いつだったか、母と
商業施設に買い物に行ったときのこと。
友達同士と思しき幼児の男の子と女の子が、
保護者の後ろを仲良く歩いていた。
男の子は女の子に
「大ちゅき!」と言って女の子に
抱きついた。
何という可愛さ…。
全身にマイナスイオンが行き渡るようだ。
あまりの純粋な可愛らしさに、
私は「めっちゃ可愛いっ!」と言うと、
その保護者がこちらを見て
にこっと笑ってくれた。
私も笑い返した。
子供を褒められて、嬉しそうに
笑ってくれた母親。
色々と苦労もあるだろうが、
親子っていいなと思った瞬間だった。
松本清張の映画に、
『鬼畜』というものがある。
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内容をザックリ・オブ・ザックリ言うと、
緒方拳扮する宗吉の元に、宗吉の
妾が隠し子3人を宗吉に押しつけて
姿をくらます。岩下志麻扮する宗吉の妻・
お梅は、宗吉に子供を片付けるように言う。
一番下の子は栄養失調で死なせ、
まだ住所を言えない真ん中の子は置き去り、
状況を全て悟っている一番上の子は…。
これが、なんと実話だと
言うのだから驚きだ。
デーブイデーのパッケージに、
「胸迫る感動のラストシーン」と
書かれてあるが、決して純粋に
感動できるものではない。
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レビューで多かった共通の感想は、
「胸糞悪い」だったが、まさに
それがピッタリだ。
だからと言って、駄作と言う意味ではない。
むしろ、なくならない問題なのだと
深く考えさせられる。
ラストで、宗吉が長男に
「勘弁してくれー!」と詫びるシーンが
あるのだが、誰しもが拳を握りしめて
「勘弁してくれは、こっちのセリフだ!」
と怒りを露わにするだろう。
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40年ほど前の映画のようだが、
そんな大昔から何ひとつ変わってない
という衝撃の事実がある。
映画に出てくる刑事の、
「育てる能力というか、育てる気のない
若い親が増えている」というセリフ。
飽食の時代に子供を餓死させたり、
耳を塞ぎたくなるような虐待をしたりと、
そんな筆舌に尽くせないニュースが絶えないが、
今に始まったことではないと思うと
心をえぐられる。
酷い虐待をされて子供が死亡という
ニュースは言うまでもなく悲惨だ。
でも、こんなことを言っちゃ何だが、
彼らはこれ以上苦しい思いをしなくて
すむと思うと、不謹慎かもしれないが
胸を撫で下ろしたりもする。
助かっても、身も心もズタズタだ。
行く末は分かっているようなもの。
ご存知かも知れないが、
死ぬ寸前は、この上ない快楽を
味わえるそうだ。
虐待されながらも、最期は
きっと羽毛に包まれるような
心地よさで亡くなったと信じたい。
そうでなければ、
ただの惨劇じゃないか。
『鬼畜』
もし観たい人がいたら、
ビートたけしのものでなく、
緒方拳・岩下志麻の方をオススメします。