『読書感想文は強いるものではない』という話題が
狭い範囲を騒がせたと記憶している。
私も昔は読書が死ぬほど苦手だったので、
そうだよなとも思う。
しかし、読書感想文があったからこそ、
生涯の座右の書に出会えたという私の経験を
話しておきたい。
感想文は強いるものではないというのも分かるが、
心を打たれる本に出会える千載一遇の
チャンスでもあるのだ。
あれは、忘れもしない高3の夏休みの宿題。
山本周五郎の紅梅月毛の感想文を書けと
いうものがあった。
今ほど本の虫ではなかった私は、
おいおいおい、女子高生に軍記物かよ、と
全く関心を持てなかった。
(いつの時代の女子高生や)
しゃあねーなと、重い腰を上げたのは、
TUBEのシーズン・イン・ザ・サンや、
山下達郎のさよなら夏の日が似合う、
物寂しさ漂う夏休みが終わる2,3日前だった。
ハイハイ、書きゃいいんでしょ、書きゃ。
んなモン、適当に書いてやらぁ。
なんて思いながらタイトルを読んだ。
『紅梅月毛』
あ〜、やっぱり読書意欲が湧かん。
私は、危うく本を閉じそうになった。
アカンアカン、目を通すだけでも読もう。
私は、冒頭を仕方なしに読み始めた。
ほんの、半ページ読んだだけなのだが、
私は、あれよあれよと言う間に山本周五郎の
世界に引きずり込まれた。
巧いのだ。
目の前で、あたかも登場人物が
遣り取りしているかのように、
情景がありありと浮かぶのだ。
息遣いまで感じられるのだ。
軍記物であることを忘れてしまうほど
感情移入した。
高校生の私ですらも、琴線に触れる表現の数々。
教えられてもいない武士道精神や大和魂
というものが、手に取るようにわかる。
日本人特有の熱い感情が込み上げてくる。
教えられずとも、そういう心は日本人の
DNAに刻まれているのだと
思わずにはいられなかった。
すっかり心を打たれ、大いに感涙し、
読了後は南アルプスにいるかのような
清々しさに浸った。
感想文は、思いの丈を書いた。
この本を宿題にしてくれてありがとうとも
書いた。私は、高3にして
読書感想文で花丸をもらった。
いやはや。
ほんと、紅梅月毛は思い出すだけで
目頭が熱くなる。私のナンバーワンだけど、
山本周五郎の作品はどれもこれも
日本人の琴線に触れる。
ささくれ立った心が和むよ。
紅梅月毛は、短編集
「おごそかな渇き」
「死處」
これら2冊の中に入っている。
YouTubeでは、朗読なんかも
聞けるので、何かしながら
耳を傾けるのもいいかもしれない。
ではでは、またね。