これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

風水 vs 天気予報

2018年09月30日 21時50分10秒 | エッセイ
 同僚の栗本さんに案内してもらう秩父巡礼が、いよいよ佳境に入っている。
「次で最後です。16番から23番まで一気に回ってしまいましょう」
「はーい」
「いつがいいですか」
「じゃあ、10月1日、都民の日なんてどうですか」
「構いませんよ」
 というやりとりをして日程を決めたのだが、どうも具合が悪いらしい。
「笹木さん、10月1日の件ですが、風水を見たらよくないんです」
「えっ」
「9月30日の方がいいですね。日程を変更しても大丈夫ですか」
「大丈夫でーす」
 などと答えていたのだが、台風24号が来るとあっては事情が変わる。
「ミキは行きたくないな。次の日は内定式だし」
 同行するはずの娘の裏切りにもあい、ひとまず栗本さんに相談しようと話しかけた。
「台風? 問題ないですよ。山じゃありませんから」
「でも、電車が止まったら帰れなくなりますよ」
「風水で『この日』と出ていますし、迷いはありません」
「そうですか。どうしようかなぁ」
 栗本さんに迷いはなくても、私は迷っていた。天気予報を見る限り、外出に最適な日とは到底考えられない。家族だって心配するではないか。別に、30日にこだわらなくてもいいと思うのだが。
「じゃあ、やめときましょうか」
「え」
 栗本さんが私の心を見透かすように言った。
「笹木さんは今、体調がよくないでしょう。無理しない方がいいかもしれませんね」
「はあ」
「一週間ずらして、7日にしませんか」
 そんなわけで、めでたく日程変更となり、正直いってホッとした。
 そして迎えた今日。朝から土砂降りと思っていたのに、空は明るかった。雨は上がっている。洗濯物を外に出し、買い物に出かけるときには日が差してきた。
「うそ~、降ってない?」
 予定を変更したことを後悔していたら、午後からはだんだん暗くなってきた。洗濯物を取り込み、夕食の仕込みをしていると、15時ごろには盛大な音を立てて大粒の雨が屋根を叩き始めた。
「やっぱりね。さ、ジムの準備しようっと」
 このまま、台風接近まで本降りが続くのだろうか。傘を差していても濡れるほどの雨なら、山用のレインウエアが必要だろう。



 さらに、防水のショートブーツを履けば完璧だ。強風や雷がなければ、歩いてジムまで往復するくらい、どうってことはない。大きな傘を持ち、胸を張って家を出る。すると、すでに雨は小降りになっていた。
「なんだ、単なる通り雨?」
 完全武装したというのに、傘を差さなくてもいいかな~という程度の小雨ではガッカリする。
「でもまあ、帰りも不安だし、これくらい着込んでおいたほうが安心だよね」
 自分に言い聞かせるように、無理やり納得する。しかし、スカッシュを終えて17時ごろにジムを出たら、雨はすっかり上がっていた。
「は? やんでるじゃん……」
 うーん、栗本さんが予想した通り、秩父には問題なく行かれたみたい。悪いことをしたと反省する。しかも、帰り道々、レインウェアがサウナスーツと化して暑かった。はあはあ。
 20時からはJRの首都圏各線が運転見合わせとなったけれど、日中はさほど気にせずともよかったようだ。天気を当てるのは難しい。
 台風情報を見ていたら、「明日10月1日の東京都心の最高気温は34度」と報道されていた。うへ~。
 だから、風水的には10月1日よりも9月30日となったわけか。
 ものになるか自信ないけど、私も風水、勉強しようかな。


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何か忘れていませんか?

2018年09月28日 22時27分09秒 | エッセイ
 昨夜はよく眠れなかった。
 季節の変わり目には咳に悩まされることがある。風邪かと思って内科に行くと、いつもアレルギーと診断される。常備している薬を飲んで寝たが、即効性はないから、夜中に咳き込んで何度も目が覚めた。
「ゴホゴホ、ゴホゴホ。まだ3時か……」
 だから、寝起きは最悪だった。頭がボーッとして重い。それでも、これしきのことで仕事を休むわけにいかず、手早く朝食をすませて駅に向かう。
「あ……アイラインが」
 駅の近くで、化粧のミスに気づいた。ファンデーションは塗ったのに、アイラインを塗り忘れた。荷物を軽くするため、化粧品は持ち歩かない。女子力も捨てた。けれども、いつもよりダメダメな見てくれに萎縮する。
「ポーチに入っていたのに、何で気づかなかったんだろう」
 それはやはり、寝ぼけていたからに違いない。脳の一部が眠っていたのだ。今も?
 さて、どうしよう。わざわざ取りに帰るほどのものではない。代わりのものはないか?
「ふでペンとか」



 ふでペンは、職場の机に常備している。私のアイライナーはふでペンタイプだから、飽きたら写経に使おうかと思っていた。ならば逆に、ほんまもんのふでペンで目を縁取るのもアリか。
「んなわけないだろう」
 冷静な答えが出てきた。だって、落ちなかったら大変ではないか。
「ボールペンとか」
 2校目の教え子は、アイライナーの代わりに油性のボールペンを使っていた。恥ずかしげもなく堂々と。描きやすくていいと笑っていたが、彼女の肌はボロボロだった。肌荒れしては元も子もない。
 結局、目の周りには何もつけなかった。
「考えてみたら、咳対策でマスクするじゃん。口紅だっていらないよ」
 加齢とともに、睡眠力や女子力は落ちていくのに、怠け心は成長する。
 ムクムク、ムクムク膨れ上がって、すっかり図々しくなった。
 しばらくは手抜きメイクかな?


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かがみの孤城

2018年09月23日 23時55分49秒 | エッセイ
 私は、ある高校で教員をしている。
 4月下旬から、毎朝、2年生のタカバタケさん(仮名)のお母さんからの欠席連絡を受けるようになった。どうやら、不登校になってしまったらしい。
「去年は皆勤でオール5だったんです。どうしちゃったんだろう」
 担任も首を傾げている。保護者も原因に心当たりがないと困惑しているようだ。一体なぜ?
 不登校はどの学校にもある問題だろう。2018年本屋大賞を受賞したこの作品は、学校に行かれなくなった7人の中学生が登場するファンタジーである。



『かがみの孤城』
 主人公の中1女子、安西こころの場合は、同じクラスの真田美織というイカれたヤツが原因だった。徒党を組んで、こころの友達に「あの子と仲良くするな」と働きかけて孤立させる。無視されたり、聞こえよがしに悪口を言ったりと質が悪い。こころが入っている、トイレの個室をのぞこうとしたこともあった。はては、こころの自宅への不法侵入にまで発展し、まったくもってどうかしている。
「気違ってる……」
 もちろん、そんな言葉はないけれど、そういうレベルの子だ。頭の中はカラッポで、異性のことしか考えられない。自分の行動を反省することもなく、思い込みと自己陶酔で行動する。
 横溝正史の名作『獄門島』では、和尚が「キチガイじゃが仕方がない」とつぶやく場面が伏線となっていた。そのキチガイとはちょっと違うけど、真田美織は一種の障害だから、情状酌量の余地がある。腹立たしいのは取り巻きである。右へならえして、気違ったヤツにへいこらするとはどういうことか。次は自分が仲間はずれにされるかも、と不安になるからといって、人を傷つけていいわけがない。何も考えず、ひたすら強い人間に服従する輩は信用できない。
 こころ以外の6人が不登校になった理由はさまざまだ。学校に原因があるなら、転校すれば解決するかもしれないけれど、家庭に原因がある場合は難しい。子どもが安心して暮らせる場を確保するのが当たり前のことなのに、それすらできないとはひどい話である。
 でも、7人の中学生は変わるのだ。もちろん、いい方向に。ちょっとしたエピソードが無駄なく生かされ、ジグソーパズルにようにきっちりとはめ込まれていく。日頃から反応が鈍くて、お化け屋敷に入っても怖がらない私が、ラストではワンワン泣いた。お化けを見ても、逃げ出さずに観察してしまう私が、人に対する思いやりの深さに胸を熱くした。お見事としか言いようのない結末で、今年読んだ本では一番よかったと思う。
 うちの生徒は、図書室を利用する割合が低いのに、この本に関しては貸出が多い。いい傾向だ。



 
 話を戻そう。
 私の学校のタカバタケさんは、9月になっても学校に来られない。中学と違って、高校には進級に基準がある。欠席が多すぎて、彼女は3年生になれないことが決定した。家から外に出られないから、転学も考えていないそうだ。でも、おばあちゃんの家には行かれるし、泊まることもできるのだとか。
 現実と小説は違うけれど、タカバタケさんにもこの本を読んでもらいたいと思う。
 こころの友達の東条さんという女の子が、「たかが学校」と言い切る場面が好きだ。学校なんて、人生のほんの一部分に過ぎない。不登校だったら、人生が終わるわけじゃないと伝えたいのだ。
 教育機関の職員としては、すべての生徒が安心して過ごせる場所を提供せねばと気を引き締めた。


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右手を上に

2018年09月20日 22時18分19秒 | エッセイ
 今の職場には、血の気の多い職員が少なくない。廊下で、職員室で、体育館で、職員同士がしばしば口論している場面に出くわす。
「成績、どうなりました? 1時から打合せですよね」
「いえ、まだ終わっていないんです」
「困るじゃない。今すぐやってくださいよ」
「時間がないんだ。できるわけないじゃないか!」
 窮地に立たされ、彼はつい「逆ギレ」をしてしまったようだ。5分後には頭を冷やし、「なるべく早く処理します。すみません」と謝罪していた。
 人によって、戦法はまったく違う。
「開き直り」は、そんなに悪いことしてないじゃーん、という顔ですると効果を発揮するようだ。
「人のせい」は一番よくない。罪をなすりつけられた人からも恨まれ、いずれ、誰からも相手にされなくなる。人に頭を下げることに、大きな抵抗を感じる人の常とう手段だった。
 だが、先週、「こんな手があるとは!」と驚く戦法を使った先生がいたらしい。
 あと2年で定年を迎えるオバ様先生は、冷蔵庫に賞味期限の切れた食材を入れっぱなしにしている男性に腹を立てていた。共用スペースを確保するためには、やってはいけないことなのだ。でも、オバ様は言い方が悪い。クッション言葉は一切なく、「私の言うことに従うべき」という態度でものを言うから角が立つ。
「ちょっと。冷蔵庫のチーズ、あなたのでしょ。とっくに干からびてるわよ。さっさと捨てて」
 しかし、男性は素直に話を聞くタイプではなかった。
「何で、そんなこと、あんたに言われなきゃいけないんだ」
「誰かが管理しなきゃいけないの。腐ったものの山になっちゃうでしょ。さあ早く」
「もうちょっと言い方ってものがあるだろう」
「あなたはこの前だって、ああでこうで、全然ルールを守らないじゃない!」
 オバ様は話しているうちに、感情が高ぶってくるタイプだ。過去の問題にまでさかのぼり、ますます激しい口調になってくる。男性は「やってられない」と呆れかえり、席を立とうとした。
「ちょっと、逃げる気なの? もう許せない!」
 オバ様の怒りは最高潮に達したらしい。ゆっくりと両手を動かし、短い言葉を発した。
「かめ はめ 波~」



 私はこの場にいなかったことを、実に、実に残念に思う。
 彼女は悟空のように、男性に向かって「かめはめ波」を放ったというのだ。あまりに突飛で、予測不可能な行動である。誰ひとりとして反応することができず、凍り付いているうちに、オバ様は勝ち誇った顔をして部屋から出ていった。
 しばらくは、話題に事欠かない。今日も、ひそひそ話が聞こえてきた。
「かめはめ波は、右手が上になるんだよ」
「こうか、ふーん」
 彼女は毎日、練習しているのかしら……。


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塀に向かってこんばんは

2018年09月17日 21時39分35秒 | エッセイ
※ 今回は虫の画像がありますので、苦手な方はご注意ください。

 小泉八雲資料館で購入した『怪談・奇談』を読み終えた。



『轆轤(ろくろ)首』『耳なし芳一』『食人鬼(じきにんき)』に代表されるように、八雲の話には妖怪や亡霊などがたくさん登場する。決して、ゾッとするわけではない。24時間営業の店が乱立し、夜なのに暗くない現代で暮らしていると、懐かしささえ感じてしまう。
「そういえば、子どものときは夜の神社が怖かったな。お歯黒ベッタリやのっぺらぼうが出そうで」
 果たして、八雲の面白さが現代っ子に通じるかどうかはわからないけれど。
 さて、読み終えた翌日、変わったことがあった。
 19時頃、仕事から帰って自宅の近くまで来たときである。お隣の白い塀に、見慣れぬものがへばりついていた。いったんは通り過ぎたが、妙に気になって引き返す。見間違いかと思ったからだ。だが、決して目の錯覚ではなかった。
「うーん、これは蜘蛛だな……」
 ちょうど街灯のない場所だったから、これで精いっぱいの明るさだ。



 どうだろう。塀の上部にある葉は、3cmほどの大きさである。いくら練馬区とはいえ、こんなに大きな蜘蛛が生息しているとは驚きだ。
「大きいだけで毒はなさそう」
 こちらに気づいているのかいないのか、まったく反応がない。逃げるわけでも、向かってくるわけでもなく、ひたすら塀とにらめっこしている。
「写真は撮ったし、もういいや」
 涼しくなったものだから、蚊のヤツが調子に乗って刺してくる。こんなところで突っ立っていたら、藪蚊の餌食になるに違いない。かゆいのはゴメンだ。そういえば、八雲の本には、若者の血を吸う蛙の化け物もいたっけ。思い出しながら、私は早足で玄関に向かった。
 蜘蛛の妖怪といえば、女郎蜘蛛が有名だろう。美しい女の姿で現れ、人を食らうとされている。
「あの蜘蛛は、地味でよかったわぁ」
 地味蜘蛛さん、また会おうね。


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16億分の1

2018年09月13日 21時13分34秒 | エッセイ
『日経ビジネス』今週号は衝撃的だ。
 特集のタイトルは「パスワード 16億件流出」である。



 インターネットの普及とともに、スパイなどの諜報活動もサイバー空間が主になっているらしい。英国の元諜報員によれば、イスラム過激派が定期的に訪れるアダルトサイトにコンピュータウイルスを仕込み、パソコンを感染させて電子メールを盗み見することで、いくつものテロ計画を未然に防ぐことができたという。
 また、要人のスマホに特殊なウイルスを仕込み、マイクを起動させれば盗聴器になる。GPSでスマホの位置を特定し、上空の無人機からミサイルを撃ち込んで爆殺することすらあったそうだ。
 いわば、国家をあげてのサイバー戦が繰り広げられているという。特に、中国、北朝鮮、ロシア、イランは企業が持つ軍事情報や個人情報などを虎視眈々と狙うばかりか、裏でつながって戦術を教えあっているらしい。サイバー犯罪を行っているのが犯罪者なのか、どこぞの国家なのか、線引きの難しい時代が到来した。
 読み進んでいくと、さらにひどいことが書いてあった。何と誰でもアクセスできるサイトで、企業から漏えいした大量のメールアドレスとパスワードの組み合わせリストが、無料でダウンロードできる状態なのだという。その数16億件とあり、口に含んだコーヒーを噴き出しそうになるほど驚いた。世界の5人に1人の割合で、アドレスとパスワードが流出しているこの事実。なんという数なのだろう。
「あー、やだやだ。アタシのが入っていないといいけど」
 真っ暗闇に閉じ込められた気分で布団に入る。心のコンディションとは裏腹に、とてもよく眠れた。神経質で繊細な性質なのに、不思議なものだ。枕元のスマホのアラームを止め、機内モードを解除したときである。LINEから不吉なメッセージが届いた。



 え? 誰かがパソコンから、私のLINEにログインしようとしているの?
 
 何とタイムリーなことだろう。
 実は、このメッセージを受け取ったのは2回目だ。最初に受けたのは8月だった。誰かが私のLINEを乗っ取ろうとしているのだろう。ゾッとして、すぐさまパスワードを変更した。パソコンからログインできない設定になっているかを再度確認し、様子を見ていたのだが、私の個人情報も間違いなく流出しているらしい。
 いやだなぁ……。
 どうやら、私も16億分の1みたい。
 それとも、16億件どころか、もっともっと多いってこと?


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割にハードな鳥取砂丘

2018年09月09日 21時39分45秒 | エッセイ
 鳥取砂丘は広大な砂の海である。
 エキゾチックで幻想的な写真を見て、ずっと「一度は行ってみたい」と感じていた。だが、砂漠ではなく砂丘という名の通り、思いの外アップダウンの激しい場所だった。
「砂丘会館で長ぐつを借りよう」
 スニーカーなどでは、靴の中に砂が入ってしまうそうだ。また、夏場は砂が60度まで上がり熱くなるので、サンダルはもってのほかとWebページに書いてあった。まったくファッショナブルではないけれど、ここは素直に長ぐつを履こう。



 給食のオバちゃんみたい……。
 インフォメーションで地図をもらうと、砂丘のてっぺんとなる馬の背までの道が載っていた。最短距離で行くコースは、急な傾斜を真っ直ぐに進むため、「ヒイヒイハアハアコース」との名がつけられていた。
 これはちょっと……。
 代わりに、60分かけてグルッと一周する「おすすめコース」を歩くことにした。歩く距離は長くなるが、高低差は小さいので疲れないと思ったからだ。
「あれだ」
 階段を上り切ると砂丘が見える。



 早く行きたいのは山々だが、焦らず右に進み緑地帯を歩く。
「あ、バッタ」
 草の間から、何匹ものバッタが飛び出してきた。少し前に話題になった『バッタを倒しにアフリカへ』に出てくる、サバクトビバッタではなさそうだ。



 バッタは体の色を変えられるそうだから、砂に同化してこんな色をしているのかもしれない。



 緑はすぐになくなり、砂、砂、砂のエリアが待っていた。右足を踏み入れると「ズブズブ」と沈み込み、左足の番になっても「ズブズブ」と潜っていく。「よっこらしょ」と砂から足を引っこ抜き、また同じことを繰り返す。ただでさえ長ぐつが重いから、平地を歩くよりもずっと疲れる。
 まもなく、夫が悲鳴を上げた。
「ダメだ、もう膝が痛い」
 奴は若い時分に膝の手術をしているせいか、悪路と寒さにはめっぽう弱い。これから引き返し、砂丘会館で休憩すると宣言した。
「しょうがない。2人で行こう」
 私と娘はすこぶる元気である。足の下から逃げようとする砂にすべり、邪魔されても馬の背を目指した。



 日本海も見える。



 景色を楽しみながら登れば、馬の背には難なく着く。ここは結構混雑していた。「せっかく登ったのだから、もう少しいたい」と誰もが考えるからだろう。
 風が吹き、砂丘に「風紋」のできる場所がある。馬の背から米子寄りに進むと、ほとんど人がいなかった。トンビの家族が4羽で仲良く遊んでいただけで、ほぼ貸切の風紋を堪能できたことがうれしい。



 足跡もつけちゃった~!



 最後はラクダに乗る。エイキチくんというヒトコブラクダだった。かなりの高さから、ズン、ズンと歩く振動が伝わってくる。大人に肩車されているような目の位置なので、高所恐怖症の人には厳しいかもしれない。



 水は持っていたが、とにかく喉が渇いた。
 砂丘会館に戻ると、ダッシュで梨ジュースを買い、一気に飲み干した。これがまた美味しい。



「俺は梨ソフトを食べて待ってた」
「はあ?」
 私たちはジュースだけだったのに、キイ~!
 砂丘では、パラグライダーやサンドボードなども体験できるそうだ。
 また来る機会があれば、チャレンジしたい。


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八重垣神社で縁結び

2018年09月06日 21時40分59秒 | エッセイ
「松江に行くなら、八重垣神社は外せないよ」
 大学4年の娘が、島根出身の知人にこう言われたそうだ。
「縁結びで有名な神社なんだけど、男女の縁だけじゃなくて、一生つき合える友達との縁や仕事との縁、お金との縁も含めて、自分を幸せにしてくれるものとめぐり合えるようになるよ」
 なるほど、縁とは幅広いものなのだ。ならば、ぜひお詣りしようではないか。





 この神社は、鏡の池の縁結び占いが有名である。社務所で占い用紙をいただき、鏡の池に浮かべる。その上に、百円玉か十円玉を載せて、15分以内に沈めば良縁が近くまで来ているのだとか。また、自分の近くで沈めば身近な人とつながり、離れた場所で沈めば、遠方の人と結ばれるという。



 たぶん、娘には彼氏がいない。やけに張り切って、鏡の池に突進していった。



 私と夫はついていくだけで占い用紙は持っていない。お詣りするだけで十分だ。
「よし、やってみよう」
 娘が池に向かってしゃがみ込み、おそるおそる用紙を着水させる。水に濡れると占いの文字が浮かぶので、読んでからそーっと十円玉を置いた。金欠のため、百円玉は温存したようだ。
 効果の重みですぐにでも沈みそうなものだが、予想に反して、紙は容易に沈まない。周りを見ると、何時間漂流しているの? と聞きたくなるような用紙がプカリと浮かんでいる。さぞ、がっかりして帰っていたれたことだろう。



「やだなあ、ミキのもああなるのかな」
 娘が顔を曇らせて池を見つめる。水底には、たくさんの硬貨や紙がたまっているようだ。期待や落胆、歓喜、失望……もろもろの感情を背負って。
 そんなことを考えていたら、占い用紙に動きが出てきた。硬貨の周辺が浸水してきて、水たまりが大きくなっている。水たまりは徐々に、紙の3分の1、2分の1と成長していき、中央から静かに沈んでいった。助けを求めることもなく、無言で身じろぎもせず水底に吸い込まれて消えた。
「やった、5分で沈んだよ」
 娘が弾んだ声を出す。比較的、体に近い場所だったから、近場の相手とラブラブになるのかもしれない。楽しみだ。



 八重垣神社のあとは、宍道湖の遊覧船に乗り



 お昼過ぎには、松江から鳥取に移動する。特急電車の指定券を取り、景色を見ながらゆったり過ごすつもりだったのに、許してもらえなかったようだ。
「指定席1号車にご乗車されるお客様、本日は冷房故障のため、恐れ入りますが自由席の2号車、3号車にお回りください」
「えー」
 何と、唯一の指定席の車両が蒸し風呂となったため、自由席に移れというのである。信じられない不運。
「なんだ、空いてるじゃん」
 しかし、心配することはなかった。自由席の乗車率は50%程度で、全然混雑していなかったからだ。降車駅で特急料金が返ってきたから、5000円以上の臨時収入を得る結果となった。
 さっそく、お金とのご縁に恵まれた?


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松江観光のイチオシ

2018年09月02日 21時21分11秒 | エッセイ
 水の都・松江は予想以上に美しかった。
 青い空、萌える緑を背景に、茶を基調とした武家屋敷の映えること映えること。





 これが水路に映り込み、陽を浴びてキラキラ輝く。何と素晴らしい眺めだろうか。



「いいわねぇ」
「キレイだな」
 夫も娘も、口を開けて景色に見とれている。きっと私も同じで「あんぐり」状態だったろう。
 武家屋敷は金沢と大差ないが、松江城は国宝だ。



 冷房はなくても、扇風機がついていた。高知城よりは涼しい。
「顔をはめて写真を撮るヤツがあるよ」
「クスクス、やろう」
 と、バカなことにチャレンジする元気が残っていた。
 だが、私のイチオシは松江城ではない。小泉八雲記念館だ。



 レイクラインに乗れば、目の前にバス停があり便利だった。残念なことに、平成生まれの娘に、この記念館の価値はわからなかったらしい。
「小泉八雲? 何をした人?」
 そう、知らないのだ。昭和の世代であれば、一般常識に出題されたり、英語の教科書に登場したりで知名度が高かったけれど、今はそうでもないらしい。ためしに、職場の20代に聞いてみたら、全員、小泉八雲の名前すら聞いたことがないと答えた。
「もともとはラフカディオ・ハーンていうんだよ」
「どこの国の人?」
「さあ」
 私の知識もこの程度だ。でも、記念館に入れば、八雲の波乱万丈な人生がわかる。
「へー、ギリシャで生まれてイギリス国籍を持っていたのか」
 2歳のときにアイルランドに引っ越し、両親は離婚。16歳のときに左目を失明、19歳のときに保護者が破産し、一人でアメリカに移民する。
「なんだなんだ、ひどい話だね」
 日本に来たきっかけは、英訳された『古事記』に出会ったからだという。尋常中学校の英語教師という職を得て、松江に住むこととなった。多くの観光客を魅了するこの都市に、ハーンも惹かれたのだろう。やがて、松江の士族の娘である小泉セツと結婚し、日本に帰化して「小泉八雲」となったらしい。
 当時は「ラフカヂオ・ヘルン」と表記されていたようで、クスッと笑いが漏れた。
「ひいい」
 八雲の代表作は『怪談』である。娘が壁の文を見て、悲鳴を上げていた。怖い話は苦手なのだ。
 もっとも、私が知っている作品は『貉(むじな)』『耳なし芳一』『雪女』くらいで全部ではない。せっかくだから、みやげとなる本を探してみたら、あったあった。



「カバーをおかけしますか」
「はい」
 ちゃんと、文字入りのカバーをつけてくれた。うれしい~!



 記念館を出て松江駅に行くと、八雲ゆかりの土産物を見つけた。



「あっはっは、ほういちの耳まんぢうだって」
「ほういちって何」
 この土産は、『耳なし芳一』のあらすじを知らないと意味がない。
「実はかくかくしかじかで、平家の亡霊に耳をもぎとられちゃうんだよ」
「ひいい」
 中にはこんな耳が入っていた。



 島根県立大学短期大学部の学生による企画と知り、頼もしく感じる。とてもユニークで気に入ったと伝えたい。



「ムシャムシャ」
「パクパク」
 私も夫も遠慮なく食べているが、娘が食べようとしない。
 いらないのかなぁ。


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