妻です。
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わたしがまだ独身で実家にいたころ。
家のまえのちょっとしたスペースは、大きめの屋根があるけど日当たりのいい、父が作業をするとき使う場所でした。
そこには、父が座るための赤いカバーの座布団が置きっぱなしになっていました。
かなり昔の話で、しかも田舎でしたから、父が使っていないときは近所のおばあさんがやってきて(我が家にいちいち断ることなく普通に)その座布団にすわっていました。
ぽかぽかと日にあたりながら、針仕事なのか編み物なのかをしながら、おばあさんはゆったりした時間の中にいました。
父もおばあさんも使ってないときは、野良猫がやってきて座布団のうえで昼寝をしています。
夕食のとき。
「今日は、午前中、おばあさんが来てたよ」とわたしが言うと、
「え、昼ごろはネコが寝てたよ」と妹。
ちょくちょく家族で笑いながら報告し合っていました。
誰も使っていないときの赤い座布団は、南からの日差しをぽかぽか浴びてあったかくなって、2人と1匹のうちの誰かがすわるのを待っているよう。
しばらく経ったある日の深夜。
「お姉ちゃん!」と叫ぶ妹の声で自室の窓をあけると、道路を挟んだ向こうから炎がのぼっています。
はす向かいにあったアパートを含む何軒かが、火事によって燃えてしまいました。
亡くなったのはアパートに住んでいたお1人。うちに来ていたおばあさんでした。
以来、座布団はおばあさんが座っていた時間、ただただぽかぽかと日を浴びていました。
そうしているうち、縄張りがかわったのか、野良猫も来なくなりました。
夕食時にわたしたちが座布団の話題を出すこともなくなり・・わたしも以前のように座布団をチェックしなくなり・・
気づいたときには、赤い座布団は片付けられ、なくなっていました。