hazar  言の葉の林を抜けて、有明の道  風の音

細々と書きためたまま放置していた散文を、少しずつ書き上げ、楽しみにしてくれていた母に届けたい

木霊 (こだま)

2014年06月11日 | 散文詩
杜鵑(ほととぎす) 誰の子 里の 鶯(うぐひす)の子
息子は母を慕(した) い 暮れゆく藪(やぶ)を廻(めぐ)り そっと呼ばわる
誰(た)そ彼 誰(た)そ彼 と

娘は時(とき)満ち 卵を生みても いまだ母を探す
生み落としたる卵を 母に似たる鳥の 巣に置き去る
彼(か)は誰(たれ) 彼(か)は誰(たれ) と

黄昏(たそかれ)と暁(あかつき)は 木の間(ま)の空も 母に似て
行けども姿なく 顧みては啼(な)く

        *

蝉時雨(せみしぐれ) 天水桶を空蝉(うつせみ)の 幼き黙(しじま) 影一つ浮く
水鏡に俯(うつふ)し 頻(しき)りと聴く 沈黙の
彼方(かなた)より青き 時を廻(めぐ)る地球
星燃え凍(こお)る漣(さざなみ)に 木星の呟(つぶや)き響く深更

月光に透(す)く鱗木(りんぼく)の 葉を伝い昇る
仄(ほの)白き翅(はね) 湿りたる黙(しじま)に囚(とら)われし
歌 内なる水 潜(くぐ)り 煌(きら)めき滴(したた)る
流星となり 渦巻く雲の海へ 羽搏(はばた)き
来たれ と 流体の王 呼ばわりし に

        *

古き写真 甥の指に掴(つか)まりて 筑波山より来たる
花潜(はなむぐ)り 近所の公園の花を巡り 台所の窓より
赤いバケツの塵紙の家に 戻りて眠る
器に水蜜なし とて 妹の頭の周りを 廻(めぐ)り飛び
花ちゃん と 呼ぶと 塵紙より 顔を出し

或朝 呼べども出て来ず 塵紙の奥に
斃(たお)れて と 姪の涙声の電話あり
前日に ゆっくりと昇り来(きた)りて 皆を見上げし と

        *

水芭蕉(みずばしょう) くるりくるり と向きを変え
自(みずか)ら映し 囁(ささや)き交わす
右へ左へ 身殖(ふ)やす如(ごと)く
温(ぬく)き白と 閃(ひらめ)く形

此処(ここ)に 雪といふもの ありし
青き翳(かげ)に伴われ 誰(たれ)そ 見たか と

今は 淺緑の茎葉の下か 明るき青き空の上か
母なるか 懐(なつ)かし と