺の話は他のプロレス本で読みかじっていたけど、敬子さん目線で考えると恐怖。
いったい誰を信じたらいいのだ!
で、終わり方は意外とあっさり。ガーっと盛り上がった次の場面に「数年後」とか出てくるドラマみたいな。

「キツネ目」岩瀬達哉
数あるグリコ森永事件本の最終版!
これまでの「グリコ本」は“犯人はだれ?”の話だったけど、この本は“なぜ犯人は捕まらなかったのか”になっている。
“犯人が利口だったから(引き際がよく深追いしない、執着しない”“犯人の運がいい”“警察がばか”が、3:2:5くらいか。
階級社会で忖度好きでメンツに生きる警察組織が犯人を助けたんだと思った。
グリコ・森永・ハウスは犯人と取引をしなかった。
丸大はたぶんやっている。それぞれの判断の背景にはいろいろあるんだろう。
森永はちょうど、社長の娘・昭恵が安倍晋三と付き合っていたころで、国がとっても心配してくれている。
裏取引をしないと決断したハウスの当時の社長は、翌年日航機事故で47歳で亡くなっている。

「すくえた命 太宰府主婦暴行死事件」塩塚洋介
警察が加害者になっている話。
被害者家族やテレビ報道などを見ながらクルクル言い分を変えていく佐賀県警の人たちを見ていると、
彼らは自分の仕事に誇りを持てているのかなーと余計な心配をしてしまう。
自分の家族や友達に、自分たちがやってることを話せるか。
そういう精神状態を地獄と呼ぶのではないか。
あと、“被害者っぷりが悪い”という最低な表現を知った。

「本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む」かまど・みくのしん
本を読むってこんな楽しいことだったんだ~!
みくのしんくらいの高感度・高解像度で読書できたら、1年に10冊くらいでこと足りるかも。
とくにわたしは「一房の葡萄」を初めて読んだので、
「一房」を読むみくのしんに併走するかまど(極力解説しないこの人もえらい)を読む、という状態になって、
有島武郎の作品に感動し、みくのしんの読解力と美しい心に感動し、みくのしんに驚嘆し羨ましがるかまどに共感する。
「一房」に出てくる“体の大きなできる子”というのは“大人”のことだろう。
それから、みくのしんは豚コマばっか食べてるなあ。
(その後、サイト「オモコロ」で、みくのしんが「山月記」を読むのを読んだ。
こういうのを読むと「学校の国語の授業ってなに?」とか思ってしまうから困る。)

「子供に言えない動物のヤバい話」パンク町田
名著。動物に関する知識はもちろん、野生動物を管理し、飼育するとはどういうことかが理解できたと思う。
タイトルが大失敗。変えてほしい。

「袴田巌と世界一の姉」粟野仁雄

「わからない」岸本佐知子

「熔ける 再び」井川意高
あの「熔ける」に再びがある!全然懲りていない。っていうか、懲りるつもりもない。
ギャンブル依存症と診断されても「俺はそういうのじゃない」とかたくなに信じているのが依存症の証拠。
刑務所に入っている間、たくさん読書するけど、何を読んでも「やっぱり自分の考えは正しい」が結論なので本がかわいそう。
そこまではいいけど(いいのか)、
出所後、会社を守った人たちを乗っ取りだと猛烈に非難して、
自分を被害者のように言い張る、さすが「意識が高い」と書いて意高(モトタカ)!
安い漫画みたいなクーデター話だった。
1ミリも共感できないおもしろい本。

「ザ・ソングライターズ」佐野元春
ミュージシャンたちへのインタビュー集。
とにかく佐野元春がパーフェクトすぎる。こんなかっこいい人いるか。

「さかなクンの一魚一会」さかなクン

「ルポ 京アニ放火殺人事件」朝日新聞取材班

「無人島のふたり」山本文緒

その他印象に残った本
 
 「遺伝子はダメなあなたを愛してる」福岡伸一(心と頭を洗浄したいときには福岡伸一)
 「毎日がこれっきり」木皿泉
 「NHKこころの時代 ヴィクトール・フランクル」勝田茅生
 「母がゼロになるまで」リー・アンダーソン
 「上機嫌の習慣」小林弘幸(自律神経の本)
 「志麻さんの台所ルール」タサン志麻(志麻さんのものの考え方が好み)

 
 「隠された遺体」青山透子(書かれていることは事実だと思うけど、筆者が感情的過ぎて読むのがきつかった)
 「消えた歌姫 中森明菜」西崎伸彦(明菜ちゃんに特に思い入れがなさそうな筆致がいやだった)
 「なぜ、眞子さまのご結婚はバッシングされたのか」香山リカ
   (事実・記事・筆者の感情・バッシングする人への分析、この4つがごちゃ混ぜで読みにくい)

        

2024年は自分にとって「再読元年」になりました。
きっかけは2023年の「砂の女」です。
再読は、びっくりするほど何にも覚えていなかったり、
今回の「死刑六日前」みたいに40年以上たっていても残っているものもあったりで、
なんだかじーんときます。
以前は、一度読んだものをまた読むなんて時間の無駄だ、くらいに思っていたのに。
4つある胃のどれかにずーっと残っていた何かを口の中に戻して、もう一回咀嚼して再度飲み込む喜び(気持ち悪い)。
最初にこれを読んだ時の自分との再会、という面もある。

それはともかく、ガンガンかみ砕く読書から、じんわり味わう読書に変化しつつある今日この頃です

来年もいい読書ができますように。