日日火水木土土

「月月火水木金金」ではない
怠け者の絵日記、photo日記。

秋深し

2008-12-06 | ひとりごと

11月の末に妻と二人で母の所へ行ってきた。
老人ホームへ行くときは、いつも裏の畑のほうから入っていく。
その日は5人ほどの工事関係者が、裏口の近くのちいさな空き地にいた。
気にも留めず歩いていくと、一人の人から
「木が倒れますから、気をつけてください」と声をかけられた。
空き地を見ると、大きな杉の木をチェーンソウで切っていた。
その木の倒れる方向を誘導するために、車からワイヤーで引っ張られていて、
わたしたちの数メートル先の道路をそのワイヤーが横切っていたのだ。
すぐに倒れるとのことだったので、立ち止まって事の成り行きを見守ることにした。
ほどなく、杉の木は軋みとともに倒れはじめた。
しかし、隣にあったほかの木にもたれかかリうまく倒れてこなかった。
ワイヤーが取り去られるのには時間がかかりそうだったので、
空き地を大回りして先へ進み施設へと向かった。

その日は、数日前に施設の担当者の方から連絡があり、承諾書にサインをすることになっていた。
最近は、体調が以前ほどは思わしくなく、入浴中に吐いたり、下血があったりするとのことで、
母のもしもの場合の処置についての確認を求められた。
最期は家で看取るか、延命の措置は行うのかなどの内容だ。
延命の措置は必要ないこと、最期まで施設でよろしくお願いしますとのことを伝えた。
その日の母は、ときどき目を開けてはいたがまどろんでいた。
看護の担当の方がこのところの状態を説明してくれた。
下血のことがあったので、発熱はあるのかと聞いてみた。
「ちょっとあったのですが、今は平熱に戻っていますよ」
といいながら、母の首元に手をあてた。
母は、少し顔を顰めちいさな唸り声を上げた。
わたしも、首元に触れてみたが、いつもと同じ冷たい感じの皮膚だった。
説明を終り担当者の方は仕事に戻っていった。
母が目を開ているときに、
「12月に入ったら、久しぶりに長崎に行ってくるよ。
オヤジの墓参りもしてくるけんね」と話しかけた。

帰りに先ほどの空き地を通ったら、木は倒れていて人影もなくなっていた。

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