石ころ

花火



 今まで、花火を見るために出掛けることはめったになかった。二階の窓からチラ見、断片を見る程度だったけれど・・。
昨夜は、さっさとお風呂に入り「もう寝る」と寝室にこもった主人を置いて、リビングの熱気に追い出されるように涼風を求めて出掛けた。

山にこだまする花火の音にも、幾らかは心を動かされたけれど・・、ゆるゆると坂道を下って行くと、大川に近付くに従って、赤くまぁるく空に広がるのが見えた。
ガードマンの指示に従って国道を横断し、橋の欄干に身を持たせ、川面を赤く染めて流れゆく灯籠を眺めた。
空気をふるわせてド~ンと打ち上げられる度に、パラパラと空から落ちてくる赤や金色の火の欠片、それが奇麗な形をしていた・・。


 30数年前・・この地に引っ越して来て、子供には初めての花火を見た日のことを思いだした。彼らは目を丸くして、打ち上げられる度に手で頭を覆っていた。頭上に落ちて来そうで恐かったのだ・・主人と笑ったなぁ。

橋の上でひとり、吹き上げる川風に身をもたせ、せせらぎの音と、橋が震える花火の音の中で、ぼんやりと思いを巡らせていた・・。
上がって行く時の期待を負った大輪の火の花は、派手な音と共に砕け散って、虚空に飲まれてゆく・・。
それは刹那・・、闇に飲まれて消えさる色彩。

吹き上げる川風は、冷たい水で素肌を洗われているような感覚・・。内にとぐろを巻いていた熱を奪って行ってくれる。
花火は次から次へと鮮やかに、華やかに、橋を振るわせ心を引き寄せて・・、いつしかうっとりと眺めていた。

 しかし・・、ふと気付くと橋の上は殆ど誰も居ない。先ほどまで居たガードマンの姿もない。たまに通り過ぎる人がいるだけ・・ちょっと?だった。
そんな中でのんびりと、独り占めのように川風と上がる花火を満喫していた。

遠くの鉄橋をのんびりと電車が通って行く、心なしか今夜はゆっくり走って行くように思うけれど・・、いや、この時間こんな田舎ではほとんど誰も乗っては居ないはず・・。
花火はひときわ華やかに打ち上げられて、金色の火の花が空いっぱいに広がって川面に散った・・そうして、空には闇と静寂が戻って終わった。


 帰宅後息子に、橋の上での見物は禁止されていると知らされた。どおりで人影がないと思った・・。みんな、露店の出ている河原が良くて、そちらの方だろうと思っていたのだけれど、違反だったんだ・・ごめんなさい。

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