どうも達成感もなく、
「これでよかったのだろうか?」
と、ときどき頭をよぎる。
その後も何件か契約をもらうことができた恵之助だったが、やはり
「これでよかったのだろうか?」
「これでいいのだろうか?」
と、しばしば頭をよぎる。
ある日、営業所内で上司が電話口で必死に頭を下げていた。
「すみません、すみません」を繰り返すばかり。
「日の丸は、今外出中でして・・・」
「えっ、わたしここにいますけれど?」
と恵之助は声に出すが、上司は口に人差し指を当てて
声を出すな!の合図をする。
どうやら山崎さんから、
「損をした。商品を買わせた日の丸を出せ!」
とお怒りの電話のようだった。
少額の余剰資金で商品先物を始めてしまった山崎さんは、
「追証」(一定額値が下がった場合、追加で資金を投入しなければならない)
発生により、あっという間に余剰資金が底をつき、大変困っている様子だった。
「人を一人不幸にしてしまった。。。。。。」
と恵之助は瞬間的に感じた。
あと数名、契約をいただいた方たちも
不幸にしてしまう。。。。
これから契約をとれば取るほどに
不幸な人を増やしてしまう。。。。。
恵之助は恐怖に襲われた。
この日から恵之助は毎日毎日「死んだ魚の目」で、かろうじて出勤し続けた。
つづく。