その小さな喫茶店のマスターは、銀縁メガネが似合ういかにもインテリな感じの男性。お喋りで快活な母と違い、寡黙で暗い性格だった。
細かい性格だろうに、やる事は意外に雑でコーヒーを大量に淹れては、オーダー入る度に小鍋で温めるのだけど、泡が立つほど沸騰させたものを平気で出した。
「香りが飛ぶだろ!」と内心思いつつ躊躇しながらお客さんに出した。
サービスにつくパンについても同じ。
食パンではなく、甘めのレーズンツイ
ストロールだから目を離せばすぐ焦げるのに、出すの忘れてモクモク煙。
焦がしたパンを見てもさほど動じるわけでもなく、そのままお皿に。
これには目が点になりました。
「あの、これはさすがに・・・」
と言うと渋々新しいパンをトースターに。
その時の顔は不機嫌で、なんとも絡みづらい方でした。
ですが、オーナーの母が言う通り、人を気遣う優しい性格で、繁忙時間が過ぎるとすぐに私に飲み物を出してくれました。
アイスオーレが大好きだった私の好みに合わせ、ガムシロもつけてくれましたね。
その喫茶店ではランチメニューはなく、喫茶店定番のピラフ、ナポリタン、サンドイッチ、カレーがメニューの主流で、工場が近いため、がっつり肉を食べたい男性へのスペシャルメニューに、焼肉弁当がありました。
割子弁当箱に、豚の生姜焼きとサラダ。ご飯と煮物が入った赤だしつきの人気メニューでした。
一度大失敗して、お客さんの服にアイスコーヒーをぶっかけてしまった事があり、冷や汗かいて謝る私に、オーナー母は、けらけら笑って「大丈夫よ〜」と志村けん並みのノリで慰めてくれました。
しかし、ほんとそのお客さんには申し訳なかった。
数ヶ月でしたが、常連客さんからも郷土土産をいただいたり、のんびりした空気感で働けた事感謝しています。ありがとうございました。
まさにヒュッゲな時間でしたね。