この門から離れ、旧中山道の琵琶峠まで陟り、遠くに霞む山々を見る。「彼の屺に陟り、母を瞻望す」という詩句を口遊む。確かに何かがあった。誰も止められないまま何かが起きた。もう跡さえ微かで幻のように蘇るだけだ。そこここに立ち尽くしているのは僕のような枯れ木ばかりだった。みんな忘れ去られてゆく。九月になって、あの門が開き、地歌舞伎の狂熱が繰り広げられたら、僕もほんのり酔って我を忘れるだろう。