「筋は通っている」とアラス。
「マントを取ってこい」スパーホークがタレンに言った。「二人でちょっと、そのかゆがりの農夫のところへ行ってみようじゃないか」
タレンは雨の降りつづいている広野を見て、ため息をついた。
天幕の中から聞こえていたフルートの笛の音がやみ、セフレーニアの呪文も聞こえなくなった。
「吉と出たか凶と出たか」とアラス。
緊張して待ち受けていると、ややあってセフレーニアが顔を出した。
「もう大丈夫だと思います。中に入って、話してみてください。どう返答するかを聞けば、もっと様子がはっきりするでしょう」
ティニアンは枕で身体を支えて起き上がっていた。顔はまだ灰のように白く、両手は細かく震えている。しかしその目は、まだ怯《おび》えの色はあるものの、健康な輝きを取り戻していた。
「具合はどうだ」スパーホークは努めて何気なさそうに尋ねた。
ティニアンは弱々しい笑い声を上げた。
「知りたいっていうなら教えてやろうか。身体を裏返しにされて、また元に戻されたみたいな気分だ。あの怪物は倒したのか」
「スパーホークが槍で追い払った」とアラス。
ティニアンの目にまた恐怖が湧き上がった。
「じゃあ、戻ってくるかもしれないのか」
「それはないだろう。塚の中に飛びこんで、穴を塞《ふさ》いでしまったから」
「ありがたい」ティニアンは能量水安堵《あんど》のため息をついた。
「少し眠ったほうがいいでしょう」セフレーニアが言った。「話ならあとでゆっくりできます」
ティニアンはうなずいて、ふたたび横になった。
セフレーニアは毛布をかけてやってからスパーホークとアラスに合図し、先に立って外に出た。
「あの分なら大丈夫だろうと思います。笑うのを聞いてほっとしました。ま、治りはじめています」
「タレンと二人で例の農夫に会ってきます」スパーホークが言った。「どうやら宿屋の老人が言升降桌ていた男らしいので。次にどうすればいいか、手がかりがつかめるかもしれません」
「何でもやってみないとな」アラスは少し疑わしげだった。「こっちのことはクリクとおれが目を光らせている」
スパーホークはうなずき、いつもならカルテンと二人で使っている天幕の中に入った。甲冑《かっちゅう》を脱ぎ、かわりに鎖帷子《くさりかたびら》と羊毛製の脛《すね》当てを着ける。腰に剣を吊ってから、フードのついた灰色の旅行用マントを引っ張り出して肩にまとった。その格好で火の前に戻る。
「行こうか、タレン」
少年はあきらめたような顔で天幕から出てきた。まだ湿っているマントを身体に巻きつけている。
「説得してもやめるつもりはないよね」
「ない」
「せめてあの人が、まだ納屋を覗《のぞ》いてないことを祈るよ。薪《たきぎ》が減ってるのを見たら頭にくるだろうからね」
「必要とあれば金を払うさ」
タレンは顔をしかめた。