見出し画像

Log Book

国立西洋美術館 アルチンボルド展関連講演会 『アルチンボルドと北イタリアの美術』

雨。
梅雨っぽい天気なのは良いとして、
湿度も高くて、めっちゃ蒸し暑いです。
そんな土曜日の今日は、
国立西洋美術館のアルチンボルド展関連講演会に行って来ました。

国立西洋美術館の講演会も、東京都美術館と同じく、
聴講券の整理番号順の入場になったんですね。
聴講券さえもらえれば、順番なんか関係なかったのが、
国立西洋美術館の良いところだったんですが、残念です。

そう言う事になったからなのか、
12時の聴講券配布時間に対して、
11:15過ぎに到着してみると、
既に行列が形成され始めていました。
まだまだ待ち数は少なかったのですが、
このままだとやばいと思い、
そのまま行列の人に(笑)。
配布までの45分、立って待ちましたよ。
疲れたよ。

それで、上記に記した聴講券の整理番号ですが、
聴講券の端っこに、小さく記されているだけ。
これじゃぁ確認しにくいんじゃ無いですかね?
その為か、東京都美術館では「何番から何番の人」
という感じで、10番くらいずつ入場するのですが、
こちらでは、番号を一つ一つ読み上げていく方式。
もっと効率化を考えるべきですね。

さて、今日の講演会ですが、
講師は、青山学院大学教授の水野千依さんで、
タイトルは「アルチンボルドと北イタリアの美術」
定刻通りの開始です。

要旨は以下の感じです。

  • 《春》人の顔であることは直ぐわかる。歯は鈴蘭。
  • アルチンボルドの絵画は、作品を定点ではなく、様々な視点で見るようにしているところが特徴。遠/近、全体/細部、統一性/複合性など、様々な視点で描かれている。
  • アルチンボルトは、「奇矯(ビッザリーエ)」、「奇想(カプリッチョ)」、「諧謔(スケルツォ)」、「酔狂(グリッリ)」と形容されていた
  • アルチンボルドの絵画は、寄せ絵(合成肖像)。
  • アルチンボルドの絵画では、人体で最も優位である頭部に小宇宙と大宇宙を配置している->二つの世界に新たな世界を示している
  • アルチンボルドの初期の作《キリストの生命の樹》は、オーソドックスな古風な様式。《聖母の御眠り》もオーソドックス。後の、寄せ絵的な要素は見られない。
  • 元々ミラノで活動していたアルチンボルトが宮廷に招聘され、宮廷画家になった経緯は不明
  • 皇帝一家の肖像と同じ頃に四季連作を制作。皇帝一家の肖像は、オーソドックスな肖像画で、他方、四季連作は寄せ絵になっている。同じ時期なのに、二つは全く異なる。
  • 宮廷活動中の作品で残存するものは希少。見世物・祝祭の仕掛け・装置・演出の様な一過性のものを行っていたから?と考えられる。
  • ミラノ帰還後、友人のパオロ・モリージャ、パオロ・ロマッツォ、グレゴリオ・コマニーニなどに宮廷での活躍を記録させた。
  • 《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世》はミラノ帰還後に制作した。
  • 四季と四大元素は皇帝に気に入られ寝室に飾られていた
  • ジョヴァンニ・バッティスタ・フォンテオの皇帝への新年の祝儀に贈呈された詩では、森羅万象を支配下に置いた神聖ローマ皇帝寓意として連作を解釈している。
  • 《春》後にスペイン王フェリペ二世に贈答。描いているのは、若年の女性と見られる
  • 《夏》新大陸から輸入されたトウモロコシも描かれている。ハプスブルグ家の力が世界中に及ぶことを暗示している。描かれているのは壮年の女性と見られる。寄せ絵なので、いい加減に描かれているかと思いきや、解剖学的には実は正確に人体を描いている
  • 《秋》中年期の男性を描いている。
  • 《冬》藁のマントに“M”の文字がある様に、皇帝マクシミリアン2世を示唆。冬は一年の始まりと考えられていて、皇帝の象徴である。
  • 《大気》マクシミリアン2世が、動物園のために輸入した新大陸の鳥も描かれている。オーストリア王家の鷲と孔雀も描かれている。錬金術的には男性的な肖像
  • 《火》双頭の鷲、羊毛騎士団があってオーストリア王家をイメージさせている。中世騎士道精神を示している。男性的。
  • 《水》滑っとした魚で描かれているが、実は女性の肖像。
  • 《大地》ライオンと羊毛の毛皮はハプスブルグ家を象徴。錬金術的には女性的気質を描いている。
  • 四季連作、四大元素は、王候君主のコレクション趣味“クンスト・ウント・ヴンダーカマー(芸術と驚異の部屋)”を絵画で実現したと言える。
  • G.B.フォンテオは、四季連作、四大元素をして「ハプスブルグ家に世界の諸王朝が頭を垂れる」と言っている
  • 四季、四大元素では、様々な年代の男女が描かれているが、これはハプスブルグ家は様々な年代の人材がいて永続的と言うことを象徴。また、ハプスブルグ家の婚姻政策(婚姻関係により、勢力範囲を広げていく)を称揚していると言う説もある。またその他、ハプスブルグ家の豊穣と栄光を暗示している
  • 今回の展覧会での四季連作、四大元素はハプスブルグ家の栄光を描いているが、四季連作には他の王家向けの別バージョンもある。
  • 四季連作や四大元素は、特定の人物を描いたわけでは無く、ハプスブルク家を象徴的に描いているが、《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世》では、ルドルフ2世そのものとしての肖像である。意味的には、四季連作と四大元素を内包。交換不能な身体=ルドルフ2世である。正面像であり、両性具有性も見られる。これらは、永遠の春を支配する、ハプスブルグ家の大望が秘められている。
  • ウィーンの四季連作が寄せ絵の最初の着想ではなく、ミラノ時代に作られたと思われる初期作品がある。ミュンヘンのアルテ・ピナコテークに寄託の作品がそれ。作者不詳のエッチングもミラノ時代に着想されていたことを示唆している。
  • レオナルドの自然研究の成果が、ミラノの芸術文化に深く影響を残している
  • レオナルドの相貌研究。《最後の晩餐》で、キリストの発言の衝撃の波紋を描き出している
  • レオナルドの頭部の研究の成果は、鑑賞者にも伝わり影響を及ぼす。それらの研究の成果が、グロテスク肖像に繋がっていく
  • グロテスク肖像がレオナルドの弟子達に継承されていった結果、ジャンルとしてのカリカチュアが成立した。ジョヴァンニ・アンブロージョ・ブランビッラ《謝肉祭》《四旬節》等の民衆文化に繋がる
  • ジャン・パオロ・ロマッツォは『絵画論』(1584年)で「(アルチンボルドの寄せ絵は・・・)旅籠や酒場の装飾にふさわしい」と述べている一方、『絵画殿堂のイデア』(1590年)では「君主や皇帝にふさわしい芸術」と相反する事を言っている。民衆画と言う下位ジャンルと思われていたものが、皇帝称揚を示すという絵画ヒエラルキーが転倒したことを示している。
  • アカデミア・デッラ・ヴァル・ディ・ブレニオがミラノに設立(1560年)。レオナルド芸術への回帰を提唱
  • 時代的には、カトリックとプロテスタントの宗教的対立を背景にした、カトリックの「対抗宗教改革」のもと、芸術の自由を著しく抑圧していた事に対抗していた
  • レオナルドのグロテスク肖像は、ルドヴィコ・イル・モーロの宮廷で流行し、16世紀のロンバルディア地方で伝統を形成した滑稽詩と言う背景をもっている。人体各部を解体して、各部を様々なものに置き換える修辞に専心した当時の文学ジャンル<-アルチンボルト的と言える
  • アルチンボルトのミラノ時代は、こういう滑稽文学が流行っていた時期
  • 滑稽文学では、ヒエラルキーの低いものを礼讃したりしている。ルキアノスの『蝿礼讃』。こう言う逆向きの事が流行っていた。滑稽な転倒を述べるのは、著した人物の技量を披露する手段だった
  • アルチンボルト四季連作は、こう言う、低いものから高いものを称える、逆説的称賛詩の系譜に繋がっている
  • こう言う逆説的表現は、後に風俗画、静物画が新たなジャンルとして隆盛することにつながる
  • これらの流れは、後のカラバッジョ《果物籠》に繋がっていく

だいたいこんな感じですかね。
盛りだくさんで、なかなか面白い講演でした。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「講演会」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事