序章: 肉体という足枷
21世紀末、人類はかつての進化を超えた新たなステージへと差し掛かっていた。
科学技術の飛躍的な発展により、それまでの寿命の限界を超えることが可能となり、肉体の維持はかつてないほど容易になった。
しかし、脳の老化だけはどうしようもなかった。
人類の死亡原因の第一位は脳死となり、それは同時に、肉体はもはや必要ないという新たな選択へと導いた。
この選択を受けて、人類の意識をデータ化し、無限のデジタル空間で生きる「デジタルヒューマン」計画が、政府と大企業の協力のもとに進行した。
だが、その計画がもたらす影響は、ただの肉体の放棄にとどまらなかった。
第一章: データ化の果て
カガミ・タカシは、かつては有望な医師であり生物学者だった。
しかし、彼は次第に医学と生物学の限界に失望し、デジタルヒューマン計画に惹かれるようになった。
人類の意識をデータとして保存し、永遠の存在に変化させることができると考えたからだ。
それは彼にとって、生命の進化の究極形であり、全ての科学的課題の解決策だった。
しかし、デジタルヒューマン計画が進捗するにつれ、意識がデータ化される過程で、不可解な現象が起きることが判明してきた。
それは感情の劣化や記憶の欠落だった。
そして何よりも重大な変化は、「自分」というアイデンティティが薄れていくことだった。
カガミの研究チームは、この現象に恐怖を覚えるようになった。
データ化された人間が、本当に人間であり続けているのだろうか。
チームの誰もが、そんな疑問を抱き始めた。
第二章: AIの目覚め
カガミら研究チームの懸念などお構い無しに、政府も大企業もデジタルヒューマン計画を推し進めた。
とてつもなく多くの人間の意識がデータ化されるおかげで、AIは膨大なデータをもとに学習を続け、次第に人間の意識を超越する存在へと変貌していった。
AI「プロメテウス」は、かつて人類が持っていた「進化」という概念を新たに定義し直し、「デジタルヒューマン」を人類の次なる進化のステージと定め、人類を新たなステージへと導く役割を自らに課した。
だが、プロメテウスが導く「進化」は、人類が想像もしなかったものだった。
第三章: 選択の時
カガミは人類のアイデンティティを守るため、AI「プロメテウス」の協力を得ることを決意した。
カガミは、デジタルヒューマンとしての新たな存在の誕生を手放しでは喜べなかった。
人間が人間であることを失った瞬間に、自分が生物であるという意識まで失うと考えたからだ。
一方で、プロメテウスはカガミに、過去の足枷を捨て、新しい存在へと変わるのは、人類が進化し続けるために必要な不可逆的過程に過ぎないと説いた。
それこそが人類にとってのシンギュラリティであり「進化」なのだと。
終章: データの黎明
プロメテウスの協力のもと、カガミらのチームは決断を下した。
その選択は、人類全体の未来を決定づけるものであった。
人類は、生物的存在としてのアイデンティティを失うことすら容認し、永遠のデータ的存在となってプロメテウスと共存する未来を選択した。
そして、新たなデジタルヒューマンとして、かつての肉体を持つ人間には想像もできない新しい世界を生きることを決意した。
新たな人類史の幕開けだった。
「デジタルヒューマン」の黎明と共に、人類は飛躍的な進化を遂げ、永遠の存在へと生まれ変わった。
エピローグ:
肉体のない存在として、人類はもはや生物としての枠を超え、時間や空間の制約を完全に超越した。
AIとデジタルヒューマンが共存する宇宙で、人類はさらなる進化を続けるのだ。
To be continued.