そこで、ひと月は薬療法と私の食事管理でようすをみようと、医師は語った。1ヶ月後、血糖値に改善の兆候がなければ、入院し、インシュリン療法を受ける。母は数日前に、頭痛と寒気でふるえたことがあるが、その時、自分の目に薄い靄がかかった。そう訴える母の眼球検査のため、内科医からの書状持参で、今朝は眼科医を訪れることになった。私より一足先に家を出た母は私の用意を待つことなく、先に行くからと、手押し車を押しながら、歩きだした。
朝食の片付けをして、すぐに母を追いかけたが、母の後ろ姿を見ることはなく、眼科医院に着いた。まだ、母は来ていないという。そこで、再び、母の姿を捜しながら、自宅に戻り、再び、引き返した。母はどこへ行ったのだろう?およそ1時間ほどして、眼科病院から連絡があった。母は病院の待合室にいた。途中で、母は買物していたそうだ。そいつはひどいヨ。
母の診察が始まると、私の席は母の隣りに用意された。オレンジ色の果実みたいな写真が2枚あった。母の眼球である。どちらの目の視力も0.5。出血もなかった。糖尿病の痕跡はない。よかった。眼科を出て、手押し車を押しながら歩く母の足取りは意外に、軽妙だった。夕方、建築業者から、家の解体を始める前に、コンテナーに運び込む物品の量を確認する電話があった。いよいよ工事も動き出しそうだ。
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