日本の政治学者、河原宏の「日本人の戦争」を読み、感銘を受けた事をふと、思い出した。2008年、講談社学術文庫から出たものだ。
恥ずかしながら、内容はあまり覚えていない。だが、良い本を読んだゾ、という感触だけは残っている。
国会図書館デジタルコレクションで、彼の著作を読む。「漂白する現代人:現代日本の心情と生活」という作品だ。1974年、学陽書房。
この本で河原は、ハーヴァード大学の心理学教授、デヴィット・C・マックレランドの提唱する概念、''メンタル・ビールス"(成就の欲求)を批判し、こう書く。以下、引用。
「…マックレランドのいう近代化のメンタル・ビールスとは成就であり、達成であり、獲得である。そこには暗黙のうちに、人間とは将来のある一点に、なんらかの形の目標を定め、それに到達しようとして努力をするものだ、という前提がある。いいかえれば、人間は前に目標があるから前進するのだという前傾的思考方法である。近代化や経済成長の推進力も当然このような考え方によって説明される。この考え方は、人間観としては合理的ではあるが、比較的単純なものだと思う。少なくとも日本人の経済成長に対する心理的動因はより屈折したもののように思われる。簡単にいえば、日本の場合、戦後経済成長の真の動因は、未来に掲げた目標にあるのではなく、過去にあるのではないか。前にあるのではなく、後にあるのではないか。成就ではなく、解消ではないのか。獲得ではなく、脱出ではないのか」
12頁から引用