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母が入院した日の夜、父は自分たちの寝室で休むことができなかった。空になった母のベッドが不安だったようだ。深夜になっても、ずっと居間でぼんやりたたずむ父・・・・幾度となく、寝室へと導いたが、同居者が消えた部屋は浮ュて、いつのまにか、居間の安楽椅子を寝床と決めたようだ。毛布と布団をかけて、朝まで眠った。
翌日、父は介護施設から来るお迎えのバスに乗った。ホッと一息。それでも、やることは山のようにあった。パソコンに届いた仕事がらみのメールを転送し、届く書類を受け取って、その氏A妹に通知し、大量の洗濯物を洗って、干した。ベランダではシクラメンとシャコバサボテンと千日紅が咲いていた。水をやった。母の面会に持っていく運動靴や主治医に処方された薬や衣類を袋に詰めた。
母の面会には、少々面唐セけど、父を連れて行ったほうがいいと妹が判断し、父が介護施設から帰るのを待った。帰宅は4時半過ぎ。そして、5時には電気業者が来て、依頼しておいたトイレと洗面所の換気扇の故障をチェックしたが、修理は金曜日の午前中に伸びた。妹は都心での仕事を終えて、夕方、来訪。父には軽く食事させて、タクシーを玄関口まで呼び、3人一緒に、母が入院する病院へ向かった。
母は食事中だった。肩をャ唐ニ叩くと、振り返った母は思いのほか、明るい表情だった。私たちの面会を知って、若い主治医がようすを見に来たので、母の薬を手渡した。すでに、処方された薬品内容はパソコンで打ち込んで、昨日、同じ医師に渡してある。医師の話によると、入院直後400だった母の血糖値はさらに、500にまで上昇したという。そこで、一日1回の予定だったインシュリン注射を4回に増やし、対応したそうだ。多少、効果はあったようで、しばらくは、このままでようすをみるとのこと。
母は自分のお膳から、デザートのりんごをとって、父に渡した。父は俺が食べていいのかといいながら、薄切りのりんごを口に入れた。「90歳から98歳へのプレゼントで~す!」と、母は嬉しそうに語った。寒々しかった母のベッドだったが、毛布が追加され、暖かいと母は喜んでいた。でも、私たちの帰り道は凍えるほど寒かった。ただ、タクシー乗り場前にある中庭のクリスマスイルミネーションだけはキラキラ明るくて、ニッコリ笑っちゃいそう・・・・いや、ムリだよ。寒風の中、涙と洟水たら~り。
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