23日は恩師Gary Burton氏の81歳の誕生日でした。バースデーのメールを送ると程なくしてレスが。最近少しだけ歳をとった気がするんだ、と。そんなこと言わないでよ、と思いつつも彼を知って55年も経っている自分も同じだけど元気にやってるから、と。でも嬉しかったのは歳をとったことを嘆くのではなく、信じられない出会いに満ちた航海を振り返りながら楽しんでいるのが伝わってきたこと。なんか勇気が湧いてきた。
僕がゲイリー氏の演奏を初めて知ったのは小学3年生の時に風邪をひいて学校を休んだ日の朝に、たまたま点いていたテレビのモーニングショーの画面だった。1965年の夏だ。それまでにマリンバや木琴の演奏はテレビで何度も観ていたけどそれほどまでに耳が惹かれるものではなかった。
ところがその日の画面には明かにマリンバや木琴とは違う鍵盤が鏡のように輝いて音がマリンバに似ているけどちょっと違う楽器で、一番の違いは音が伸びることだった。
他の演奏者のことはほとんど記憶にないのだけど、この楽器の鍵盤が大きくアップで映され(だいたいカメラはそういうアングルが好きだ)4本のマレットでオクターブのユニゾンやコードやらを、それまでに見たプレーヤーは忙しそうに弾くのに、この人の動きはスムースで無駄がなく、それでいてちょっと想像を超えたことが目の前で展開されているのを感じて子供の耳と目はロックオンされた。
それがゲイリー・バートンだったことがわかるまでに三年の時間が過ぎた。テレビでは最後のループ(リピート)の部分でこの楽器が大活躍するのを映しながら終わった。チラリとメガネをかけた七三分けの白人の青年が映ったのを覚えている。
しばらくすると子供向けの番組(ロンパールームだったか木馬座アワーだったか)が始まり、さっきの白昼夢のような出来事がまだ頭の中から離れていなかった。
この時点でその楽器がヴィブラフォンだということも僕は知らなかったし。
小学校五年生の時に実家が建て直してビルになり一階にテナントを入れることになって当時大学を卒業されたばかりだった大分出身の人がジャズ喫茶で入った。実際には夜も営業していたのでジャズバーと形容するのが正確かもしれない。長いカウンターの奥にテーブル席があり隅っこにドラムセットが置いてあった。たまたま換気のことで僕の部屋と隣接した位置にあったので窓を開けていた時に覗き込んだんだ。興味津々だからね、11歳の頃は。
やがて営業が始まると大音量でレコードをかけるのが当時のジャズ喫茶だったので、僕の部屋に隣接する換気口から毎晩僕の部屋に摩訶不思議な音楽が飛び込んでくるようになった。
最初はうるさいなぁ、と思っていたが、一週間もするとその普段テレビからは絶対流れないような摩訶不思議な音楽を少しずつ覚えるようになった。何枚レコードがあったのかはわからないけれど、おおよそある一定の時期は似たようなローテーションで曲が流れるから「あのトランペットとこのトランペットは違う人だ」くらいのことは聞き分けられるようになった。
そのうちになんだかいつも流れてくると耳を澄ませて覚えてしまう曲が出てきた。
これがジャズという音楽なんだ、と思い始めた頃に父親が応接間のブックストックに何か音楽専門誌で興味のある本はないか、と問うので「ジャズの本」と伝えたら音楽専科という本を買ってきた。ジャズだけではなかったけど、途中に特集があってジャズの記事が載っていた。たまたまハービー・マンというフルート奏者の特集(どうやら来日するらしい)が目を引き始めた頃からジャズ喫茶で気になるフルートの演奏が聞こえ始めた。
本当に気になるのはフルートの次に出てくるギターだった。普段耳慣れたギターの音で、特にジャズギターと呼ばれる音ではなかったけどだから気に入ったんだと思う。
そこで近所の小早川レコードに行ってジャズのコーナーの店員の前で歌ったら
「これだね」
と取り出してくれたのがハービー・マンの「メンフィス・アンダーグラウンド」だった。最初の部分を少し聞かせてくれて間違いなかった!
そのギターがラリー・コリエルでアルバムの解説に「最近ヴァイブのゲイリー・バートンのところを退団した」とあったので翌月はゲイリー・バートンのレコードを買った。その間にリー・モーガンの「サイドワインダー」も買っていたので今思えば自分の人生でのメンター的な人に実質3枚目のレコードでたどり着いてしまった。(写真の上段右端のアルバム)
そしてそのアルバムを聴いているうちに、「あれ? これはあの夏に観たヴァイブに似てないか?」。
しかし、アルバムジャケットのゲイリー・バートンはヒッピー風のヒゲにロン毛にビーズのネックレス。あの七三分けのメガネの人とはちがうなぁ。。。
この辺り、自分を自慢するわけではないが、ちゃんと音からまるでテレパシーのようなものを感じ取っていたんですね。
見かけ、見た目じゃなくて、中身。
その次にゲイリー氏を観たのは、ロイ・エアーズとツインヴァイブのチームでやってきた時のテレビ、NHKの「世界の音楽」だった。
どんなに見た目が変わっていても、あの、鍵盤の上をスムースに動くマレットから飛び出してくる音は、あの夏に聞いたものそのもの。1971年の夏でした。
1971年の大手町サンケイホールでのライブ盤(日本のみ発売)がCD化されたので2014年6月のチックコリアとのデュオで来日時の大手町よみうりホールの楽屋でプレゼントした時のショット。
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新レーベル、AMS RECORD(アムズ・レコード)のサイト
第一弾は11月22日発売『MY REAL BOOK/赤松敏弘』
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通算17枚目となる赤松敏弘のvibraphoneに、レギュラーメンバーのハクエイ キム(p)市原ひかり(tp,flh,vo)須川崇志(b,cello)小山太郎(ds)によるグループ・インターアクションが6曲(含む赤松&ハクエイDUO1曲)と、話題の望月慎一郎(p)を迎えて酒井麻生代(fl,alt-fl)平石カツミ(b)岡部洋一(perc)と繰り広げた絵画を眺めるようなジャズ。ライナーノーツ:高井信成。
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約27分間の動画です。
写真をクリックするとartspace&cafeのページに飛びます。最初にコマーシャルが入る場合がありますのでご注意ください。
演奏:Toshihiro Akamatsu(vibraphone) Hakuei Kim(piano)
・Straight, No Chaser......Monk
・Violet Rays.....Toshihiro Akamatsu
・Synonym......Toshihiro Akamatsu
・White Forest......Hakuei Kim
・Beyond the Dream......Toshihiro Akamatsu
・Lake Sagami......Hakuei Kim
・The Gleaner......Toshihuro Akamatsu
enc
・Blue in Green......Miles
Nov/13/2022 artspace&cafe @ Ashikaga, Tochigi.
Coming Soon !
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■赤松敏弘 official site VIBRAPHONE CONNECTION
発売中のCD、ライブ情報、電子書籍やインタビュー掲載誌等、ジャズ、ヴィブラフォン、演奏法、ジャズセオリーと、ジャズやビブラフォンの周りにある様々な疑問も解決するお役立ち情報も満載。
1997年開設以来のユーザーからの様々な質問や情報交換もアーカイブとして保存中。是非一度お立ち寄りください。
( http://www.vibstation.net )
■赤松敏弘 FaceBook ( https://www.facebook.com/akamatsu.toshihiro/ )
■赤松敏弘 Twitter
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【サブスク ヴィブラフォン / VEGA】
只今、JAZZ-FUSION Subscription Serviceで、2000年発売のアルバム「Next Door - birth of the “Swift Jazz”」から2020年発売の「Next Door - New Life」まで、VEGAレーベルで発売した10枚のアルバムから人気曲を高音質でお届けしています。
色んな意味で生活の中で占める音楽の比率がコロナ以降高まりつつあります。
「聴いて」楽しむ音楽!
好きな時間に、お気に入りの場所で、くつろぎながらそこでは無限の想像力が、あなたをお待ちしています。
是非どうぞ!
【放送 / ラジオ、テレビ】
今週のオンエア (1月26日〜2月2日)
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【テレビ】
東京MX2 (地デジ9ch + ▲up)
番組名『ヒーリングタイム&ヘッドライン・ニュース』
癒しの映像+最新のニュース+最良の音楽。
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■月曜〜金曜 28:00〜29:00 (火曜〜土曜 午前4時から) ※水曜のみ28:30〜 ■土曜 16:30〜16:38 / 27:00〜27:30 ■日曜 16:50〜17:00
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🆕 “工場夜景クルーズ”
『MY REAL BOOK - Season 1 & 2 / 赤松敏弘』(2023年作)
演奏:赤松敏弘(vib)ハクエイ・キム(p)市原ひかり(tp,flh,vo)酒井麻生代(fl,alt-fl)須川崇志(b,cello)小山太郎(ds)望月慎一郎(p)平石カツミ(b)岡部洋一(perc)
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■月曜〜金曜 15:20〜16:00 (東京シティ競馬中継の時はお休み) ■金曜 25:35 都知事定例会見終了後 〜27:00 ■日曜 24:00〜25:00
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“路面電車のある風景 - 1”
『NEXT DOOR - NEW LIFE/赤松敏弘』(2020年作)
演奏:赤松敏弘(vib)ハクエイ・キム(p)市原ひかり(tp,flh)酒井麻生代(fl)須川崇志(b)小山太郎(ds)佐々木優樹(g)
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■日曜 23:00〜23:30
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“東京点描 城南1”
『SPARKLING EYES/YUKARI』(2021年プロデュース作)
演奏:YUKARI(vib,mar)飯島瑠衣(p)中林董平(b)森永哲則(ds)guest:赤松敏弘(vib)
←首都圏以外の方はパソコンやスマホでこちらのエムキャスでお楽しみいただけます。
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CDで、サブスクで、テレビで、ライブでお楽しみください。