手作りののぼり旗を立てかけ、「美味しいカレー」と銘打ち商売を始めた様子。
キッチンカーと呼ぶにはあまりに貧相で胡散臭い。営業許可は?と聞くのも憚られる印象のその車の中には、70代とおぼしき男性が乗っていた。
軽ワゴンの後部席は倒され大きな保温ジャーと使い捨て容器、給水器とカレーが入った?アルミの大鍋が発泡スチロールの箱に入っていた。
その堤防脇の道路がよく通る道だったため、通り過ぎる度にその光景を目にした。
しかし、いつだって客の姿を見たことがない。
私は想像した。このおじさんは、コロナ禍で職を無くし、考えに考えた末ヤミでの商売を考えた。カレーならルーを使えば難なく作れる。ワンコインで販売したらもしかして儲かるのではないか?
もし、一杯でも貢献できたらおじさんの生活は助かるだろうか?いや、どこのどの人が作ったかわからないカレーを食べる勇気はない。食中毒になっても何の保証もないだろう。
毎回おじさんの車を見かけ、閑古鳥にめげることなく、車内でじっと客待ちするその姿に、少し心を痛めながらも結局その「美味しいカレー」を味わう余裕が私にはなかった。
おじさんの車はいつしか消えていた。