妄想と戯言2

完全自己満足なテキストblogです。更新不定期。
はじめに!を読んでください。

心境(金バ+ゼン)

2024-04-28 19:22:00 | ガロ金夏シリーズ
自覚の続きになります。
金バ君視点だとほんと夢見過ぎててやばい!








4人で海に行ったあの日から早くも数日が経とうとしていた。アレからヤツの顔を拝むこともなく、俺は忙しい日々を送っている。
別に俺が避けているわけじゃねぇ。夏休みにら入ってから午前中は補講、午後からヒーロー活動のパトロールや任務、空いた時間を見つけてはゼンコとタマに構うって毎日をこなしているもんだから、まあ、忙しいってのはマジだ。
ヤツだって修行とバイトの往復で忙しいはずだし、よくよく考えてみれば、予定を合わせて海に行ったあの日が異常だっただけなのかもしれない。そして顔を見ないからこそ、最近の俺ときたら妙に冷静になった頭でヤツの事を考えてしまっていた。

思い返してみれば、スーパーでたまたま出会したあの日から頭の片隅に居座り続けるこの違和感。分かるようで分からないその違和感に対して、ヤツに対するイラだちの他に、俺の中で新たな感情が生まれているってのは、確かだった。





-心境-




「昨日ね、図書館でタレオくんと宿題してたんだけど、次は夏祭りいこうって話しててね!」
「あン?二人でか?兄ちゃんそれは許可できねぇぞ」
「ちがうよぉ!4人で!」
「お、おいおい・・・」

目の前で朝食の目玉焼きを頬張るゼンコが、天使のような笑顔でなんとも酷なことを言う。
あれから一日に数回は、また4人であそびに行きたい!とせがむようになっていて、俺は毎回、その純粋な笑顔にほとほと困り果てていた。
タレオと仲が良いのは構わないが、正直なところ俺とヤツを巻き込まないで欲しいってのが本心だ。どちらかが保護者としてってなら未だしも・・・いや、ヤツにゼンコを任せるくらいなら結局は4人で行くハメになるんだろうけど。

しかし健全な友情を育む子供たちにとっては俺のキモチなんて知ったこっちゃないらしく、次から次へと4人での夏休みの予定が組み込まれていく。果たしてタレオの奴は、あの男の了承を得ているってのか。
楽しみだなー!と目を輝かせるゼンコには悪いが、これ以上ヤツと仲良しこよしをやってやる義理もない。俺は意を決して、なるべく言葉を選びながら口を開いた。

「なぁゼンコ、別に3人でもいいだろ?夏祭りは俺が一緒に行ってやるから、な?」
「ダーメ!ガロウさんのこと仲間はずれにしちゃかわいそうだよ!」
「でもよ、アイツ確か忙しいって話だぜ?シルバーファングに聞いたから間違いねぇよ」
「だいじょうぶ!!夜はわりとヒマだって、海で言ってたもん!」
「はあ?いつンな話してたんだ?」
「お兄ちゃんがトイレいってるときだよ?」
「・・・」
「ガロウさん、お仕事がない日は修行しかしてないからヒマだって言ってたよ?」

俺の知らぬ間にヤツと友情を育むゼンコを想像して、複雑な気持ちで味噌汁を啜る。ぷりぷりと頬を膨らませるその姿は非常に可愛らしいんだが。

「だから、ガロウさんも一緒に!ね?」
「・・・」

真剣な瞳に負けた俺は、一旦は冷静になる為に箸を置き、腕組みをして想像する。

頭の中で、可哀想、という言葉にヤツの顔を当てはめてみる。思い浮かぶのは最近の・・・例えば海での、どうにも煮え切らない雰囲気で俺を見据える顔だ。敵意や悪意など等に消え失せてしまった金色が、子供たちを見て穏やかに笑っていた。
そんなヤツに、夏祭りに行きたいとせがむタレオ。いいんじゃねーの、と頷いているところまで想像して、そこへ颯爽と俺を登場させてみる。
途端に口角を吊り上げたその顔が、太々しくのたまいやがる。

「おまえがどうしてもってんなら、一緒に行ってやってもいーぜ?」

ピキリ、と額に血管が浮かび上がる。
先ほどまでは殊勝な態度で微笑んでいたはずのヤツが、今度はムカつくニヤケ面で脳内に浮かび上がってくるもんだから、朝は低血圧気味なはずの俺の頭にドクドクと血が巡っていくのが分かった。
想像の中でのヤツに対して腹を立てたって仕方ねーが、だからっていちいち自分の想像がリアルすぎて、そんな自分含めてどうにも怒りの沸点が低くなる。

「わたし4人で夏祭り行きたい!」
「っ、」
「お兄ちゃん・・!」

お願い!と続けたゼンコが目を潤ませて見上げてくる。妹に甘い自覚はあるが、コレばっかりは素直に頷けない自分がいるのもまた、事実だ。
返事の代わりに眉を寄せて箸を持ち直した俺が気に入らなかったのか、声のトーンを落としてゼンコは続けた。

「・・お兄ちゃんはみんなで海に行ったの、楽しくなかったの?」
「た、楽しいとか、そういう問題じゃねーんだって」
「だったら、なにがそんなにイヤなの?」
「だからな、俺とアイツが仲良しこよしなんて想像できねぇっていうか・・・」
「なにそれ?」
「だからよぉ、最近まで敵だったヤツ相手に、そうそう気を許せねぇっていうか・・・」
「でもそんなこと言ってお兄ちゃん、ガロウさんのことキライじゃないじゃん!」
「・・・は?」

最愛の妹からの言葉にギクリとして、持っていた箸をテーブルに落としてしまう。カランカランッなんて小気味の良い音とは対照的に、俺はこれでもかと言うほど眉間を寄せ、困ったような声で、なんて?とゼンコに聞き返した。

「ま、前もンなこと言ってたけど別に俺は!」
「そんな顔したってダメなんだから!」
「ッ!」
「ガロウさん可哀想だよ!!」
「はぁっ?!」
「ガロウさんはお兄ちゃんと仲良くなりたいんだよ、ぜったい!!!」
「は?!な、何だって?!」
「お兄ちゃんに電話番号おしえてくれたでしょ!!?海のときだって、わたしとタレオくんにすっごくやさしかったもん!前のガロウさんとはちがうんだよ?お兄ちゃん」
「いや、それはっ」

ゼンコは残りの目玉焼きを頬張りながら、ジトっとした視線だけを寄越す。目尻に少しだけ涙を溜めて、だから!と続ける。

「お兄ちゃんとお友達になりたいんだよ、きっと」
「き、気色悪い言い方するなって!」
「お兄ちゃんだってそうじゃないの?!」
「ンなわけっ・・・!」
「もう!なんでそんな意地はるの?!お兄ちゃんはキライな人と一緒に、お出かけしたりしないじゃない!」
「そ、それは・・・!!」
「プールにも!海にも!行かないじゃない!!」
「だからよぉ、それは!」

ゼンコと、タレオの為でもあって!そう続けようとしたところで、ゼンコがわざとらしく大きな音を立てて手を合わせた。それによって俺の言い訳がましい言葉は見事に遮られて、喉の奥に引っ込んでしまう。
それをどう捉えたのか。ゼンコはジロリと俺を睨みつけたあと、そのまま、ごちそうさまでした!と不機嫌そうに立ち上がった。食器を運ぶ後ろ姿は相当ご立腹だ。それを唖然として見送る。
このあとゼンコはラジオ体操にいくはずだ。夏休みに入ってから毎日、俺は登校がてら目的の公園までゼンコを送り届けている。その大切な時間を逃してたまるかと、ようやく転がったままだった箸の存在を思い出し拾いあげた、その時だった。

「今日は1人でラジオ体操いくから!」

絶句して、もう一度軽快な音をさせながら転がっていった箸。けっきょくゼンコに何も言えないまま、俺は冷めていく味噌汁を眺めるしか出来ないでいた。




ぼうっと、補講のタイムスケジュールだけが書かれた黒板を眺める。全開にした窓からは生暖かい風が入ってきて、故障中だという冷房の存在を恨んでみるが、そんなもんで涼しくなれば苦労はしない。背中を伝った汗がシャツの下をツーと流れていくのがどうにも気持ち悪かった。

半分までは何とか埋めた数学の補講用プリントと筆記用具が乱雑に置かれた自身の机を眺めて、しかしどうにもこれ以上向き合う気になれず、ゆっくりと机にうつ伏せた。思い浮かぶのは今朝のゼンコの怒り顔だ。ひとつひとつの会話を思い出して、情けない自分に腹が立つ。
窓側に顔を向けるとひらひら揺れるカーテンが目に入り、その呑気な様子にもイラついたから早々に目を瞑った。

気の強いところはあっても、あそこまで感情を剥き出して怒るゼンコは珍しかった。涙を溜めた黒い瞳を思い出して、胸がキュウと切なく鳴る。
泣き虫なところは可愛いんだが、その原因が自分にあるなんて、兄としては大問題だ。普段のヒーローやってる俺を心配しての涙とはワケが違う。兄として、妹を泣かせてしまった。
湧き上がる罪悪感にため息を吐いたところで、閉じていた瞼にフッと影が差す。なんだぁ?と不機嫌を隠そうともしないで瞼を持ち上げたと同時、頭に軽い衝撃が広がる。

「あてっ」
「こらヒーロー、補講に来ておいて寝るとは良い度胸だな?」
「殴るこたねぇだろーよ!」
「自業自得だ!ほら、あと少しじゃないか、頑張んなさい」

丸めていた数学の教科書を元に戻しながら、担任のセンコーが教卓に戻っていく。ヒーロー活動故の補講とは言え、わざわざ夏休み、生徒の為に出勤しているその後ろ姿にバツが悪くなって、さっさと机に座り直した。

プリントを埋めてはいくものの、どうしても今朝のゼンコの「お兄ちゃんと仲良くなりたい」って言葉が頭から離れなかった。
ヤツが俺と仲良くなりたい?冗談もほどほどに、と思わなくもないが、最近のヤツの行動にはそれを裏付けるものがある。
今までの関係性が壊れていくのを感じて、その居心地の悪さからイラだつこともあった。そりゃ俺だって別に、最初から望んでその関係に落ち着いたわけじゃない。そもそも出会い方からして最悪な相手だったんだ。それこそ、ヤツの自業自得な部分が大半なわけで。

全ては成るようにしてなった結果であって、それが今までのヤツと俺の関係性を築いている要因だって事を、俺は理解していた。だから尚更、これから仲良くしましょうなんて言われて、素直になれるはずがない。俺だって立派な17歳の、思春期真っ盛りの高校生なんだ。そうやってぶつかり合ってきたし、これからもこの関係性は変わらないと、思っていたってのに。

最近の、ヤツときたら!

-ミシッ、

無意識に力が入って、不穏な音を響かせたシャーペンにハッとする。頭をブンブンと左右に振って、ヤツの事を考えてしまわないようにプリントに集中しようとするも。

「っ、センセーよぉ!習ってねーよここ!」
「教科書みても分からなかったら質問しなさい」
「わかンねって!!」
「なんだ、今からみっちり1時間授業するか?」
「ッ!・・・くそ!」

涼しい顔で団扇を仰ぐ姿に、そりゃねーぜ!と叫ぼうとした時、シャー芯がパキリと折れるまぬけな音だけが教室に響いた。
何となく勢いを削がれた気がして、俺は複雑な顔で、素直に教科書を開いたのだった。




やっと解放された補講も、残すところ数日程度になっている。真面目に机に向き合ったせいで凝った肩をぐるりと回して、市の図書館までの道を急いだ。ラジオ体操が終わったゼンコはいつも、その図書館で友達なんかと夏休みの宿題をするのが日課だ。
補講帰りに迎えに行くのが俺の楽しみだったってのに、その足取りはすこし重かった。

図書館に着いたは良いものの中に入る事が出来ず、入口横の駐輪場まで移動する。
屋根が付いている場所でしゃがみ込み、ゼンコが出てくるハズの自動ドアをジッと見つめる・・・が、どうしたって頭の中でヤツを意識してしまっている自分がいる。それが実に腹立たしい。ゼンコのおかげで今日はより一層、ヤツの顔が思い浮かんでしまう。

(・・・別に、気を許したワケじゃねぇし)

誰に言い訳するでもなく、心の片隅に居座り続けるヤツの顔に吐き捨てた。同時に、海での己の行動を思い出して苦虫を噛み潰したような顔になる。

思い出すのは俺がパラソルを設置しているとき。太陽から逃れるような仕草で、ゼンコとタレオを見守るヤツに気づいてしまった、あの瞬間。

「楽しそうで何よりだ」

そう言ったヤツの、その穏やかな声色にギクリとして、落ち着かなくなった。
俺の中では最悪で粗暴だったヤツの印象が、穏やかな色と不器用な優しさで上書きされてくような、そんなむず痒い感覚に、ひどく胸がざわついた事を覚えている。
見上げたヤツと目が合って、最近向けてくる事が多い意味ありげな視線にも全く慣れやしなかった。ゼンコの言うような、ダチに向けるような瞳とも違う。かと言って今まで通りとも言えない金色が、心底煩わしかった。自然と舌打ちが漏れて、そんな自分を誤魔化すように、手伝えとぶっきらぼうに言い放つ。

「素直に手伝ってくださいガロウさんって言えねーのかテメェは」

言葉こそいつもの調子だったが、声色は随分と穏やかだった。パラソルを組み立てている間も素直に言う事を聞いていて、こっちの調子が狂いそうになった。しばらくして子供たちに呼ばれ目を萎める様子に、もしかして太陽が苦手なのかと、その色素の薄い金色を睨みつける。
これ以上ヤツの事を知ってしまうのが嫌だった俺は悪態をついて、それでも何となく放っておけなくて、掛けていたサングラスを投げて渡した。
驚いたヤツが俺を見る。居心地の悪い視線に、またも悪態を吐いた。

その後、浮き輪に寝そべるようにして海に浮かぶゼンコを見守っているときだった。不意に見上げたゼンコが首を傾げて俺を見上げる。

「あれ、お兄ちゃんサングラスは?」
「ん?・・・ああ、別に、そこまで眩しくなかったからな」
「ふーん?」

かわいらしく首を傾げたまま視線を戻す。
しばらくは海で戯れるタレオとヤツを見ていたゼンコが、何かに気づいたように、あ!と声をあげた。そして、どこか嬉しそうに俺を振り返る。
その視線にまた居心地が悪くなる。おもわず日傘を持つ手に力がはいって、折らないようにと慌てて握り直した。

「大丈夫だよお兄ちゃん!いざとなったら、わたしのかしてあげる!」

キラリと光る、ピンクのフレームが特徴的なお子様用のサングラスがなんと頼もしい事か。
さんきゅーな、と笑って返して、そして太陽に反射する銀髪の眩さにおもわず目を顰めた。日傘で見ている事がバレないように視線を誤魔化す。
そして、胸の辺りをジワジワと何かに侵蝕されていくような感覚に、落ち着かなかった事を鮮明に覚い出してしまう。

「・・・チッ、うっとーしいぜ」

思い返してみればスーパーで出会ったあの瞬間から、俺たちを取り巻く雰囲気はおかしかったようにも思う。答えようのない無理難題を突き付けられた感覚に、俺はほぼ毎日、無性にハラを立てていた。
ダチになりたい様子でもない、だからと言ってこれ以上踏み込んでくるワケでもねぇ。そもそもヤツの行動に振り回されていたとは言え、最近の俺は少し絆されていたようにも思って、それにもイラついて舌打ちがこぼれた。何故俺は、こんなにもヤツが気になるんだろうか。

元来面倒見が悪いワケじゃないが・・・それだけが、ヤツにサングラスを貸す理由になるのか?

帰りの電車で様子のおかしかったヤツの、熱のこもった瞳を見て見ぬフリしたこと思い出す。細められた金色の目が俺を凝視していて、穴でもあくんじゃないかって勢いにたまらず声をかけてしまう。
驚いたように目を見開いた後、何かを言いかけて止める仕草が余計に腹立たしくて、言わないってんなら好きにしろとヤツから視線を逸らした。別に、何でもかんでも言い合うような仲じゃない。言わないなら、追求なんてするはずが無かった。それこそ、ダチでも何でもねーんだから。

そこでふと、ゼンコの「友達になりたいんだよ」という言葉が自分の中で妙に引っかっている事に気づく。

(俺と友達になりたい?そもそもダチに向けるような目じゃねぇだろアレは・・・アレはもっと、こう・・・ガキが駄々こねるみてーな・・手に入れたいもんあって、でもそれを・・・物分かりの良いフリして、我慢してるような・・・)

「ッ、」

そこまで考えて、自分の恐ろしい思考に血の気が引いていくのが分かった。まさか、と思う。思うものの、何故か確信めいたものが俺の中にはあった。いやしかし、と頭の中で待ったをかける。
そんな、まさか。ヤツに限って、俺に対して、まさか。

「・・・好き、なんてこたぁ・・ねーよな?」

言葉にしてしまった瞬間、一気に集まった熱が顔から耳へ、終いには心臓から指先にまでダイレクトに広がって、ドクドクと妙にリアルに脈を打った。咄嗟に胸を押さえつけて、マジか?と呟く。

そうだ、ヤツはいつだってその不安気な金色の奥に、違和感のある本性を隠していたじゃねーか。


大きく息を吐く。
おそらく身体中が赤くなっている事を自覚して、少しでも隠すために項垂れるような格好でアスファルトを睨み付けた。こめかみから伝った汗が顎先からぽたりと落ちてシミを作っていく。
思い描いてしまった最悪な選択肢の中、ただただ落ちた汗が蒸発していくアスファルトを睨みつけるしか出来ないでいた、その時だった。

「・・・お兄ちゃん?」

ハッとして、勢いよく自動ドアに顔を向ける。
そこには、困ったように眉を寄せたゼンコが立ちすくんでいた。考えなくはないが、ヤツの事はとりあえず後回しだ。
ゆっくりと立ち上がり、まだ熱さの残る顔を誤魔化しながらゼンコに近づいた。

不安気に見上げる瞳をどうにか安心させたくて、ゼンコ!と笑って呼んでみる。少しだけ表情は明るくなったが、お気に入りのトートバッグの持ち手は強く握りしめられたままで、不安な瞳は変わらずに俺を見つめている。

「よお・・・ベンキョーは捗ったか?」
「うん・・お兄ちゃん、迎えにきてくれたの?」
「おう!」
「・・怒ってないの・・・?」
「俺がゼンコに?まっさかぁ」
「ッ、でもわたし、朝っ、お兄ちゃんにひどい態度とっちゃったから・・・!」

黒い瞳が、薄く膜を張る。兄として、今日は本当に情けねぇって気持ちでいっぱいになる。目の前で俯いてしまった小さな頭に手を乗せ、泣くなよ、と優しく撫で回してやる。

「あー・・・ゼンコ、今朝は悪かった。兄ちゃん、意固地になってたわ」
「・・・ううん!わたしもっ、ごめんなさい!」

ボロボロと溢れてしまった涙。しゃがんで、ハンカチなんて持って無かったから、目尻に溜まるそれを親指で拭ってやる。そして強く震えていた小さな手を取る。拳を解いた手を優しく握りしめたところで、ようやく濡れた瞳の中に浮かんだ安堵の色にホッとした。

「な、ゼンコ」
「ッ、なあにっ・・?」
「兄ちゃんと仲直り、してくれるか?」
「うん・・・!」
「よし、こい!」
「ごめんなさいっお兄ちゃん!」

仲直りの証拠にハグをして、その温もりの尊さを噛み締める。いつかのプールの帰り道を思い出して、そういやけっきょくタレオはおんぶしてもらったのか?なんて、やっぱり頭の片隅に思い浮かんでしまうヤツに苦笑した。
俺が笑った気配に対してか、大きな黒目が見上げてきて、お兄ちゃん?と首を傾げる。

「何でもねぇ!帰りにアイス買おうな、ゼンコ」
「!うん!」

元気に頷いたゼンコの頭をぐしゃぐしゃに撫で回して立ち上がる。

「わたしモナカのアイス食べたい!」
「いいけどよぉ、いつも食いきれねーだろ?」
「お兄ちゃんと半分こするから大丈夫!」
「ハハ、そりゃ名案だ!」

にんまり笑うゼンコの小さな手を握りしめて、俺たちは帰路についた。






帰り道、コンビニで買ったモナカアイスを半分こしながら歩く。

「アイス、おいしいね!」

半分こしたアイスを頬張り笑うゼンコをみて、朝からヤツに対してごちゃごちゃ考えていた自分が馬鹿らしくなって、小さく息を吐いた。そもそも俺の憶測で、現実的にはあり得ない事だ。さっきゼンコに謝った言葉通り、意固地になっていたのも事実だしな。

「・・・夏祭り、4人でいくか」
「ほんとうに?!いいの?!」
「おう!男に二言はねぇ!」
「やったー!タレオくんも喜ぶよ、きっと!」

やっぱりゼンコには笑顔が1番だな、と喜ぶ小さな手を握り返す。しかし、それと同時に見上げてきた少し意地悪な色を含んだ瞳にギクリとする。

「・・・どうした?」
「けっきょくお兄ちゃんはガロウさんのことキラいじゃないんでしょ?」
「あ?!いや、それは・・・!」
「お兄ちゃんー??」
「ッ・・・わ、悪いヤツじゃねーけどさぁ!!」
「ほらぁ!」

ちがう!そうだけど、そうじゃない!
確かに、認めたくはないが嫌いじゃない。嫌いな人間にわざわざ絡みにいくほど、俺は出来た人間でもねぇ。でもだからって、この感情に名前を付けなきゃいけない道理は無いはずで、ヤツの不透明な気持ちを察しなきゃならない理由だって、無いはずなんだ!

しかし、フフフと可愛らしくほくそ笑むゼンコにはそんな事関係なく、けっきょく何も言い返せないままだった。茹るような思考が、またもごちゃごちゃと考え出す前に頭を振って、脳内のヤツに中指を立ててやる。
相変わらず顔に集まる熱の正体は果たしてヤツのせいなのか、それともいつの間にか本格的になってしまった、夏のせいなのか。

どうにも居た堪れなくなって、食べかけていたアイスの存在を思い出して口いっぱいに頬張ってみる。その冷たさが今の俺にとって唯一の逃げ道のような気がして、やっぱり居た堪れなくなる自分に舌打ちした。







つづきます!


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