《10/8読了 集英社文庫 2014年刊(同社から2011年に刊行された単行本を文庫化) 【日本の小説 作品集】 つむら・きくこ(1978~)】
収録作品:ワーカーズ・ダイジェスト/オノウエさんの不在
■ワーカーズ・ダイジェスト
仕事でたまたま知り合った奈加子(大阪在住)と重信(東京在住)は、偶然生年月日も姓も同じだった。
二人の会社員が日常のもろもろの中で、ふと「あの人はどうなんだろう」と思い合う話。
人間が一番つらいのは、こんなことで苦しんでるのは“自分だけ”だと思っちゃうこと。
誰にも理解されないこと。
言い換えれば、“自分と同じような人がいる”と思うだけでちょっと呼吸が楽になるものなのかもしれない。
あの人もしんどいんだ、あの人も疲れているんだ、そしてみんななんとか乗り切ってるんだ、という細い糸くらいのささやかな支え。
しかしその“あの人”は、あんまり身近でもいけないんですね。
自分を投影できる余地が必要だから、“あの人”に関する情報は最低限がいい。
そんな意味でも、奈加子と重信のつながりはおもしろく、わかるような気がしました。
■オノウエさんの不在
隣県の支所に異動したオノウエさん(男性)が最近現場から外されて、どうやら“干されて”いるらしい。
彼を慕う後輩3人それぞれが考える“オノウエさんの存在”。
「「だってそうするしかなかったからさ。ただもう行かせたくなかったのさ。なんていうか、お祈りをするような感じだった。そうしてれば、オノウエさんがそこにいてくれるんだと」シカタは溜め息をつき、ぼそぼそと続けた。「あのさ、頑張れって言わないだろ、あの人。気合だとかさ。そういうあいまいなこと言わずに、その場その場の細かい対処を教えてくれた。そういうところが好きだった」シカタの言葉に、サカマキは浅くうなずいてビールを飲み干した」(207p)
彼らが語るオノウエさんはまっとうな大人。
そのあとを希望はなくても歩いていこうとする後輩たちの姿が印象に残ります。
シカタの「今までは、オノウエさんはすごく頑張ってきて、会社もそれに報いてきたけど、オノウエさんには子供が生まれて、会社より大切なものができたんだよ。会社はそれが許せないんだよ」(200p)という発言は、「会社」を一つの生き物みたいに捉えていて、「会社」がオノウエさんに嫉妬する、という感覚がおもしろかった。
/「ワーカーズ・ダイジェスト」津村記久子
収録作品:ワーカーズ・ダイジェスト/オノウエさんの不在
■ワーカーズ・ダイジェスト
仕事でたまたま知り合った奈加子(大阪在住)と重信(東京在住)は、偶然生年月日も姓も同じだった。
二人の会社員が日常のもろもろの中で、ふと「あの人はどうなんだろう」と思い合う話。
人間が一番つらいのは、こんなことで苦しんでるのは“自分だけ”だと思っちゃうこと。
誰にも理解されないこと。
言い換えれば、“自分と同じような人がいる”と思うだけでちょっと呼吸が楽になるものなのかもしれない。
あの人もしんどいんだ、あの人も疲れているんだ、そしてみんななんとか乗り切ってるんだ、という細い糸くらいのささやかな支え。
しかしその“あの人”は、あんまり身近でもいけないんですね。
自分を投影できる余地が必要だから、“あの人”に関する情報は最低限がいい。
そんな意味でも、奈加子と重信のつながりはおもしろく、わかるような気がしました。
■オノウエさんの不在
隣県の支所に異動したオノウエさん(男性)が最近現場から外されて、どうやら“干されて”いるらしい。
彼を慕う後輩3人それぞれが考える“オノウエさんの存在”。
「「だってそうするしかなかったからさ。ただもう行かせたくなかったのさ。なんていうか、お祈りをするような感じだった。そうしてれば、オノウエさんがそこにいてくれるんだと」シカタは溜め息をつき、ぼそぼそと続けた。「あのさ、頑張れって言わないだろ、あの人。気合だとかさ。そういうあいまいなこと言わずに、その場その場の細かい対処を教えてくれた。そういうところが好きだった」シカタの言葉に、サカマキは浅くうなずいてビールを飲み干した」(207p)
彼らが語るオノウエさんはまっとうな大人。
そのあとを希望はなくても歩いていこうとする後輩たちの姿が印象に残ります。
シカタの「今までは、オノウエさんはすごく頑張ってきて、会社もそれに報いてきたけど、オノウエさんには子供が生まれて、会社より大切なものができたんだよ。会社はそれが許せないんだよ」(200p)という発言は、「会社」を一つの生き物みたいに捉えていて、「会社」がオノウエさんに嫉妬する、という感覚がおもしろかった。
/「ワーカーズ・ダイジェスト」津村記久子