新古今和歌集の部屋

読癖入清濁付伊勢物語 二十一段世有様、二十二段憂きながら 蔵書

烏丸光広筆 龍田川

 

 

廿一むかし、男、女いとかしこく思ひかはして、こと心なかりけり。さるを

いか成ことかありけん、いさゝか成事に付て、世の中をうしとおもひて

出ていなんと思ひて、かゝるうたをなんよみて物に書付ける

  出ていなば心かるしといひやせん世の有さまを人はしらねば

とよみをきて、出ていにけり。此女かく書をきたるをげしう心をくへ

き事共覚えぬを、何によりてかかゝらんと、いといたふなきて、いづかたに

もとめゆかんと、かどにいでゝ、と見、かうみ、みけれど、いづこをはかりとも

おぼえざりければ、かへり入て

  思ふかひなき世なりけりとし月をあだにちぎりて我やすまひし

と、いひてながめをり

  人はいさ思ひやすらん玉かづらおもかげにのみいとゞ見えつゝ

此女、いと久しく有て念じわびてにやありけん。いひをこせたる

 今はとてわするゝ草のたねをだに人の心にまかせずもがな
かへし
  わすれ草うぶとだにきく物ならば思ひけりとはしりもしなまし

また/\、ありしよりげにいひかはして、をとこ
新古今
  わするらんと思ふ心のうたがひにありしよりげに物ぞかなしき
かへし
  なかぞらに立ゐる雲のあともなく身のはかなくも成にける哉

とはいひけれど、をのが世々に成ければ、うとく成にけり

廿二昔、はかなくてたえにける中、猶やわすれざりけん、女のもとより
新古今
  うきながら人をばえしもわすれねばかつうらみつゝなをぞ戀しき

と、いへりければ、さればよといひておとこ

  あひみては心ひとつを川嶋のみづのながれてたへじとぞおもふ

とは、いひけれど、其夜いにけり。いにしへゆくさきの事共などいひて

  秋の夜のちよを一よになずらへてやちよしねばやあく時のあらん
かへし
  秋のよのちよを一よになせりともことばのこりて鳥やなくなん


新古今和歌集卷第十五 戀歌五
 題しらず      よみ人知らず
忘るらむとおもふこころの疑にありしよりけにものぞ悲しき

よみ:わするらむとおもうこころのうたがいにありしよりけにものぞかなしき 定隆 隠

意味:私のことを忘れてしまっているのではないかと疑っている自分に気づいて、前よりも一層悲しくなってしまいました。

備考:伊勢物語 二十一段。

 

新古今和歌集卷第十五 戀歌五
 題しらず      よみ人知らず
中空に立ちゐぬ雲の跡もなく身のはかなくもなりぬべきかな

よみ:なかぞらにたちいぬくものあともなくみのはかなくもなりぬべきかな 有定雅 隠

意味:中空に立っている雲も跡なく消える様に、私の身も儚くきえてしまいそうです。

備考:伊勢物語 二十一段。

 

新古今和歌集 巻第十五 戀歌五
 題しらず       よみ人知らず
憂きながら人をばえしも忘れねばかつ恨みつつなほぞ戀しき

読み:うきながらひとをばえしもわすれねばかつうらみつつなおぞこいしき 有定隆雅 隠

意味:辛いことですが、貴方のことがどうしても忘れられないので、一方では恨みながら、一方ではやはり恋しく思っているのですよ。

備考:伊勢物語 第二十二段

 

※鳥やなくなん→鳥やなきなん(天福本)

いにしへよりも、あはれにてなんかよひける

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