月日が流れました。4本の木は、どうしているのでしょう。
4本の木のある西の谷にある噂が流れました。あの男がやって来るというのです。あの男とは、東の谷の木こりです。この木こりは気に入らない木があると片っ端から切り倒してしまう木こりで、木たちから恐れられていました。
「おい、聞いたかよ。とうとうこの谷にあの男がやってくるらしいぞ。」
「何でも、東の谷では、ずいぶん木たちが切り倒されたそうじゃないか。」
「あいつに睨まれたら最後、皆切り倒されてしまうらしいぞ。」
みんな口々に噂をしました。
とうとうあの男がやってきました。男は大きな声で笑っては、大きな目玉で木たちをじろっと睨めつけました。
木たちは怯えました。身を潜めるように立ち、あの男がこの谷を去って行くのを待ちました。
ある日のことです。あの男が忍冬(スイカズラ)の前で立ち止まりました。
「この木はずいぶん元気が無いのう。」
忍冬は、前年の冬、突然の豪雪で大事な幹の一部を雪の重さで折ってしまっていたのです。
「働きの悪い木じゃのう。こんな元気の無い木は、何の役にも立たない。俺様が切り倒してやる。ガッハハ。」
木こりが大きな斧を振り上げ、「おりゃ~」と振り落とそうとしたその時です。
「待って!」
檜がそれはそれは大きな声で、ハナミズキは自分の枝と葉を精一杯伸ばして木こりの目を塞ぎながら木こりが忍冬を切り倒すのを止めました。
「何をする!」
「どうせ枯れてしまう役立たずの木、こんな木は切ってやるんだ。」
木こりはさらに斧を振り上げようとしました。
「役立たずなんかじゃ無いわ。忍冬の丈夫なつるは、橋を作るときに役立ったわ。それに」
「それに?」
「それに、忍冬の花の蜜は人々の心を和ましたわ。」
木こりは、かろうじて咲いている花をとり、口に運びました。甘い香りが身体を包みました。すると不思議と心が落ち着いてゆきました。
「これから私たちが、忍冬を元の元気な姿に戻すわ。だから今日切り倒すのはやめてちょうだい。お願い。」
「面白い!おまえたちがそう言うのなら今日切り倒すのはやめよう。だがもし、元気にならず、役立たずのままなら、おまえたちもどうなるかわからんぞ!ガッハッハ」
そう言って木こりは4本の木を大きな目でじろっと睨めつけ、行ってしまいました。
「みんな、あなたの見方よ。」
クスノキが言いました。
「ありがとう」忍冬はお礼を言いました。西の谷のみんなが自分を応援してくれている事に深い感動を覚えました。
それから暑い日にはハナミズキの青々と茂った葉で強い日差しを防ぎ、冬の寒い日には檜の大きな身体で寒風を防ぎました。クスノキは優しく折れた幹をいたわりました。忍冬は元気を取り戻してゆきました。
あれ以来あの男はスイカズラの元に来ることはありませんでした。谷のみんなが忍冬をを守ってくれたのです。
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