田んぼに入ったためにかなり汚れたまま「今度洗おう、今度洗おう」と思いつつもほっておいた黒いスニーカー。
バケツに洗剤を入れてゴシゴシ。
靴を洗うのなんて何年振りだろう。
中学生までは毎週ウワバキとかスニーカーを洗っていた。
今日は、そんなお話。
それはまだ僕が分数の「ぶ」の字も知らなかった頃。
幼稚園だったのか、小学校の低学年だったのか、記憶は定かではない。
その日は日曜日。
朝起きて、靴を洗おうとした。
靴を洗うためにいつも使っているバケツがあった。
赤いバケツ。
その日、そのバケツの中には役目を終えた花火たちが詰め込まれていた。
昨晩花火をしたためだ。
まず、その水を捨てに行き、中のものをゴミ箱にいれなければならない。
そうして僕は玄関をあけた。
その当時、僕らは二階建てのアパートに住んでいた。
理由は分からないけど二階の一番端が「うち」だった。
半分寝ぼけながらバケツを持って「下」に向かう。
階段を2つくらい下りたところで視界が揺らいだ。
訳がわからないままぐるぐる回る。
足とか頭とか背中がドカドカする。
それも止まると、つぶっていた目を開けた。
「おお、あっというまにしたについた」
ラッキーと思ってバケツの中の水を捨てに行こうとした。
からっぽだった。しかもバケツの取っ手が壊れてしまっていた。
「あれ? ああ、ぼくこけたんだ。たぶんそんときにみずがこぼれたんだな」
取っ手を直さないとお母さんに怒られるな、でもわざわざ水を捨てに行かなくていいんだからラッキー♪ とか思っていると、不意に頭が濡れていることに気が付いた。
あ、もしかしてこぼれた水を頭にかぶっちゃったのかな。
そう思って、濡れた頭を触ってみた。
「あ、れ?」
手が赤かった。
寒気を感じ、額から頬に何かが伝うのを感じた瞬間、それが「血」ということに気が付いた。
「あ、……いたい」
さっきまでは「ラッキッキー♪」とか思っていたのに、血をみた瞬間から頭にじわじわ痛みが滲んできた。
「いたい、……いたい」
パニックになった。
どうしよう、バケツこわれちゃった。
とりあえずなおさないと、あれ? ハナビはどこにいったのかな。
ちゅうしゃじょうにおちたままだったらおこられるからひろわないと。
でも、足が動かない。
「いたいよ。 いたいよ」
最初僕は「おかあさん、おかあさん」と呼んでいた。
でも、気づかないみたいだった。
そして僕は大声で泣いた。
出せるだけの精一杯の声で泣いた。
自分の存在をわかってもらおうと必死で泣いた。
向かいのおうちのおじさんがきて、お母さんを呼んでくれた。
とりあえず頭にタオルを巻いて僕は車に載せられた。
頭はいままで味わったことのない痛みだったのに、頭の中ではまったく陽気なことを考えていた。
頭から血が出てる。これはもしやカッコイイかもしれない。悟空と同じだ! やばいなぁ。お母さんはなんか慌ててるけど、たいしたことないぜ、もしかして、この情景はあれかな。子供が夜中熱をだして、親がおんぶして必死で病院のドアを叩いているのと同じ状況なんじゃないか。やばい、テレビみたいだぁ。明日学校にいったらみんなに言おう。包帯を頭に巻いて、「たいしたことなかったぜ」っていおう。
まったくかわいくない子供である。
きっと、とりあえずお母さんが来てくれたから安心していたんだと思う。
病院につくと、少しだけ意識が朦朧としていた。
覚えているのはベッドの上。
横を向かされた。
ちょっとチクッとするよ。と、言われて麻酔を打たれた。
その後は頭を縫合されたのだけど、なんとも不思議な感覚だった。
痛みはない、でも、糸が通るのが分かる。
「気持ち悪かったらいってね」
「だいじょうぶ」
よし、明日みんなに言おう。「あたまぬったんだぜ、へんなかんじだった」
ヒーローだ♪
何がヒーローなんだろうか。
結局あたまを縫っただけで終わった。
その後数日間、僕は頭に包帯を巻いて学校(か、幼稚園)にかよって、自己満足なヒーローになっていた。
みんながどう思ったかは知らない。
靴を洗い終えて、日向に乾した。
遠い昔のことを思い出していたけど、とりあえず生きていてよかったんだと思う。
階段から落ちたくらいで子供は死なないと思うけど。
しかし、なんだか長い文章になった。
もう、階段からは落ちないぞ!
何年振りかのアパート(マンションではない)
注、新幹線が通るたびに揺れていた。(今は知らない)
コメント一覧
japan-aid
玲凜
japan-aid
玲凜
最新の画像もっと見る
最近の「ひとりごと」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事