あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

小鳥の歌は愛の歌

2021-10-16 | 本(文庫本)
小川洋子さんの『ことり』を読みました。
前回の、あの作品の後ですから、気持ちを落ち着かせるためにも小川さんの作品が良いのではないかと思いまして。

鳥かごを抱いた状態で発見された「小鳥の小父さん」の遺体。死後数日経って発見された身寄りのない老人の孤独死。小鳥の小父さんは、永くその家に兄と一緒に暮らしていた。弟以外誰とも会話ができないけれど「小鳥語」を解する兄。兄の言葉を唯一理解できる弟。両親が亡くなって以降、兄は幼稚園の鳥小屋で鳥のさえずりを聴きながら、弟はゲストハウスの管理人として働きながら、穏やかな二人きりの生活を送る。やがて兄も亡くなり、小鳥の小父さんのひとりの生活が始まる。

「小鳥の小父さん」と呼ばれるようになるのは、叔父さんが兄の死後に、兄が小鳥のさえずりを聴きに通っていた幼稚園の鳥小屋の掃除をするようになって、子どもたちが小父さんをそう呼ぶようになったからでした。
実は作品中に小鳥の小父さんやお兄さんの名前は出てきません。誰の名前も住んでいる町の名前も出てきません。それがこの作品の世界観を作っているような気がします。現実離れしているようで実は本当にあるような世界。ずっとそんな空気が静かに穏やかに流れていました。
尊敬されたり名を残すような偉業を達成したわけでもなく、世間の物差しでは評価されることはない小鳥の小父さん兄弟かもしれないけど、この兄弟ほど自分の世界をしっかり生きた人はいないのではないか。そう考えると心が静かになりました。

ただ最後、小鳥の小父さんが生きた最後の一日が、汚い空気にまみれてしまったことが気になってしまいました。本当に小父さんは穏やかな気持ちでお兄さんの所に行けただろうか。
そこで最初のページに戻ると、叔父さんは「心から安堵してゆっくり休んでいるように見えた」とあるから、大丈夫だったんだろうと思えました。小父さんをそうさせてくれたのもやはり小鳥だったんです。メジロの歌声が浄化させてくれました。

気持ちを落ち着かせるために読み始めましたが、効果は抜群。さらにプラスアルファ。よい読書をしました。
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