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井上源吉『戦地憲兵-中国派遣憲兵の10年間』(図書出版 1980年11月20日)-その33

〈湖南集中営で兵隊たちの間でよく歌われていた「湖南進軍賦」(1945年12月)〉
 
 
一、芒(すすき)の葉末に光るは露か   
 
     やさし湖南のお月さま   
 
     民(たみ)安かれと軒下に   
 
     今日もごろ寝の部隊長   
    
     兵が着せゆく雨外套   
 
二、破れた靴もて踏み行く土の   
 
     なぜか身にしむ温かさ   
 
     見よあの森もこの丘も   
 
     まるで故郷だそっくりだ   
 
     さすが男の胸をうつ   
 
三、赤土色した戎衣(じゅうい)だ顔だ   
 
     友の背中にやつぎのあと   
 
     泣きつつ馬謖(ばしょく)切り捨てる   
 
     兵の姿の頼もしさ   
 
     うたえ湖南の進軍賦(264-265頁)
 
 
 
 
 
〈一般兵科の兵隊と上級将校・憲兵との扱いの違い(1945年12月)〉
 
 
 私たちがこうした生活を送っているとき、一般兵科の兵隊たちは連日道路や鉄道工事にかりだされていた。しかしなぜか上級将校と私たち憲兵には中国側の苦役はまったく割りあてられなかった。私たちの集中営には中国軍の監視兵は一名もいないので行動は自由であり、捕虜であるという気分も屈辱感もなかったのはありがたかったが、工事にしたがっている兵隊たちにくらべ給与が少ないことが苦しかった。(265頁)
 
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