
東海大はここまで2連勝で1週間前の日大戦ではあと一歩100点ゲームになる圧勝。一方、立正大は目下2連敗中で先の流経大戦はノートライに抑え込まれて大敗。そういった明暗は別にしても、両チームの力関係から、戦う前に結果は見えてしまいがち。雨でスリッピーなコンディションも大勢に影響はないと考えてしまう。しかし、1週間でチームがコロリと変わることもままある大学ラグビーは単純にはいかないことも多い。台風が接近し、やや強い雨が降りしきる熊谷でいったい何が起こったのだろうか。

◆キックオフ前の雑感
東海大は日大戦とまったく同じメンバーがスタメンに名を連ねる。ここ2試合でスタメンから外れている小原の名前がリザーブからも消えているのが気になるが、コンディションがよくないとしか考えられない。また、SHも自ら突破できてチームを活性化できそうな湯本ではなく松島がスタメン。スターティングラインナップは組み立て重視で行くということだろうか。といった具合に多少は気になる点があるにしても、東海大のメンバーは盤石だ。
一方の立正大もメンバーはほぼ固まっており、先発の留学生はNo.8のフィララ・レイモンドとFBからCTBに上がったアライアサ・ローランド・ファアウイラのコンビでずっと変わらない。アライアサの起用は走力を買われてのものと思われるが、彼がプレースキッカーの役割を担っていることも絡んでいるのかも知れない。また、ここまで不発に終わっているエースの早川も今日こそは爆発したい。今シーズンもSHを固定できていないチームが目立つが、立正もそのひとつ。本日は球裁きのいい(と個人的には感じている)植竹が先発に起用されたが、降りしきる雨の中で安定した球出しができるだろうか。

◆前半の戦い/幸先よく先制した東海大だが、その後は苦戦を強いられる予想外の展開に
立正大のキックオフで試合が始まった。序盤から雨の試合のセオリーとも言える陣取り合戦の様相を呈する蹴り合いが多い展開となる中で、最初にチャンスを掴んだのは立正大。2分に東海大ゴール前でのラインアウトからゴールを目差すものの、タッチに押し出される。3分に再び22mライン付近でラインアウトのチャンスを掴むが間隔を1m開けていなかったため、ゴールを目前にしながら得点を挙げられずに後退を余儀なくされる。
ここから今度は東海大の攻撃の時間帯となる。FKがノータッチとなり、立正大が蹴り返す。が、東海大はカウンターアタックからオープン展開を交えて大きく前進を図り、立正大陣22m手前まで前進したところで立正大にオフサイド。7分に立正大ゴール前でスクラムのチャンスを掴んだところで立正大に反則。東海大、ここは狙わずにラインアウトからモールを形成してゴールを目差すもののラックアンプレアブルでスクラムからやり直し。しかし、オープン展開からWTB石井が大きくゲインしてラックとなったところからLOダラスが抜け出してゴールラインを越えた。東海大の幸先よい先制点(GKも成功で7点)は14分に記録される。
リスタートのキックオフからも両チームの蹴り合いとなるが、東海大が陣取りに成功。しかし立正陣10m付近でのラインアウトからのアタックはオブストラクションとなり、立正大はPKを経て東海大陣22m付近でのラインアウトから再びゴールをめざす。ここでマイボールをスティールされて万事休したかと思ったのも束の間、東海大のキックを立正大のFL籾山がチャージに成功し、そのままボールを確保してゴールラインまで到達した。GKも成功し立正大が7-7とゲームを振り出しに戻す。ここからしばらくの間は両チームがHWLを挟んでの攻防を繰り返す展開となり得点板は動かない。拮抗した展開と言うよりは、ダイレクトタッチやラインアウトでのノットストレートなどミスが目立つ攻めきれないまま時間が進むと言った感じ。雨が降りしきる天候とは言え、東海大に関しては、ボールを回せば必ずトライになっていたような日大戦とはまったく別のチームを見ているような錯覚にとらわれる。
前半も終盤にさしかかった28分、立正大はSO原嶋がDGを狙うが外れる。しかし、このプレーの前に東海大にハイタックルの反則があり、アライアサが正面24mのPGを決めて立正大が10-7とリードを奪う。ここからゲームが動き始め、31分にはオープン展開から左サイドでパスを受けた東海大の石井が見せ場を作る。ウラを狙ったキックを有効に使い、背走する立正大の選手抜き去ってゴールラインを先に越えてトライを奪う。やはり、石井の並外れたスピードは東海大にとって強力な武器であることを証明するような鮮やかな個人技が決まった。GK成功で今度は東海大が14-10とリードを奪い返す。「東海大はやっぱり強い!」と普通なら感じるところだが、実態は何とか4点リードしているといった感じ。もちろん、立正大の頑張りがそんな思いを抱かせるわけだが、立正大も東海大も普通に戦っており、得点差が開かない5分の戦いになっているというのが真相。立正大は42分にFL小嶋が反則の繰り返しでシンビンを適用される。立正大がひとり少なくなったことで大ピンチのはずなのだが、数的不利を感じさせない中で前半が終了した。

◆後半の戦い/立正大が逆転に成功するなかで、明暗を分けた残り10分間の攻防
前半を終わって東海大のリードは僅かに4点。本来なら「東海大どうした!」とか「しっかりしろ!」になるところだが、そんな感じも抱かせないくらいに普通の戦いになっているのが不思議。東海大が相手を舐めているわけでもなく、やっぱり気力充実の立正大が頑張っているという評価に落ち着く。シンビンのため立正大FWがひとり少ない中で後半が始まった。東海大はハーフタイムでネジを巻かれたのか、テンポアップして攻めるもののノックオンなどのミスも目立つ。そもそもFWが1人多いはずなのに、優位性が活かせないまま時計が進んでいく。8分に立正大の選手が復帰したとき、「そうか、立正大はひとり少なかったのか。」と気づくくらいに立正大のFWが健闘していたことになる。
9分、東海大は自陣ゴール前でのラインアウトでモールアンプレアブルとなり立正大にボールを渡すピンチに陥る。自陣ゴールを背にしたスクラムはいったんは立正大のノックオンに救われるものの、その後のマイボールスクラムでまさかのキャリーバック。立正大はこのチャンスを活かし、スクラムを起点としたFWのサイドアタックでNo.8レイモンドがゴールラインを越える。アライアサのGKはポストに当たったもののポストの内側にボールが落ちる。17-14と立正大が再逆転に成功し、立正大の応援席は一気に盛り上がりを見せる。
そんなスタンドの熱き応援に応えるかのように、リスタートのキックオフから立正大のアタックがさらにヒートアップする。陣取りのための深めのキックに対し、東海大のタッチキックがミスキックとなり立正大は東海大ゴール前でのラインアウトと絶好のチャンスを掴む。ここから立正大がFWで攻めてLO千葉がゴールラインを越えた。GKは失敗するものの、残り時間が20分あまりとなったところで22-14と、1T1Gでも東海大は追い付くことができない8点差にリードを拡げる。本当にケチャップのようにドバドバ点が入った日大戦の東海大はどこに行ったのか?と思わせるくらいに得点が取れる感じがまったくしない東海大に焦りの色が見えてくる。25分には立正大ゴール前でラインアウトのチャンスを掴むものの、立正大FWの強力なプレッシャーの前にモールを押し切れずアンプレアブル。
とにかくゴールラインが遠く、後半はここまで無得点で配色濃厚の東海大だったが、残り10分あまりとなったところでこの試合のハイライトがやって来た。27分、立正大が自陣22m付近のスクラムで1列が上体を上げてしまう反則を犯し東海大はPKのチャンスを掴む。8点のビハインドならゴール前のラインアウトから最低でも5点を取って点差を一気に縮めたいところ。だが、東海大は迷うことなくショットを選択する。野口のPGはポストに当たるもののセーフとなり17-22と東海大のビハインドは1トライで追いつける5点に縮まる。リスタートのキックオフでカウンターアタックから石井が前に出たところで立正大がハンドの反則。今度は左中間38mの位置だったが、ここも東海大は迷わずショットを選択し野口が冷静に決めた。ここで遂に東海大のビハインドは僅か2点となり1PGでも逆転できる。沈みがちだった東海大応援席に少しずつ元気が戻ってきた。
終盤で両チームに疲れが目立ってくる中で激しい攻防が展開される。そして残り数分となった39分、立正大が自陣で痛恨の反則を犯す。PGを狙うにも位置はどんどん難しくなっていくが、ここもショット選択でブレがない。よりプレッシャーがかかる中で、野口がここも冷静にPGを決める。23-22と僅か1点差だが東海大が逆転に成功。結果論だが、もしゴールに近い位置でFWの揉み合いを選択していたらここまでこれたかどうか。しかし、まだ時間は残っている。しかもリードはどんな形で得点されても逆転になってしまう1点だ。リードされてしまったとは言え、あと一歩で東海大から歴史的な勝利を挙げることが可能な立正大がヒートアップしないわけがない。
応援席の強力な後押しを受けた立正大がリスタートのキックオフから東海大に強力なプレッシャーをかける。そして遂に時計が40分を過ぎたところで東海大が反則を犯す。位置は左中間で22mラインより少し手前。アライアサのキック力なら十分に決められる。ここは冷静にショットだなと思ったが、立正大は間髪入れずにタップキックで攻めてしまった。東海大は助かった思ったのも束の間、レフリーの手が横に伸びる。アドバンだからプレーが止まってもさら前の位置からPGが狙える。立正大がゴールに迫ったところでホイッスルが鳴った。おそらく東海大関係者はここで負けを覚悟したに違いない。しかし!なのである。レフリーの判定は東海大ではなく立正大の反則。アドバンは何処に消えたのかという疑念の残る中、東海大がボールをタッチに蹴りだす。もう1プレーということでラインアウトのボールを慎重に確保し、東海大がボールを再度蹴り出し激戦にピリオドが打たれた。
終了のホイッスルが吹かれた瞬間、東海大応援席は喜びに包まれることはなく、まるで敗者のように全員が凍り付いて声も出ない状態。こんな(喜びが全くない)勝利の形は生まれて初めて観たような気がする。無理もない。どう転んでも負けていた試合だったから。ラグビーは本当に最後までわからない。

◆東海大の勝因は主将の冷静な判断力/そしてプライドを捨てたこと
本当に最後まで痺れる試合だった。残り20分あまりとなったところでの8点差は、逆転のイメージを掴むのには難しい点差だったに違いない。立正大の反則の場面で、もし、FWの選手が主将だったり、チームの主導権を握るのが(強い)FWならプライドにかけてPGではなくゴール前でのラインアウトから5点ないし7点を狙っただろう。しかし、東海大は躊躇なくショットを3回連続で選択した。FWでなかなか点が取れない状況だったという点は差し置いても、3×3=9>8の計算が主将の頭の中にあり、ブレはなかったことになる。このことがかえって野口への信頼感の表明となり、野口も自信を持ってPGを蹴ることが出来たのでは内だろうか。リーグ戦はたとえ1点差でも勝つことが重要。そのためには可能性があればプライドを捨てることも必要になってくる。この試合をじっくり振り返ってみると、それを貫徹した主将の力を感じずにはいられない。何とも心許ない勝利ではあるが、東海大はこんな形で負け試合を勝ち試合にできたところに価値を見いだして欲しい。世評?とは裏腹に東海大への期待が高まった、強く印象に残る試合となった。
◆一皮むけた立正大/なのに、なぜ負けたのか
99%手中にしていた勝利を逃してしまった立正大。気の毒な面もあった呆気ない幕切れに(東海大とは違った意味で)関係者には後味の悪さが残ったかも知れない。しかし、どんな試合にも敗因は必ずあるものだ。立正大がこの試合で犯した反則は前半が7個で後半は6個の13個。少なくはないが特別多いわけでもない。しかし後半の6個のうちの3個が自陣での致命的な反則になってしまった。最後にPGを狙わずにタップキックで始めてしまったことは、冷戦な判断が欲しかったもののチームに勢いがあったから攻められない。やはり反省すべきは自陣で致命的な反則を連発してしまったことではないだろうか。この試合に限らず、緒戦の中央大戦の敗因も反則だった。この試合での立正大は過去のイメージを払拭するくらいにアグレッシブに攻め、そして守り続けた。ここは評価していいと思う。自信を持って闘って欲しい。
◆ラグビーと数学
8点差を3点×3で逆転に成功したところに「数学の妙」を感じた。考えてみれば、ラグビーの得点は3点、5点、7点(5点+2点)の七五三ですべて奇数だ。ということは、偶数の点差が付いたときに得点の取り方に対する計算が必要になってくる。点差が一桁台だったらより切迫するし、10点以上あってもそれは同じ。方程式を解くような複雑な計算は必要ないが、冷静な計算が要求される。ラグビーには数学的な面白さもあると、この試合でとくに強く感じた。
◆ちょっと、いや、かなりいい話
試合が終わった後、東海大の応援席は固まっていたが、私も別の意味で固まっていた。台風絡みの緊急連絡でメールを打つ必要があったのだ。そんなことをしているうちに、いつしか廻りの人間が居なくなっていた。立正サイドで試合を観ていたのだが、ついさっきまで固まっていたはずの東海大の控え選手達が大挙して立正サイドにやって来た。そして、スタンドの端から端までゴミ拾いをした後、何事もなかったかのように颯爽と去って行った。観客がいなくなるタイミングを見計らっていたのだろう。そして、ゴミを集めている間に気持ちを切り替えることができたかも知れない。
もし、プロの選手達が同じことを行ったら、「そんなことをしている時間があったら次の試合のことを考えろ!」という声が上がってもおかしくない。しかし、アマチュアの学生スポーツは事情が違うと思う。日本最高レベルの競技場を使わせてもらって試合ができるのだから、運営面で何らかの形で協力することは必要だと思う。自主的に感謝の意味を込めてやれることをやると言う姿勢に感じることが多々あった。やっぱりこのチームはずっと応援していきたい。