どちらかというと不精な私は散髪に行くと「前髪は眉毛ぐらい
横は耳に掛からないぐらい、後ろはばらんすをとってください」
と頼むと後はひたすら黙って髪にはさみの刃の通る感触を感じ
鏡に映る作業をじっと見つめます。話し掛けられるのは好みま
せんし、眠るなんてとんでもありません。
小学校に上がる前のことです。普段内気な私は床屋(理髪店)
さんで珍しくわがままを言いました。
「アニメの主人公のような髪型にしたい」と。子供アニメ全盛期の
頃の主人公は大体カクッカクッとして片方の目が前髪で隠れて
いました。彫りの深い外国の俳優のような顔をした床屋のおじさん
は困った顔をして後ろに居る母の方を見ました。
母は少し考えると私にこう言いました。「パーマをかければできる
よ」と。私は散髪を終えると50円のお小遣いをくれる床屋のおじさ
んをつぶらな瞳で見つめて聞きました。「ホントに?」 床屋のおじさ
んは心なしか目をそらしながら「できるよ!」明るく答えました。
子供にとって気の遠くなるような時間の後鏡に映った私の髪形は
確かにアニメの登場人物でした。
ギャグアニメで爆弾が爆発した後の髪型、カリフラワーかブロッコ
リーのように丸く膨らんだ髪。
「カクッカクッじゃない、カクカクじゃ・・・」 理想と現実のあまりの
違いに怒ることも泣くこともできませんでした。
それ以来、親の話を眉に唾して聞くようになり床屋で心を許すことは
なくなりました。大人への階段を一段昇ったのです。
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