hazar  言の葉の林を抜けて、有明の道  風の音

細々と書きためたまま放置していた散文を、少しずつ書き上げ、楽しみにしてくれていた母に届けたい

有明

2015年04月30日 | 散文詩



 月明の夜半 蒼き霧氷の影浮く 古(いにしえ)の森の途を 歩み來る人影
 薄蒼く 透き翳る 外套うち羽織り 深き想いに沈み 面(おもて)を上げず
 目を凝らせど 一向に近づかず やがて夜明くれば 枯木立となりぬ

南極の台地を走る 雪上車
渦巻きながら 斜めに地を這い 解けていく 雪煙と影
影と雪の間が 時折 滲むように 青紫に翳る
無限軌道の端が 滑っていく 地表の下へ 墜ちかかる

仄白き闇の底に 散らばり咲く クレバスの青い花
クレバスの底は 途方もなく青い  そんな青は 頭の中を囁きで満たす
聴き取れない 息子の言葉に屈み込んだまま 想い出せなくなった夢が
地吹雪の棚引く氷原に 掻き消されていく
歯擦音の雪煙に 眼が霞み 瞬こうとしても もう開けなくなる

 Ali Massey - Crevasse Exploring
高過ぎる熱が 夜明前の 青の時 息子の病室を 南極へと運ぶ
脳梁 から身を躍らせた 燃え盛る 海馬 は クレバスの底の氷海から
首を擡(もた)げる  遙かな上で 黒い小さな雪上車が傾き
時の雨に滲む 淡い影を揺らめかす
ずぶ濡れになっていることにも気づかず 星のように燃える
その背に しがみついていた 幼い息子は 目を上げる

幼い頃 閉じた目を押すと 見えた  膨らみ脈打つ 薔薇色や濃紺が
渦巻きながら 互いの周りを 羽搏(はばた)き廻り 耀く泡の 透き通る空洞と
反射する被膜の間で 全ての外縁は その最果てで 中心へと注ぎ込む

宇宙の涯は その深奥の源で 重なり揺らぎ 湧き出で
夢見ながら眠る 過去の周りに 幾つも重なって実る 未来へと
撓(しな)やかに反り還り 通り抜け 幾度も 幾度も 伸び広がって 廻り続ける


Rfantasia - Sunsets last for hours, and run right into sunrise with no darkness in
between (Kickin' it at Palmer Station Project PARKA 21 February 2014 Scientist

昔 廊下の端に 消火ホースの仕舞われた 小さな扉のような 鋼の箱が在った
ホースは 腸や遺伝子の二重螺旋のように うねり畳まれていて
水が入ってきたら 伸びて張り詰め 鋼のように硬くなる

扉の表に 打ち出し文字で 消火栓 と記されている
真ん中に居る人の 両側で踊る 小さな雫のような点
弄(いじ)っていたら くるくる回り出す

両手に火の玉を持っている人 持たされているのか 放せないのか
灼かれているのか 手は熔け落ち なくなったのか
プラズマの翼になったのか 違う次元に 巻き上げられているのか
持ち堪えているのか 差し出しているのか
投げつけようとしているのか 渡そうとしているのか

怒っている火 泣いている火 笑っている火
火の魂は二つ 二つで一つ 二つとも くれるのか とれてしまう
消し炭のような二つの穴が 目のように見返す 消人栓
目の記憶のように ホースの中へ入っていって 襞の奥へ曲がり 居なくなる


Julien - Last Concordia sunset
choronicles from concordia 5 July 2013 Credits: IPEV/PNRA-A. Litteri)

そんな扉を潜ると 幽かになって 此世にない方の 門から出ていく
行ったり来たりは できない  本当の途は 円環に閉じている
端があるのは 橋  同じ橋は 渡れない
本当の橋は 渡る時に できて 渡ったら消える

今までに 何度も何度も 渡ろうとして 溺れた人々が
空間の中に 途を築き 支え 渡らせてくれる
助けてくれる  空間は 記憶で できているから

進化とは 淘汰では なく 初めに先へ行った人が 後に続く人を顧みて
助け守ること  記憶を残すこと  伝え託して 途を支え 持ち堪えること

行き続ければ 帰って來られる  行き続ければ 帰って來られて また行ける
止まらなければ ずっと 止まらずに行けるのか  一緒なら  誰と 遊んでいたのか

地吹雪は吹き募る 傾いた雪上車が埋もれていく 扉は開こうとしない
何も見えない 雪中車 雪下車 何も聴こえない 蒼い光を放つ 白い闇の中
途が近づいて來る


Larry R. Nittler - Sun shining through clouds on the nearest hill to camp,
taken around 11PM. (13 December 2000) (Larry's Pictures from
the 2000-2001 ANSMET expedition to Meteorite Hills, Antarctica, Page 2

 昔 暁の宿命に向かいし 男ありて 母なる人 木洩月となりて
 葉叢 かき分け 追い縋(すが)り 止める術(すべ)なし とて 祈り念じ
 暁 間際に 男を木立に変じたる  爾来 夜毎 月明りに見守られ 嵐の夜も
 炎熱の夜も 木枯らしに 星流るる夜も 尾根 踏み分けて 沢に転び入り
 悩み歩める人 暁と共に 身の丈の 枯木立となり 同じ処にて立ち尽くす
 有明の 深く凍りつつ 廻り流るる 蒼き途の辺

誰が 扉を開けてくれたのか 息もできない 天も地もない 地吹雪の中を
基地まで歩いて帰った 凍傷になった手足も失わず

基地の敷地内に居てさえ 風に流され不帰となった 隊員も居たのに
六年前 それは息子が生まれた年 遺体が見つかるのは
八年後 それは息子が亡くなる年 その時は未だ 何処かに斃れて居た筈だ

凍った耳は 吹き荒ぶ風の 聴き慣らされた音に また 透き通り始める
最期に聴いた 風が噎(むせ)び始めると 凍った身体は 立ち上がり歩き続けた
風は 助けを呼んでいたから


The efforts of Whetter and Close to get ice in a blizzard at Cape Denison
(Photo: Frank Hurley)(Windiest … Classroom Antarctica 2 July 2014

その日 また立ち上がり 吹きつける雪で 天を突く 白く渺漠たる姿となり
極寒の雪嵐を一身に受け 嘆き彷徨(さまよ)う 風を探す間

六年の裡に 何度も何度も 帰り着いて 凍った拳で扉を叩き
掻き消された 安堵の溜息の中で 解けていった 数限りない途を
誰かが 基地まで連れ帰ってくれた

長い花弁の渦巻く 息を呑むような 大きい 白い花が
風防ガラス一杯に 咲くのを見たのに

数多の 小さな白い花となり 息子の棺の周りに 現れるまで
あれが 何処へ往ったのか 何故 巨大な花火の 反転した残像のように
白濁した闇の中を 吹き降りて來て クレバスを蔽う 吹き溜まりに墜ちる
寸前で 雪上車を止めたのか 解らなかった



その時 解ったような気がした けれども 音のない地吹雪を 吐き出し続ける
その凍えた風の 数多の舌のようなものを 一つ一つ 喉元で 断ち墜とし
それは 諸刃の氷の花弁となって 腹腔内に散り積もった

決して溶けることなく 砕け散り 小さく小さくなって 超流動を得
壁を攀じ登り 隙間に伝い込み 切り裂き 満ち溢れ続ける
蒼白く底知れぬ 深い闇の花となった

凍てつく颯(はやて)のように 途が近づいて來る時
驀地(まっしぐら)に飛んで來る 鋩(きっさき)は 標的からは見えない
幅のない長さが進む時 出発点と到達点にとって それは点ですらない

幅のない長さにとって 出発点と目標点は 同じもの
長さがあれば 両端が極となる
極は引き合い 同じものの表裏故 合わさって消失する
消えたのではないが 往ってしまう 近くて遠い 最果ての深央へと


Full moon over Antarctica, the shadow is that of Mt. Erebus.
(Photo: Jim) (Full Moon over Antarctica iceblog beth bartel,
live from antarctica and points elsewhere 29 October 2004

二つのものが 対消滅する間際 何度も何度も 消えた その後で
消える寸前に 二つは何とか 相手を救おうと 自らを引き裂く程
身を捩(よじ)り続け 竟(つい)に 螺旋のスピンを 得たかも知れぬ

最初の二つが 死の接触を生き延びた時 互いの翳(かす)め触れ合った
処が千切れて 合わさり一つになるのを見た
その恐ろしくも甘美な刹那 千切れた筈の処は 元に戻った

千切れたのではなかった 離れていった方だけが 忽ち引き合わさって
一つになり 消えずに堪え残って 全く別なものが 生まれた

そうして 脈動明滅する光の輪は 揺らめき廻り 無限大 ∞ の
律動の 響きの裡に 新たに 移り変わり 伝え拡がり 還って往く

その絆は 宇宙に記憶される  空間が形作られ 記憶は其処に留まり
重力となる  留まりながら伝えられていく  いつか訪れるものの為に
その時 死の苦しみ 別れの哀しみは 変容の力となって 耀き亘る


Antarctic Moon(Photo: Silvia S.) (Shawn Was Here 22 October 2010)
South America & Antarctica - Summary and "Best of" (Day 745)

 或る暁 日蝕の刻 廻り來りて 月 身を捩(よじ)れども叶わず
 男 夜明けを知らず 約束の地に到れり  敵なる友か 友なる敵は 何処
 と 目上ぐれば 月の涙の陽炎に縁取られし 昏き眩(まばゆ)き日輪より
 金烏 飛び來りて告ぐ  汝が家も 敵なる友も 友なる敵も 世代を重ね
 國 滅びて興り 大陸は四方に散りて 汝が國は 海の底深く沈み
 汝が歩む 森は うち砕けし 月の光のみ滲み入る 氷河の奥深くに 守られてあり
 海原遠く夜気漕げば 今や 新たなる外つ國の都 灯火明々と結びて眼路の限り と

遠くまで歩き続けた  氷河に綴じ込められた太古の泡を
掘り出しても掘り出しても 溜息をついて飛び去ってしまう
解き放たれた氷の中に 形ばかりが残る
その形を網膜に灼き付けたら いつか其処に 同じ泡が生まれ出るだろうか

穿(うが)っていた手を止め ふと薄昏さと眩(まばゆ)さに 色の見分けのつかなくなった
目を上げて 何処までも続く 蒼白い世界を見ていたら 頭が傾いていき 寒くなった
足の遙か下に 青い途がある 厚い深い 白い氷に阻まれているのに 突然
透明になったように それが見えて 墜ちそうになる


Larry R. Nittler - Driving through some very tall ice pinnacles
(John and Jeff, L-R) (9 January 2001) (Larry's Pictures from
the 2000-2001 ANSMET expedition to Meteorite Hills, Antarctica, Page 3

視線が 何処までも墜ちていき 記憶の底に 凝(こご)った魂が 吸い出されていく
青みがかった 遙か底に 何か見えたような 気がする
自分の影か それとも 探していたものか 同じものか

目の中に芽生えた 罅(ひび)割れた泡は 空洞だけを残して魂を連れ
白く霞む地平線の下に隠れた 日を浴びることなく
何に孵ろうとするのか 何処へ帰ろうとするのか

一足一翼の翳が 氷の中へ奥へと 重く果てしなく 畳み込まれていく
時間の氷原を 蹌踉(よろ)めき歩いていく その後に出來る 青き 蒼き途


Hidden wonders: Royal Marines descend into an ice cave
on the remote island of Rothera in Antarctica
The ice explorers by Suzannah Hills Daily Mail Online 20 April 2012

船出の時 息子は 祖父の肩の上で 懸命に手を振った お父さーん
と あの時と同じ 呼びかける聲が クレバスの青の中を 伝わって來た
厨子王丸のような 過去からの聲のようでも 未来からのようでも
時を超え 彷徨(さまよ)う聲のようでもあった

青を潜り 記憶された聲は 空へ還る
今も何処かで 厨子王丸を探している 安寿の記憶が蘇り
光を放ち始める 止める術はない  いつからか傍らを共に進んでいた
もう一つの光と翳が 不意に逸れ 離れていき 独り 墜ちて往く

息子が羽数枚の重さになっていたことを ダイダロスは知らなかった
地球の底で無限の深さに隔てられ  肌が熔け羽と化し 羽搏(はばた)く度に灼け墜ちながら
息子は飛んで來た 地軸の途を 螺旋に熔け耀きながら 父の夢の中へ

最期に 父の内側に残されたのは 掻き消された氷原に逆巻き
大きな白い花のように渦巻く 無限の地吹雪
辿り着こうとしていた  氷海の青の底 クレバスの青の奥より
息子の骸を抱いて 太陽に向かい 地軸の途を 閉じて消えゆく
二つの円環を 一つに結ぶ処まで 黙々と歩き 辿り着いた




 尾羽打枯らし 佇む人が天仰ぎ 飛び立つ朝(あした) 灼然(いちしろ)く
 有明の 涙を連ね 一条の 海空の閾 吹き亘る途

お父さん 大丈夫
ひたすら手足を動かし クレバスの散らばる 地吹雪から抜け出して
帰り着いた夜更け 夢に息子が出て來た
懸命に手足を動かしている最中 幽かに語りかけて來る聲を 想い返していた

そんな恰好で來ちゃだめじゃないか 心配の余り聲が荒くなる
息子は戸惑った聲になる だって靴がなかったんだよ
そんな薄い寝間着一枚で 何故 判ったのか 聲だけなのに

ごめんなさい
謝ることじゃない 凍傷になったら指が全部取れて 死んじまうんだぞ
指がなければ摑めない 指は残っていたのに その時 息子に触れることができなかった
こんなにも遠く 近過ぎて摑めない内奥で 息子の軌跡は 消息は
青に撓(たわ)められ 逸れ離れ 戻って行く 戻って行ったのではなかった

息子は 遠い祖先が月明りの中に残し 眸の奥に穿(うが)った クレバスの底へ降り
闇より深い青を通って 会いに來た 父と共に在りたい一心で
そして 父が自らを助けるのに感心し 安堵して戻って行った
そして 病室のベッドの上へ戻ったが 生命は 戻れぬ途を 最後まで往った


live science: the moon over an iceberg in the Weddell sea of Antarctica.
(Credit: Diane Chakos/Scripps Institution of Oceanography, UC San Diego.)
Warming Antarctica Linked to Rising Pacific Temperatures 10 April 2011

彼は 父を導いたことを 知らなかった  一途に 封印を解いた
地軸を貫く 螺旋の途を通り 父の手の届かぬ処で 母の聲の届かぬ処で
独り 太古の 酷寒と灼熱の 終わることのない 寂滅の轟きに 耳を傾けた
聴いてはならぬ 來てはならぬ この途は 生命の途
力と時が 螺旋に廻り 生命を送り出し 死へと到る途
全てを賭け この途を通るなら 生命は その時を終える 聲は そう言っていなかったか

だが 息子は それを聴きながら この途を來た そして風邪を引いた
止むことのない風が 極寒の凍りつき しがみつく風が
彼が渡った 小さな脳の中の橋に 彼が何も知らず 父の雪上車の下から
必死で繰り出される 驚くべき 父の足の下から 一つ一つ拾い上げ
薄い寝間着のポケットに 仕舞い込んだクレバスが
点々と滲み墜ち 月の哀しみに満ちた青が 吹き込んで來た

飛行機雲のように 夕陽の残像が 視線に沿って
点々と 潰れた 虻のような影を ばら撒いていく
蝱なら 一足一翼で 二羽が助け合って飛ぶ 伝説上の鳥だから
視線と同じように 二羽で初めて 奥行方向へ進むことができる


Icebergs in Antarctica Photo by James Francis (Frank) Hurley,
the official photographer to the Australasian Antarctic Expedition
A Rare Look at Antarctica, 1911-1914 by Maria Popova
 
此処は何処だろう 音のない 地吹雪の中心 地軸が揺れ傾き 廻り続ける
螺旋の階段がある 昇ることも降りることも叶わぬ その途に運ばれていく

力の途 生命の途は 死の刻限まで 封印されている
生命が 死に臨んで 呼ぶ時 生命を貫いて 途が開く
私が途を通るのではなく 途が私を通って往く

私の生命は その途を流れ去ってゆく 生命は 還って往く
私だけのものでは なかった 生命が 私が仮住まいしていた 美しい生き物が
それを見送る 最後まで見送る と 私という記憶は
その途の通って往った 門口として 其処に佇む 永劫の時を唯独り

誰かがまた 其処を通る時まで 想い出を繰りながら
辺りを照らし 響き波打たせ 無限の海原の 寂しい灯台のように
其処に留まり続ける 不思議だ 私の記憶は
私から流れ出て その途を還って往った 生命の中にも
小さく小さく畳まれて 眠っていて 私が 此処に居る限り 何処かで
いつかまた 私や息子のような生命が その記憶を開くのかもしれない

その時 私は 私や息子が見た 目眩(まばゆ)く オーロラや 月の涙に包まれ
氷原の底に横たわる 始祖鳥のような 子供のような姿が
探し続け年老いた人に 助け起こされて 庇(かば)い合い 数多の手に 助けられながら
地軸の途を 潜り抜け 太陽風の中で 一羽の 翼のある蛇となるのを

灼け落ち崩折れる 灰そのもので在り続ける 不死鳥となるのを
プラズマのアーチを支え 地球の翼となって 羽搏(はばた)き続けるのを
ヴァン・アレン帯として 知られるものが 太陽の灼熱と宇宙の酷寒を
光と闇を和らげ 時の律動と次元の響きへ 転じ流すのを

その熔け燃え尽きる 羽毛の先が オーロラとなって閃くのを
かつて 南極の地で 天をふり仰ぎ 息を呑み 目にしたのが
鎖され熔けゆく 瞼の内に甦るのを 再び見る


Julien - Aurora Australis
choronicles from concordia 5 July 2013 Credits: IPEV/PNRA-A. Litteri)


 來るか 月の子 父なる太陽の國へ
 星を貫く生命の力の途を 通り抜け
 雷に打たれ 氷河に鎖されし 朽ち木より
 踠(もが)き出でよ 翼ある蛇 楽園を守る為
 燃えつつ凍る 二つで一つの 鍵穴となり
 開きつつ鎖す 無限大の廻り続ける
 炎と氷の 螺旋の鍵となりて

それは連なって 一羽に凍り 燃える鳥たちの群 其処に 皆 居る
ペルセフォネー マロリーアーヴィン アポロ1号 チャレンジャー号
プロメーテウス イーカロス ジャンヌ ヒュパティア ジョルダーノ
時は忘れない 誰も

飛び去ることなく 其処で 羽搏(はばた)き続けることで 時を流し 廻らせ
太陽を背に 氷の海で燃える鳥 青い地球を抱いて その熔けた目に 宿る青

私が佇み続ける 此処は 昏く寂しく 静かだが 何処か遠くの 遙かな彼方で
力と叡智に満ちた 燃え盛る生命が 守られ慈しまれ耀くのが 幽かに伝わって來る

瞼の裏で 仄かに記憶が揺らぐ 初めの時のように 少しずつ繰り返し
遠い海鳴りのように 漣が 夢の彼方を進んで來るのが 重なり合う
同じ夢の記憶となり たくさんの独りとなって 向かっているのが 聴こえる


On our way of night flight to Erebus, the late night sun still dips low enough in the sky
to cast soft sunset pinks and corals. (Photo: Jim) (Full Moon over Antarctica
iceblog beth bartel, live from antarctica and points elsewhere 29 October 2004

前に居る 大きくて よく見えない 後ろ姿の人が
下へ 微かに後ろへ 手を差し延べている
それを摑むと もう一方の手の中に
小さな手が摑まるのを 感じる それが 空間の始まり
空間になった あなたが 支える闇の中に 全てが見える 歌が聴こえる

歌っている 熱く冷たく 青く白い 耀く昏い 有明の風の途
遙かに遠ざかって 深奥より湧き出し 包み込み 呼びかける
問いかける 記憶が蘇り 応える時 光が生まれ 空間を支える
闇の重さを そこに宿る力を 記憶を照らし 響かせていく

恐怖と痛みに 押し潰されそうになりながら それが
新たに記憶すべき 夢に垣間見た 変容へと 続いていくことを想い出す
忘れても 忘れても 知りたい 想い出せる 伝えたい
また ここへ來たい もっと遠くへ 何処までも往き きっと帰って來る
あなたと 皆と 一緒に