
「世界最高峰のリーグ」としてあくなきアタッキングラグビーを持ち味とするスーパーラグビー(SR)に日本から初めて参入を果たしたサンウルブス。一時は「幻のチーム」に終わることも懸念されたが、先週土曜日に秩父宮ラグビー場で行われた開幕戦で日本のラグビー史に歴史的な1ページを切り拓いた。7月までほぼ毎週のように試合が行われ、シンガポールから南アフリカまでが戦いの場となるSR。前途に待ち受ける幾多の苦難を乗り越え、日本のラグビーに変革をもたらしてくれることに大きな期待を込めて応援メッセージを送りたい。
■常識を超えた(外れた)チームの鮮烈なデビュー
「スーパーラグビーに日本から1チームの参入が決定」の報を聞いて、待望のプロチームが誕生するという喜びよりも、「本当に大丈夫なのか?」という想いが強く頭をよぎった。社会人のトップリーグに世界のビッグネームが続々とやって来るような状況になっているとは言え、日本のチームが世界でまともに戦えるとは到底思えないというのが多くのラグビーファンの偽らざる気持ちだったと思う。その大きな理由として、あの歴史を変えた南アフリカ戦に至るまでの日本代表のW杯での(惨憺たる)戦績を挙げれば十分過ぎるくらいだろう。
いざ参入が確定してからもファンにとっては疑心暗鬼のような状態が続いた。チーム名は「サンウルブス」と何とか決まったものの、メンバーやヘッドコーチなどの体制発表は遅れに遅れて昨年の12月。撤退も噂された中で、「歴史的な大勝利」がなかったら本当にどうなっていただろうか。その間にもチームに加わることが期待された日本代表メンバーがひとり、またひとりと他のチームと契約を交わしていく。年が明けてからもなかなか正体を現さないサンウルブスに対してファンはヤキモキするしかなかった。そもそも実体がなければファンになれるはずもないのだが。
そんな悲観的な状況が続いた中で、日本代表の中軸メンバー堀江選手がキャプテンとしてチームに加わることが発表されたことは朗報だった。それでもチーム練習が始まったのは2月に入ってからで、残り1ヶ月もないなかで世界最高峰のリーグで戦うことになるチームとは思えないような状況は続く。不安が解消されない中、開幕2週間前に組まれたのがトップリーグ選抜チームとの練習マッチだった。予想外と言っては失礼だが、スクラムの崩壊など厳しい状況はあったにせよ、短い準備期間でよくぞここまでというところまでは来ていたことで何とか望みが繋がった。
とはいえ、2月27日のデビュー戦はぶっつけ本番に近い状態であったことは間違いない。どこまでチーム状態が上がっているかに期待と不安が交錯した状態でキックオフを待った。予想通りといっては失礼だが、スクラムが崩壊した段階で天秤は不安の方に傾いた。しかし、まずはディフェンスで健闘。アタックでも敵陣深くまでなかなか攻め上がることができないまでも継続は出来ている。そして先制点を挙げたのはPGだったがサンウルブスだった。日本でもお馴染みのヤンチースのGKが不調だったことにも助けられはしたが、前半を終わっての6-12は想定外。相手のアタックにどこまで堪えることが出来るかが見どころだったはずなのに、もしかしたら初勝利があるかも知れないというところまできてしまったのは嬉しい誤算だった。
相手のライオンズははるばる南アフリカからやって来て時差ボケと疲れがあるところで緒戦を迎えた。随所でSRチームらしい強さと速さを活かしたアタックを見せたとは言え、ミスに助けられた面は確かにある。しかし、後半は流石というプレーを見せ始めてもいた。何よりも素晴らしいのは、フェイズを重ねられても致命的なゲインは殆ど許さないこと。サンウルブスも大負けはなくても勝利も厳しいという状況に追い込まれていく。しかし、このチームには今までの日本のチームにはなかった力がある。そんなことを感じさせたのが、自陣ゴール前の反則でスクラムを選択された場面だった。
ここまでのスクラムの出来から見たら、誰もがゴールラインまで押し込まれての失点を覚悟した場面。ペナルティートライやFW第1列の誰かがイエローカードをもらうかも知れないといった状況だったが、低い姿勢で耐え抜いて逆に相手を押し込み反則を誘うまさかの展開。TV観戦だったが、ファンの熱狂が最高潮に達したことは十分に伝わってきた。そして堀江主将の嬉しい初トライも生まれる。まだまだ連携が上手くいかずに前後半で4トライを奪われてしまったが、13-26の最終スコアにはおそらく主催者のSANZAARも胸をなで下ろしたに違いない。
■サンウルブスのお陰で世界と繋がった日本ラグビー
試合全般を通して感じたのはやはり堀江主将の卓越したキャプテンシーだった。おそらくこの選手がチームに加わらなかったら1ヶ月にも満たない期間でチームが纏まることは亡かったのではないだろうか。先だってのW杯で活躍したPR稲垣と垣永、LO大野、SH日和佐、CTB田村と立川、WTB山田らは流石というプレーを見せたし、W杯組では内WTB笹倉も体幹の強さを活かしたキャリーで健闘した。PR三上と山本、HO木津、LO細田、SH茂野らの交替出場選手達はもう少し長くピッチに立って欲しかったが、タイトな試合となったので致し方ない。今後の戦いではバックアップメンバーの役割が重要になってくるはずだからどんどんプレーでアピールして欲しいところ。
上で挙げた日本人選手の活躍もさることながら、この試合でより強く印象に残ったのは本当に短い時間でチームにフィットした外国人選手達だった。LOボンド、SOピシとFBフィルヨーンは日本で活躍した実績がある選手達だから当然として、驚きはモリ、デュルタロ、カークで固めた仕事人揃いのFW第3列の選手達。しばしばボールキャリアとして活躍したデュルタロは15人制とセブンズの両方でアメリカ代表に選ばれているが、実は白鴎大に留学していた選手。サンウルブズからの誘いに「日本のチームでSRにチャレンジできるのなら」と熱い気持ちを胸に太平洋を渡ってきてくれた選手。こんな話を聞くとホントに涙が出てくる。堀江主将の存在が大きいとは言え、異なったバックグラウンドの選手達が短時間の間に纏まることができるのはラグビーの醍醐味だ。
試合終了のホイッスルが鳴った後、両チームの選手達が健闘を讃え合う。国際マッチ、国内の試合を問わず当たり前のことだが、W杯やテストマッチといった国同士の戦いとは違った雰囲気が垣間見えた。そうか、これがラグビーのクラブチーム同士の戦いなんだなと思った。ピッチ上では激しいファイトの相手でも、いったん試合を離れればチームは違っても最高のプレーヤーを目指す言わば同志。普段の激しい練習に対するお互いのリスペクトがあるからこそ、健闘を讃え合えるのだと素直に感動した。ようやく日本もサンウルブスを通して「世界」に繋がることができたことを実感した爽やかな幕切れだった。「幻のチーム」にならなかったことを率直に喜びたい。(続く)
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